「時間」「天気」「仮主語」に it を使うのはなぜ? it の “正体” 教えます

時間、天気、仮主語にitを使う理由

皆さん、こんにちは。英語職人・時吉秀弥です。

前回と今回は「英語の語順の奥義」についてお話をしています。 英語の語順は、2つの根っことなるルールから出来上がっています。前回の「『英語の疑問文』はなぜ語順がひっくり返る? 倒置に込められた英語の “気持ち”」ではそのうちの一つめ、「英語は言いたいことから先に言う」というルールをご紹介しました。

今週は、二つめを紹介します。それは「軽い情報が先、重い情報が後」というルールです。

※この連載は2017年に実施しました

軽いボールが先、重いボールが後

書き言葉と話し言葉、人類の言語の原点はどちらにあるのかといえば、当然話し言葉です。

学者の間では人類の言語は約5万年前に生まれたのではないかと推測されています。一方で、文字が生まれたのは、たかだか5千年前です。

約4万5千年の間、人類は話し言葉しか持たなかったわけですから、言語は話し言葉を中心に出来上がっているものだと考えて良いでしょう。そして、話し言葉というのは、誰かと話すためにあるものですから、会話を中心に成り立っています。

実は、文法成立の秘密の一部は会話の中にあります。つまり「会話がしやすいように、文法は出来上がる」性質があるのです。

さて、会話というのは二者がメッセージをやり取りするという意味で、キャッチボールに例えることができます。では想像してみてください。誰かとキャッチボールをするときに、

  1. まず重くて速いボールを投げて、その後に軽いゆっくりしたボールを投げた方が相手は受けやすいですか?
  2. まずは軽いゆっくりしたボールを投げ、その後に重くて速いボールを投げた方が相手は受けやすいですか?

当然、2の方が圧倒的にやりやすいはずですね。キャッチボールは相手あってのものですから、特殊な事情がない限り、相手が受けやすいようにボールを投げるのが普通です。

そして会話にも、同じことが起きます。受け手、つまり聞き手が理解しやすいように言葉のルールが出来上がるのです。

会話しやすいように文法は出来上がる

軽い情報と重い情報とは何か?

では、言語において「軽いボール」「重いボール」というのは一体何でしょう? それは "情報が軽いか重いか" ということです。

ではどのような情報が軽くて、どのような情報は重いのでしょうか?

結論から言いましょう。「抽象的な情報」が軽く、「具体的な情報」が重いのです。

では抽象的な情報と具体的な情報って何でしょう?

例えば、「ニラ、ピーマン、人参、キャベツ、白菜、ネギ……」を一言で言うと何ですか? 「野菜」ですね。

「米、小麦、肉、野菜、魚……」を一言で言うと何ですか? 「食物」ですね。

前者が具体、後者が抽象です。つまり、「具体」の中に共通する特徴を「抽出」して「イメージ(象)化」するのが「抽象化」という行為です。

抽象語というのは具体的な語たちの最大公約数みたいなものです。

「野菜」という言葉を聞くのと、いちいち「ニラとか、ピーマンとか、人参とか、キャベツとか、白菜とか、……」という言葉を聞くのでは、どちらが楽に頭に入りますか? 短いですし、具体的に隅々まで何かを思い浮かべる必要はないし、当然、「野菜」の方が楽ですよね。

これが「情報の軽さ」です。つまり、「情報が軽い」=「情報処理がしやすい」ということです。

ここまで出てきたお話をまとめてみましょう。

仮主語の it が英語に存在する理由

It’s good for you to study English hard.
「あなたが一生懸命英語を勉強するのは良いことだ。」

文頭の it は仮主語と呼ばれます。これ、For you to study English hard is good. としても間違いではありません。

しかし、it を使った方が「好まれる」とよく言います。なぜこんなことが起きるのでしょう?

仮主語の it が英語に存在する理由

「好まれる」ということは「理解されやすい」ということです。it を使った文の方が理解しやすくなるのです。一体どういうことでしょう?

