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英語の音とつづりのギャップを埋める「発音記号」――知っておくとかなり便利なワケ

知っておくと便利な発音記号01

みなさんは、英語の発音記号を学んだことがありますか?

英語の発音記号には、日本語で見慣れないものも存在するため、つい敬遠してしまうでしょう。しかし発音記号は、正確な発音を身につけるためにも、知っておくと便利ですよ。英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」 が、発音記号を学ぶメリットをご紹介します。



カタカナで発音を覚える問題点

発音が苦手な人のなかには、カタカナでルビを振って読み方を覚えた人もいるでしょう。しかし、カタカナで発音を覚える方法には2つの問題点があります。

1つめの問題点は、英語には日本語にない音が存在すること。たとえば、 “right” 「右、正しい」と “light”「光、明るい」。カタカナでルビを振るとどちらも「ライト」ですが、英語の “r” と “l” の発音はまったく異なります。 /r/ は、口を丸めて突き出し、舌先を口内のどこにもつけずに発する音。対して /l/ は、舌先を歯茎にしっかりつける音です。カタカナの英語で発音すると、違った意味合いで伝わってしまう恐れがあります。

2つめは、英語のリズムが変わってしまうこと。日本語は、開音節(「音節」=母音を中心とした音のまとまり)の言語であり、子音のあとに母音が付加されます。一方、英語は閉音節の言語で、子音で終わる単語が大半です。たとえば、 “string” という単語。日本語だと「ストリング」(sutoringu)という5音節の音になりますが、英語だと1音節で発音します。カタカナの発音は、不自然な英語のリズムを生み出してしまうのです。

このような問題点から、英語の発音はカタカナを介さずに習得するほうが効果的。しかし、明治学院大学の高桑光徳教授は、日本人学習者にとって、英語の文字と音声を直接結びつけるのは容易ではないと述べています。なぜなら、文字と音声がおおよそ合致する日本語と異なり、英語は1つの文字に対して発音が複数存在するから。

そこで、発音を知る助けになるのが、次からご紹介する「発音記号」なのです。

知っておくと便利な発音記号02

発音記号のメリット

発音記号を知る最大のメリットは、一度学んで覚えてしまえば、機械音声に頼らなくても正確な発音の仕方がわかること。弘前大学の小野寺進教授は、発音記号の読み方を知っていれば、初級学習者でも新出単語の発音がしやすくなると語ります。聞いた機械音声を復唱するのが苦手な学習者は、発音記号の読み方の習得が、発音のスキルを向上させる手助けになるとのことです。

また小野寺教授いわく、発音記号の知識をもつことは、単に英語話者やネイティブスピーカーから聞いてそれを模倣するだけよりもメリットがあるそう。英語話者からの模倣のみで発音を学ぶ問題点について、小野寺教授は次のように述べています。

日本語の話者が必ずしも正しい発音をしているわけではないとの同様に、英語話者が必ずしも正しい発音をしている訳でもないし、またその音をどのように発するかを指導できない場合がある。また、北米英語とイギリス英語、オーストラリア英語にニュージーランド英語などといったように、イントネーションやアクセントが指導した英語話者の言葉がそのまま学習者にも移る場合もある。そういった問題を克服するためには、正しい発音記号を身につけることが一つの解決策となる。つまり身近に英語話者がいなくても辞書さえあれば正しい発音ができるということである。

(引用元:小野寺進(2016), 『英語リスニング能力を高める方法─発音記号と音読』, 21世紀教育フォーラム, Vol.11, pp.11-19. ※太字は筆者が施した)

英語は、1つのつづりに対して複数の音が存在する言語。英語の “a” の例を挙げると、/ei/( “apron” など)だけでなく、日本語には存在しない /æ/( “apple” など)、 /ə/( “sofa” など)といったさまざまな発音があります。/æ/は口角を引き締め、横にも縦にも大きく開く、「ア」と「エ」の中間くらいの発音。一方の/ə/は、口を狭く開け、舌など口の中をリラックスさせて「ア」と「ウ」の中間くらいを曖昧に発音します。発音記号からどの音で発音するのが適切かがわかると、正しい発音の仕方が理解できるのです。

では、次の3つの名詞はアメリカ英語でどのように発音するでしょうか。太字に注意して発音してみてください。

  1. love
  2. cove
  3. move

つづりを見ると、上の太字の "o" は同じ発音のように見えますが、いずれも異なる発音。3つの名詞の発音記号は以下のとおりです。

  1. love /lʌv/
  2. cove /kóuv/
  3. move /múːv/

1の /ʌ/ は、「ア」と「オ」の中間のような発音。唇は力まず、日本語の「ア」より少し狭く開く音です。

2の /óu/ は二重母音。日本語の「オゥ」に近い発音で、日本語の「オ」のような発音をしたあとに少し口を丸めるのがポイントです。/o/ の上にある記号(´)はアクセントを表し、強く発音すべき箇所です。

