「英語の熟語は覚えるのが大変」
「英語の熟語がどうしてこんな意味になるのかわからない」
そうお考えではありませんか。熟語とは複数の英単語が組み合わさることにより、もとの単語とは違う意味をもつようになる言葉のこと。ひとつひとつの単語の意味は知っていても、組み合わさるとガラッと意味が変わってしまうので、どうしても覚えにくいですよね。それでも、熟語を効率的に覚えるコツを押さえれば、英語のコミュニケーションのさまざまな場面で熟語をサラッと使えるようになりますよ。
今回は、熟語が英語学習者にとって難しく感じられる理由と、効率的な熟語の覚え方をふたつご紹介しましょう。
熟語が難しいと感じる理由
熟語を難しいと感じてしまう原因はふたつあります。ひとつは、日本語にはない前置詞を伴う表現が多いこと。たとえば “get” を使った熟語でも、“get up”「体を起こす」 “get by”「なんとかやっていく」 “get over”「〜を乗り越える」 “get to”「〜に到着する」など、前置詞によってこれだけ意味が変化するのです。ひとつひとつ頭に入れるのは至難の業でしょう。
もうひとつは、単語の組み合わせと、熟語の意味の関連性がわかりにくいこと。たとえば、“on cloud nine” という熟語。個々の単語を見ていくと、“on” =「上の(前置詞)」、“cloud” =「雲」、“nine” =「9」という意味の組み合わせ。単語自体は簡単ですが、じつはこの熟語は「有頂天の」という意外な意味をもつのです。ひとつひとつの単語の意味と、「有頂天の」という熟語の意味のつながりが見えにくいと感じるのも無理はないでしょう。
ここで、大人の英語学習者がやりがちなのが、英熟語の機械的な丸暗記。じつはこの勉強法は効率がよくありません。その理由として、東京大学大学院の池谷裕二教授は、思春期を過ぎると、知識の記憶である「意味記憶」の働きが鈍り、熟語の形と意味を見て覚えただけでは、記憶した内容を思い出すのが難しくなることを指摘します。スムーズに思い出せなければ、熟語の知識を使った効果的なコミュニケーションが困難なのです。
そんな非効率な丸暗記の代わりに私たちがすべきなのは、以下のふたつ。
- 単語のイメージをつかむ
- 背景を理解する
ひとつずつご説明しましょう。
【効率的な熟語の覚え方1】 単語のイメージをつかむ
ひとつめは、熟語を構成している単語のイメージをつかむこと。「イメージ」を通して理解する覚え方は、大人になってから丸暗記に代わって有効な覚え方なのです。池谷教授いわく、脳は、思春期を過ぎた頃から全体のイメージをつくる能力が発達する傾向があるのだとか。個人のエピソードや経験などの思い出に付随して想起される「エピソード記憶」と呼ばれる記憶が定着しやすくなるそうです。
熟語で頻繁に登場するのが前置詞。さまざまな意味や用法がある前置詞の根本には、じつは共通のイメージが隠れています。前置詞のイメージを頭に入れることで、よりスムーズに熟語が理解できるはずです。
たとえば、“off” のイメージは「ポロリととれる」感覚。緊張感をもってくっついていたものが、力が抜けてポロリととれて離れるイメージです。このイメージをつかむと、次のような熟語の意味もつかめてくるでしょう。
- get off「(乗り物)を降りる」
- come off「(ものが)とれる」
“get off” のイメージは、「ポロリと離れる状態を手に入れる(get)」。“get off the bus” なら、バスからポロリと離れることから、「バスを降りる」という意味になります。
“come off” の “come” は「来る」という意味ですが、もともとの意味は「自分の世界の外側にあるものが自分の世界の内側にやってくる」こと。そこから生まれるイメージが「実現」や「現実化」。よって、“My bike chain has come off.” なら 「自転車のチェーンがポロリととれるという状況が実現する」というイメージから、「自転車のチェーンがとれる」という意味になるのです。
前置詞に加えて、基本動詞にもイメージがあります。たとえば “get” のイメージは、「(副詞または前置詞)の状態を手に入れる」です。このイメージをつかむと、以下の熟語の意味をスムーズに理解できるでしょう。
- get up「体を起こす」
【イメージ】「体が上方向へ行く状態(up)を手に入れる」 - get by「なんとかやっていく」
【イメージ】「満足できる状態ではないが、それに近い状態(by)を手に入れる」
“by” は「そばに」→「そのものではなくそのそば」「完全ではないが、完全に近い」 - get over「〜を乗り越える」
【イメージ】「越えた状態(over)を手に入れる」 - get to 「〜に到着する」
【イメージ】「場所に到達する状態(to)を手に入れる」
以上のように、前置詞や基本動詞のイメージをつかむことで、熟語の使い方がよりシンプルに理解できますよ。
【効率的な熟語の覚え方2】 背景を理解する
前置詞や基本動詞のイメージだけではわかりづらい熟語は、歴史や文化的な背景に影響を受けている可能性があります。こうした背景を知ることで、個々の単語と熟語全体の意味のつながりを理解することができるでしょう。
冒頭で紹介した “on cloud nine”「有頂天の」は、元来は米国の気象庁がひとつの雲を9つのタイプに分類し、その最上層部を指す用語でした。雲の上はまさに天国だということから、この表現が使われるようになったと言われています。
また、ボクシングから生まれた熟語が、“throw in the towel”。ボクシングで勝ち目がないときに、セコンドが文字通りタオルをリング内に投げ入れたことから生まれた熟語です。そこから、「負けを認める、さじを投げる」という意味として浸透しました。
単語のイメージに加えて、熟語が生まれた背景から意味を学んでみるのも有効な学習法ですね。
熟語を構成する3種類と、おすすめの学習教材
熟語は、主に「コロケーション」「句動詞」「イディオム」の3種類。それぞれの意味や例はどのようなものでしょうか。また、熟語の学習に効果的な教材もぜひ知っておきたいですよね。
詳細は、時短型英語ジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」でトレーナーとして活躍する “英語の専門家” 中馬剛さんが、以下の約11分の動画で詳しく解説しています。ぜひチェックしてみてくださいね。
- 「コロケーション」とは
- 「コロケーション」の例とおすすめの教材
- 「句動詞」とは
- 「句動詞」の例とおすすめの教材
- 「イディオム 」とは
- 「イディオム 」の例とおすすめの教材
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覚え方を工夫してみることで、丸暗記よりもスムーズに豊富な熟語の意味をマスターできますよ! 今回の記事と動画を、今後の熟語学習にぜひご活用ください。
監修:StudyHacker ENGLISH COMPANY
(参考)
夏谷隆治 著, 池谷裕二 監修(2013),『記憶力を磨く方法』, 大和書房.
森田久司(2010),「英語からことばを考える--英熟語から見えてくる言葉の構造」, ことばの世界:愛知県立大学高等言語教育研究所年報, Vol.2, pp.79-83.
八木橋宏勇(2006),「イディオム学習への認知的アプローチ」, 東京工芸大学工学部紀要, Vol.29, No.2, pp.67-73.
丸山孝男(1997),「英語イディオムの諸相」, 明治大学教養論集, Vol.294, pp.1-12.
今仲昌宏(2007),「概念メタファーによる英語イディオムの学習」, 東京成徳大学人文学部研究紀要, Vol.14, pp.51-60.
時吉秀弥(2019),『英文法の鬼100則』, 明日香出版.
時吉秀弥(2020),『英熟語の鬼100則』, 明日香出版.
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