「また忘れちゃった……」
仕事中、ふと閃いたアイデア。たしかメモ帳に書き留めたはずなのに、どこに書いたっけ? デスクの引き出しから出てくるのは、似たような複数のメモ帳。これじゃ、せっかくのアイデアも迷子になるばかり。
本、ネット記事、SNS、ポッドキャスト——毎日大量の情報が頭に入ってくる。「これ、面白いな」「あとで使えそう」と思っても、頭の中はどんどんごちゃごちゃに。アイデアは浮かぶのに、いざアウトプットしようとすると、断片的な知識が迷子になってしまう。
「思考整理」「アイデアノート」と検索しては試すものの、どれも3日と続かない。もっと自然に、もっと効率的に、自分の頭の中を整理できる方法はないのだろうか——。
そんな方におすすめなのが、「ツェッテルカステン」というシンプルな思考整理法です。思いついたときに、思いついただけメモする。その小さな積み重ねが、気づけば混沌とした頭の中を整理し、自分だけの知識体系を作り上げていくのです。
この記事では、「頭の中が整理できない」「知識が点在してつながらない」「アイデアを言語化できない」という方に向けて、なぜツェッテルカステンが “最強の思考整理ツール" と呼ばれるのか、筆者の実践とともにご紹介します。
- シンプルで続けられるメモ術「ツェッテルカステン」とは?
- 記憶の定着効果に適した「ツェッテルカステン」
- 半信半疑で始めた「ツェッテルカステン」で起きた5日間の変化
- 「ツェッテルカステン」を続けて気づいた3つのメリット
シンプルで続けられるメモ術「ツェッテルカステン」とは?
ツェッテルカステン (Zettelkasten)とは、社会学者のニクラス・ルーマン(Niklas Luhmann)が用いたことで有名な情報管理システム。手書きしたメモを効率的に整理・関連付けし、学びやアイディアの大量アウトプットを可能にする仕組みです。
「ひとつのアイデア、ひとつのメモの価値は、文脈によって決まる」そして「その文脈は、必ずしもメモを採録した文脈とは限らない」と気づいたルーマン氏はツェッテルカステンによる分類法を開発。ツェッテルカステンを活用しながら、30年で58冊の本と大量の記事を発表したのだとか。*1
ツェッテルカステン(Zettelkasten)はドイツ語で、英語の ”slip box” を意味する言葉。slip は「小さな紙」を意味します。用意するものは以下の3つ。
- ペン
- メモ帳や付箋など自分の使いやすいサイズの紙
- その紙を入れておくもの
具体的なステップは、以下の通りです。
【1. メモを作成する】
まず、思いついたアイデアや情報をメモに書きます。ひとつのメモにはひとつのアイデアを記載し、できるだけ具体的に表現します。
【2. メモに番号をつける】
各メモの片隅に番号を付け、あとで参照しやすくします。この番号は、ほかのメモとのリンクを作成する際にも使用します。
「1」と「2」の間にカードを挿入したい場合は、以下の画像のように「1/1」「1/2」「1/3」などの識別子をつけます。
さらに「1/1」「1/2」「1/3」との間にカードを挿入したい場合は「1/1/1」「1/1/2」「1/1/3」となります。
【3. リンクを作成する】
関連するメモ同士をリンクさせます。あるメモが別のメモを参照する場合、そのメモの番号を記載します。
【4. 定期的に見直す】
作成したメモを定期的に見直し、新しいアイデアや情報を追加したり、既存のメモを更新したりします。
【5. テーマごとに整理する】
メモをテーマやトピックごとに整理し、必要に応じて別の紙にリンクした番号をリストアップ。これにより、特定のテーマに関する情報を簡単に見つけることができます。
(※画像は筆者が作成)
双方向につながる情報をネットワーク化させ、自分だけの文脈における知識の構築ができるのです。
記憶の定着効果に適した「ツェッテルカステン」
1枚のカードに自分の言葉でひとつのアイディアを書き、それらをリンクしていく「ツェッテルカステン」。このノート術には記憶の定着を助け、学習を深める効果があります。
たとえば、新しい料理のレシピを覚えるとき、ただ手順を暗記するのではなく、「あのソースの作り方に似ているな」「この食材の組み合わせは前に作った料理と同じだ」と結びつけると、自然と記憶に残りやすくなった——このように、新しい知識をただ丸暗記するのではなく、既にもっている知識と結びつけることで理解が深まった経験はありませんか?