3の /úː/ は日本語の「ウ」よりも唇を丸める音。唇を前に突き出すようにして「ウー」と発音します。/ú/ の横の「長」という発音記号(ː)は、長く音を伸ばす箇所です。

発音記号を知っていると、発音の違いが一目瞭然。つづりに惑わされることなく正確な発音ができるのです。

英語の音とつづりが一致しない背景

なぜ英語の音とつづりに不一致が起きているのか、不思議に思いますよね。その主な原因は、15世紀ごろに英国で起きた2つの出来事、「活版印刷の発展」「大母音推移」が重なったためと言われます。

古くから存在する英語は、つづりとほぼ一致した、ローマ字のような読み方をしていました。“time” が「ティーメ」、 “take” が「ターケ」というような読み方です。また、時代が進み発音が変化するにつれて、つづりも比較的柔軟に変化することが頻繁にありました。やがて15世紀に入ると、活版印刷の技術が発展していきます。数万冊もの書物が流通されると、つづりを変化させるのが以前ほど容易ではなくなりました。こうして、つづりの固定化が起きたのです。

そして今度は、15世紀から17世紀にかけて「大母音推移」という母音の音の変化が生じます。結果、 /o/ の音が /u/ に、 /e/ の音が /i/ に変化するなど、一段階舌の位置が上がる現象が起こりました。 /i/ や /u/ のように、舌の位置が一番上にあるものは、それぞれ /ai/ や /au/ のような二重母音へ。以下の図は、大母音推移で起きた発音の変化の経緯です。

知っておくと便利な発音記号04

(図:Martins, C., and Silva, E. M. (2012), “Irregular plurals: an ingenious way of teaching grammar,” EduSer, Revista de Educação, Vol.4, No.2, pp.12-29. をもとに筆者が作成)

【例】
food : /fo:d/ 「フォード」(変化前)→ /fd/「フード」(変化後)
see: /s/ 「セー」(変化前)→ /s/「スィー」(変化後)
blind: /blnd/ 「ブリーンド」(変化前)→ /bláind/「ブラインド」(変化後)
house: /hs/ 「フース」(変化前)→ /háus/「ハウス」(変化後)

(便宜上カタカナで近似した読み方を記しています)


つづりが固定されるなか、音が年月を経て変化したことで、音とつづりの隔たりが生まれました。約600年が経過した現在も、「大母音推移」が起きた原因は明らかになっていません。英語の音とつづりの隔たりには、こうした歴史的背景があったのです。

知っておくと便利な発音記号05

発音記号を効率よく学べるアプリ5選

聞いたことがない英単語でも、正確な発音を示してくれる発音記号。でも、日本語では見慣れない発音記号まで独力で覚えないといけないのは大変ですよね。

そこで、時短型英語ジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」でトレーナーとして活躍する “英語の専門家” 長束啓樹さんが、以下の約8分の動画のなかで、発音記号をスムーズに学べるとっておきのアプリを5つ紹介しています。発音記号の習得にどのように役立つかわかりやすく解説していますので、ぜひチェックしてみてください。



***
音とつづりが一致していないため、どんな発音をするか予測しづらい英語。しかし発音記号を知っておくと、自力で正確な発音の仕方が学べますよ。ぜひ発音記号に注目してみてください。



参考資料
池中雅美(1992),「英語発音表記としての片仮名の功罪」, 北陸学院短期大学紀要, Vol.24, pp.211-219.
今仲昌宏(2017),「音声表記再考」, 東京成徳大学研究紀要, Vol.24, pp.113-124.
高桑光徳(2010),「小学校英語におけるオーラシー能力の育成について」, 明治学院大学教養教育センター紀要カルチュール, Vol.4, No.1, pp.211-222.
小野寺進(2016),「英語リスニング能力を高める方法─発音記号と音読」, 21世紀教育フォーラム, Vol.11, pp.11-19.
成田圭市(2009),『英語の綴りと発音:「混沌」へのアプローチ』, 三恵社.
Martins, C., and Silva, E. M. (2012), “Irregular plurals: an ingenious way of teaching grammar,” EduSer, Revista de Educação, Vol.4, No.2, pp.12-29.
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