英語教師の中には、未だに仮主語や仮目的語には「意味はない」と教える人もいるようですが、そんなことはありません。仮主語や仮目的語には意味があります。

それだけではなく「お天気」や「時間」を表す文の主語に使われる it にさえも意味はあるのです。

その意味とは「状況(setting)」です。It is raining. なら「状況は雨が降っている。」ですし、It is eight now. なら「状況は今8時だ。」です。

あらゆる出来事は「状況」と言い換えることができますから、it が超抽象的な言葉だということがわかりますよね。

It’s good for you to study English hard. という文を分解すると、先に「その状況っていいことだよ。」というシンプルな文の骨組み it’s good を相手に投げて、後から具体的で長い情報である「(その状況って)あなたが英語を一生懸命勉強することだけどね。」という for you to study English hard を投げているわけです。

(これと同じことは仮目的語でも起きていますし、関係代名詞で先行詞という短い情報が先に来て、関係代名詞節という長く重い情報が後に来るのもこのせいです。後置修飾も全てこの原理で起きています。これらのことはいずれ、個別の文法事項で解説していきますね。)

前回の宿題の解答です。

さて、前回の宿題を解きましょう。前回の宿題は、

He plays tennis. が疑問文になると、Play he tennis? とはならずに、Does he play tennis? になるのはなぜでしょう?


というものでした。これに対する解答は、「言いたいことから先に言う」+「抽象的な軽い情報から先に言う」の二つが組み合わさって構成されています。

一般動詞には「食べる」「寝る」「走る」などいろいろありますが、それを「野菜」の例と同じように抽象化すると、結局は、全部何かを「する」ということになります。つまり、一般動詞を抽象化すると、do, does, did になる わけです。

大昔の英語では個別の一般動詞を疑問文でそのまま文頭に出すパターンが存在していました。つまり、Play he tennis? だったのです。

しかし近世に入ってから、一般動詞を抽象化した do, does, did を文頭に出すようになってきたのです。個別の一般動詞を文頭に出さず、抽象化(=共通化)して軽くした情報である do, does, did を文頭に出した方が、聞き手が楽だと考えたんですね。

形も揃ってスマートに見えるので、イギリスの学校教育でも奨励されたようです。

疑問文だから、言いたいこと、つまり動詞から先に言う。そして、前に出す動詞を do, does, did にすることで、抽象化して軽い情報にし、聞き手の情報処理の負担を軽くしてあげる。この二つが組み合わさって、一般動詞の疑問文が出来上がったわけです。

同じことは現在完了の have, has, had や、can, will, may など法助動詞と呼ばれる言葉についても言えます。

現在完了の have は「(~してしまった後の=完了の過去分詞)状態を抱えている」という非常に漠然とした抽象的な意味を表します。法助動詞は「話し手の思い、意見」を表す言葉で、will「~だろうと思う」、should「~すべきだと思う」、can「~できると思う」というふうに共通して「思い、意見」という抽象的な意味を表します。

疑問文にして動詞を強調する場合、抽象的な have や法助動詞が文頭に出てくるわけです。

では、be動詞だけはなぜ疑問文で直接文頭に出るのでしょう? それはbe動詞が本来「~という状態で存在している」という非常に抽象的な意味の動詞だからです。

I am a student. なら「私は今、学生という状態で存在している」から「私は学生です。」ですし、I am in Tokyo. なら「私は今、in東京という状態で存在している」から「私は東京にいる。」です。

このようにbe動詞は非常に抽象的な情報なので、軽い情報とみなされます。だから他の動詞の疑問文とは違い、直接文頭に出てくるのです。

これと同じ原理がhaveに働くことがあります。 例えば、たまに Do you have money? と言わずに Have you money? と表現される場合がありますが、これは have が持つ意味の抽象度の高さがもたらす現象でしょう。

→連載第5回「目的語が『あるから他動詞、ないから自動詞』という覚え方の大きな欠点」

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