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日本人が “英語っぽい” 英文を書けないのは「これ」に目を向けていないから

日本人が英語っぽい英文を書けない理由

こんにちは、英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」の英語職人・時吉秀弥です。どのような心理風景が英語の文法を作るのかを考えている人です。今回も英語を話す人の心の世界を通して、英文法の世界を旅しましょう。



※この連載は2017年に実施しました

英語らしい表現・日本語らしい表現

英作文の練習をするために、英語で日記を書いたり、英語でTwitterやFacebookに投稿する人もいらっしゃると思います。

自分で英文を書くようになって気づくことの一つに、 「なんか自分の英文って英語っぽくないんだよね。英語ネイティブの英文のあの感じってどうやったら出せるんだろう?」 というのがあると思います。私もそうでした。

英文にたくさん触れていると、英語は「原因」とか「理由」にこだわる言語だな、と感じることがよくあります。

逆に日本語は「原因」「理由」にはあまり触れたがらない言語だな、と感じます。 例えば、こういう会話。

「日本の歌手で誰が好き?」
「うーん、○○かなぁ。」
「え、何で、何で?」
「え? 何で、って……、何となく。」

こういうパターンって多いですよね。つまり「いちいち理由なんて考えてないよ」というパターン。

「理由なんていちいち聞くなよ。うざいなぁ。」って思うでしょうし、相手にもそう思われたくないから、ガツガツ理由を尋ねるのはあえて控えたりすることも多いと思います。

英語の日常会話は逆で、「何が好き?」と聞かれたら、その次に来る質問はほぼ決まって「何でそれが好き?」です。

日本人が英会話で最初につまずくのはここです。英語の知識が少ないということだけでなく、普段から意見と理由をセットにして考える習慣がないために、理由を尋ねられると、会話でつまずいてしまうのです。

でも結構多くの日本人が「ああ、うまく英語で言えなかったなぁ」ということばかりに目を向けて、それで終わってしまいます。

実はこの "理由を思い浮かべる" ということを訓練によって習慣づけておけば状況はかなり変わってきます。

このため、私が予備校などで授業を行う際には、「意見+理由」のセットを必ず言うようにゲーム形式でパターントレーニングをさせることがあります。これは英検の面接試験などで高い効果を上げています。

英語らしい表現・日本語らしい表現

「原因・理由」が主役になる構文

「英語は日本語よりも、原因や理由の表現を重視している」——これはただの経験的な皮膚感覚なのでしょうか? 実はこのことは、英語と日本語の文法を観察することできちんと証明することができます。

英語では主語に「原因」がやって来る構文が多く存在します。典型的には「無生物主語」の構文と言われるものですね。

英語:The snow delayed trains. (直訳:雪が電車を遅らせた。)
日本語:「雪のせいで電車が遅れた。」

英文では電車が遅れる原因になった「the snow」が主語になっています。主語は文を作るのに欠かせない主役の情報ですから、この文では「原因」が主役、つまり重要な情報として扱われていることがわかります。

ところが日本語文での主語は「電車」です。原因を表す「雪のせいで」は副詞句です。

この副詞は修飾語と呼ばれ、「あってもなくても文が成立する情報」です。要するに、お飾りの情報なわけです。

ということは文法的な立場で見ても、英語に比べて日本語では「理由、原因」は重要視されていない、と言えます。

今度は動詞を見てみましょう。

文を作るために主語は当然大事なものですが、何より大事なのは動詞です。文というのは動詞から全ての手足が生えているといっても過言ではありません。動詞の形が文の形を決めます。

さて、先ほど出てきたdelayという動詞を見てみましょう。

この動詞は、そもそも「原因」を主語に持ってくるようにできているのです。イメージで言えば、delayの前に主語を入れる窪みがあって、その窪みの形は「原因」しか入れないようになっている、といった感じですね。

delayの意味は「遅れる」ではありません。「遅らせる」です。つまり、A delay B. は「AがBを遅らせる。」というのが直訳です

これは日本語話者からすると違和感たっぷりですよね。だって日本語ではデフォルトは「遅れる」であって「遅らせる」ではないからです。

ここにはおそらく英語の(というか、他のヨーロッパ語も含めて)こんな気持ちが隠れているのではないか、と考えることができます。

「え? だって、電車が遅れたくて自分から遅れているわけじゃないでしょ? 雪がそうさせているわけでしょ。雪が電車を遅らせているんだよ。」

だから、delayは『遅らせる』という意味であって、『遅れる』じゃないよ、ということになるわけです。delayという動詞の感覚自体が、「原因」を主語に求めるような型を持っているように見えます。

大学受験や英語の資格試験で出て来るこのような動詞の典型に、enable(可能にする)、make(強制的にさせる)、cause(悪いことを引き起こす)などがあります。

This enables these plants to survive for a month without water.
「このおかげでこれらの植物は水なしで一ヶ月生きることができる。」
(直訳:このことがこれらの植物に、水なしで一ヶ月生き延びることを可能にしている。)

The results made him sad.
「彼はその結果に悲しくなった。」
(直訳:その結果が「彼=悲しい」という形を作った。)

The typhoon caused animals to be driven from their natural habitats.
「その台風のせいで動物たちは生息地を捨てざるを得なかった。」
(直訳:その台風が動物たちに生息地から追い立てられることを引き起こした。)

「英語らしい英文」を書きたいと思ったら、日本語らしい日本語をそのまま英語に直そうとするのではなく、直訳例にあるような、「原因が何かの結果を生み出す」という形の日本語を思い浮かべる癖をつけ、それを上記のような動詞を多用して英語に直すようにすれば良いですね。

英語がこんなに原因を重視する理由は?

前回の「時吉秀弥が解説! 英語で『ここはどこ?』が “Where is here?” にならないわけ」では「自分がカメラになって眺める日本語」と「もう一人の自分が外から自分を眺める英語」というお話をしました。実は、英語が「原因」を大事な要素にしているのには、この「外から自分を眺める」という心理が関係しているのではないかと私は考えています。

例えば、雪が降っていて外出ができない、という状況があるとします。

●日本語の場合
日本語では、自分がカメラになって外を眺めています。
イラストにするとこんな感じでしょうか。

外出はムリだなぁ…

「この雪景色の中、自分はどうするのか」。行動する主体(この文の場合は「私」)に焦点が当たるのが日本語です。

日本語:「雪のせいで、外出ができない。」

主語のはずの「私」が言葉の上から何気無く消えているのは、自分がカメラになることで目の前の風景から消えていることと無関係ではないでしょう。

●英語の場合
英語では自分を外側からもう一人の自分が眺めています。引きで見ているので、遠くから全体を眺める、ということが起きます。

イラストにすると、こんな感じですね。

「雪」という原因が「私」の行動を妨げている

すると、そこでは「自分がいて、その自分に対して、原因である雪がこんなことをしている」という、状況を全体的な因果関係として捉える、ということが起きやすいわけです。

英語:The snow is preventing me from going out.
(直訳:雪が私を外出から妨げている。)

英語を含むヨーロッパ言語が原因を主語にすることが多いのは、言語を育んだ文化的視点、つまりその文化が持つ心の風景が、俯瞰でものを見る癖を持つものだからではないかと、考えられます。

このような俯瞰したイメージを持ちつつ、因果関係を意識し、そしてcauseやenableやmakeのような因果関係を明示する動詞を多用して文を作れば、あなたの英文はより英語らしいものになっていきます。



→連載第3回「『英語の疑問文』はなぜ語順がひっくり返る? 倒置に込められた英語の “気持ち”」

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