関西大学総合情報学部の教授であり『遅考術』(ダイヤモンド社)の著者である植原亮氏は、STUDY HACKERのインタビューで「それぞれが関連づけられながらネットワークのようなかたちで存在」するという記憶のメカニズムについて言及しています。*2
思い出すときにもひとつのものだけをポンと思い出すのではなく、関連づけられた多くの記憶を芋づる式に思い出す仕組みになっています。それが、いわゆる連想です。*2
ツェッテルカステンでは、新しいアイデアを書き留めたあと、過去につくったカードを見返し、それらを結びつける作業を行ないます。この作業を繰り返すことで、バラバラだった知識が、自分だけの意味を持つネットワークとして整理されていくのです。この「関連付け」が記憶定着につながるといえるでしょう。
半信半疑で始めた「ツェッテルカステン」で起きた5日間の変化
筆者は、仕事に必要な勉強をしたいのに時間がとれない、頭の中はアイデアや情報でごちゃごちゃ。「このままではよくない」と思いながらも、具体的な解決策が見つからない——こんな日々が続いていました。
そんなとき出会ったツェッテルカステンを、実際に試してみることにしました。用意したのは100円ショップの「暗記単語カード」。
【実践1日目~3日目】
始めた当初は「これって本当に意味があるのかな」と半信半疑でした。それでも、目についた情報やアイデアを片っ端からカードに書き出していきました。
- 読書中に印象に残ったフレーズ
- ネット検索で見つけた重要なポイント
- 仕事中にふと思いついたアイデア
- 会議での気づき
小さな発見でも、とにかく書き留めることを意識しました。
すると、予想外の変化が起き始めます。カードに書き出すたびに、自然とその情報について深く考えるようになったのです。「これって前に書いたあのカードと関係があるかも」と、自然に考えが広がっていく感覚がありました。
【実践4日目~5日目】
4日目からは、過去に書いたカードを見返しながら、関連するカード同士をリンクさせる作業を始めました。たとえばこんな発見がありました。
- あるビジネス書から「習慣化の重要性」を学び、「重要なタスクへの集中」というカードを作成
- 別の日に「時間管理術」について「本当に価値あるものは何? 優先順位をつける」というカードを作成
- この二つの情報をリンクさせたとき、「タスクに優先順位を設けてルーティン化することで、時間を管理でき、『やることが多すぎるという問題』を解決できる」という具体的な学びにつながりました。
また、別の発見もありました。
- ストレス管理について調べた際、「スケジュールに余裕が必要」というカードを作成。
- 「時間管理術」について調べた際、「スケジュールにバッファを設ける」というカードを作成
- このふたつの情報をリンクさせたとき、「スケジュールに余裕を設けることで、時間の管理にもストレスマネジメントにもつながる
「ツェッテルカステン」を続けて気づいた3つのメリット
実践してみた際、筆者は「情報を関連づけていく点がマインドマップに似ている」と感じました。ただし、マインドマップと違って小さなカードに書くため、失敗しても気軽に書き直せる気楽さがあります。
実践して感じた主なメリットは以下の3つです。
- 思考の整理が劇的に楽になる
頭の中でバラバラだった情報やアイデアが、カードを通じてつながり、整理される感覚を得られました。これにより、新しいアイデアが生まれる土壌が自然と整っていきました。 - 学びが自分の知識に変わる
ただ情報を記録するだけでなく、関連付ける作業を通じて、情報が「自分だけの知識」として定着していく感覚がありました。特に印象的だったのは、学んだ内容を自分の言葉で説明できるようになったことです。 - アイデアが次々と湧き出す
既存のカードを見返しながら新しいカードを書くというプロセスで、過去の知識と新しいアイデアが自然と結びつき、次々と新しい発想が生まれていきました。
また、「ツェッテルカステン」を続けるなかで気づいた、「効果を最大化するためのコツ」はこちら。
- 完璧を目指さない
完璧なカードをつくろうと思うあまり、最初は「どんな内容を書けばいいの?」と迷ってしまいました。しかし、大事なのは、とにかく「思いついたことを記録する」こと。そのあとで関連付けや整理をしながら改善していけば充分です。 - スキマ時間を活用する
忙しい毎日でも、1日5分だけなら時間をつくれるはず。朝食のあと、通勤中、寝る前の5分でも充分に実践できましたよ。筆者の場合は「アイディアを出す日」と「リンクさせる日」をわけて実践すると、より集中できました。
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ツェッテルカステンは単なるメモ術ではありません。私たちの脳の働きに合わせた、深い学習と知識の創造を促すツールです。たった1日5分から始められ、頭の中のごちゃごちゃした情報がスッキリと整理されていく——ぜひ、あなたも試してみませんか?
*1 プレジデントオンライン|「30年で58冊の名著を量産」天才社会学者がやっていた無駄にならないメモの取り方 だれでも天才になれるすごい方法
*2 STUDY HACKER|勉強家ほど要注意? “知識があるほど間違える” という問題は「遅く考える」ことで回避せよ
橋本麻理香
大学では経営学を専攻。13年間の演劇経験から非言語コミュニケーションの知見があり、仕事での信頼関係の構築に役立てている。思考法や勉強法への関心が高く、最近はシステム思考を取り入れ、多角的な視点で仕事や勉強における課題を根本から解決している。