「SVOO」の第4文型そのものに、じつは “こんな意味” がこめられていた!
みなさんこんにちは、英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」の英語職人・時吉秀弥です。
前回の「区別しづらい『目的語と補語』『形容詞と副詞』を直感的に見分けるコツ」では、目的語と補語の違い、そして形容詞と副詞とは何か、ということをお話ししました。これがわかった、ということは、学校で習う第1文型から第3文型まで理解ができた、ということを意味します。おさらいしましょう。
※この連載は2017年に実施しました
第1・第2・第3文型
■第1文型( S+V ):自動詞の文。つまり、自分が自分でやる、他者に力をぶつけない、という文。
私が「歩く」という力を自分に作用させることで自分が歩く。他人を歩かせているわけではない。これが自動詞。そして walk の力が及ばない in the park というかたまりは修飾語。
■第2文型( S+V+C ):不完全自動詞+補語の文。「主語が他者に何かする」のではなく「主語の中身が何なのか」を表す文。
BBC is a British public service broadcaster. 「BBCはイギリスの公共放送局です。」
不完全自動詞という名称は、自動詞とは違って後ろに言葉(補語)を必要とするが、かといって他動詞のように「他者に何かをする」という力をぶつけるわけでもない、という「不完全な自動詞」というところから来ています。
■第3文型( S+V+O ):他動詞の文。「主語が他者に何かする」ことを表す文。
「彼」から出る「押す」という力が「ショッピングカート」にぶつかり、「ショッピングカートの位置の移動」という作用を起こしている。
さて、今回は第4文型についてのお話です。
第4文型は「渡す」文型
第4文型は二重目的語構文、つまり動詞の後ろに目的語が2つ続く構文のことを指します。
この文型は基本的に「渡す」という意味を持ちます。そしてここが大事なのですが、「渡す」意味を持たない動詞でも、この文型でその動詞を使うと「渡す」意味が出てくるのです。つまり単語や熟語に独自の意味があるように、二重目的語構文自体が「渡す」という意味を持っているのですね。文型とは「言葉の並び方のパターン」ではなく「意味」のユニット。文型自体が熟語のようなものなのです。では例を見てみましょう。
とても変な文ですね。では、これを二重目的語構文にしてみましょう。
これでわかるように、第4文型で buy を使うと「買う」+「渡す」で「買ってあげる」という意味が出ます。S+V+A+B で「SがAにBを渡す」というユニットなのです。以下、似たようなパターンを比較してみてください(上下2つのうち、上の方は特殊な文脈の場合を除き、ちょっと不自然な文なので(?)をつけています)。
→ I threw Tom a ball. 「私はトムにボールを投げた。」(=投げて、渡した)
(?) I got her. 「私は彼女を手に入れた。」
→ I got her a cup of coffee. 「私は彼女にコーヒーを1つ持って行ってあげた。」(=コーヒーを手に入れて、渡した)
(?) I wrote Andrew. 「私はアンドリューを書いた。」
→ I wrote Andrew a letter. 「私はアンドリューに手紙を書いた。」(=書いて、渡した)
このように、二重目的語構文にすることで、普通の動詞に「渡す」の意味が加わることがわかります。そしてこの「渡す」感覚がわかると、元の英文とかけ離れた日本語訳が出てしまう、応用的な二重目的語構文の意味合いもわかってきます。ここでは代表的な cost の例を見てみましょう。
cost は「費用、コストがかかる」「犠牲を強いる」という意味の動詞です。これに二重目的語の「渡す」の意味が加わると、「その車」が「私」に「たくさんのお金」という「コスト、負担、犠牲」を渡す、ということになります。
「お金」の代わりに「命」が使われることもよくあります。
「その出来事」が「私」に渡す「費用、犠牲」が「私の命」なので、「私が死ぬ」という日本語訳が出ます。cost はマイナスイメージを持つ動詞ですが、そのマイナスな出来事を誰かに渡す、という感じです。
意味の変化:「渡す動作」から、「動作+動作の対象+動作の内容」を表す構文へ
ここから「二重目的語構文の派生的な意味」を見てみましょう。
これまで説明した典型的な二重目的語構文は、
S +「渡す動作」+「渡す対象」+「渡す内容」
の形をとりました。例えば I gave him a book. ならば、「渡す動作」が give で、「渡す対象」がhim 、「渡す内容」が book です。これで「私は彼に本をあげた。」となります。
しかし、「派生的な意味」の二重目的語構文では、「渡す動作」が影を潜めます。つまり「渡す動作」が単純に「動作」に中性化され(これを言語学ではブリーチ(漂白化)と呼びます)、
S +「動作」+「動作の対象」+「動作の内容」
となるのです。「時間がかかる」ことを表す take の二重目的語構文がこれにあたります。
「動作」= took(取った、奪った)
「動作の対象」(「奪う」力を誰にぶつけたか)= me(私)
「動作の内容」(「何を奪ったのか」)= two hours(2時間)
it は「状況」を意味しますから、it took me two hours は「状況が私から2時間を奪った」という意味を出します。そして、「状況」it の具体的内容「そのチケットを受け取ること( to receive the ticket )」は「重い情報」ですから文末に回されるのです。仮主語 it と情報の重さについては第4回「『時間』『天気』『仮主語』に it を使うのはなぜ? it の "正体" 教えます」を参照してください。
次に、これもよく出てくる save の二重目的語構文の例を見てみましょう。
save は「救う」「節約する」「貯金する、取っておく」など色々な意味がある動詞ですが、根っこの意味は「放っておいたら流れて消えてしまうものを、消える前に拾い上げる」ということです。そこから「放っておいたら消えるはずの命を、消える前に拾い上げて救う」(例:You saved my life.「あなたは私の命の恩人です。」)とか、「放っておいたら使って消えるお金を、使う前に拾い上げる」=「節約する、貯金する」という意味が出ます(例:Buy three, and save 2 dollars!「3つ買えば、2ドルお得!」)。
では、You saved me the trouble of looking for the book. に『 S +「動作」+「動作の対象」+「動作の内容」』の構造を当てはめてみましょう。
「動作」 = saved(すくい上げた)
「動作の対象」(「すくい上げる」力を誰にぶつけたか) = me(私)
「動作の内容」(すくい上げた内容) =「その本を探すという手間」
上記の save のイラストを参考にすると、次のような映像が頭に浮かぶのではないでしょうか。
“このままだと私のところに流れ着くはずだった『その本を探す手間』を、あわやというところであなたがすくい上げてくれた。私は助かった。”
→連載第8回「頻出の『間違いやすい文法問題』に直感で正解するには? say, speak, talk, tell の違いもわかる」