社会人になって、必要に迫られて英語学習をはじめる人はたくさんいます。でも、勉強しているのになかなか望むような成果が出なかったり、受験英語の知識も忘れてしまったりして頭を抱えている人も多いはず。英語を話せるようになるには、どのような英語学習のアプローチが効果的なのでしょうか。

どうやら英語は、やみくもに話せばできるようになるというわけではないようです。重要なのは、「インプットを重視しながら」「いま抱える課題に沿って体系的に勉強していく」ということ

東京大学法学部を首席で卒業後、財務省、大手法律事務所勤務を経てハーバード・ロースクールへ留学し、ニューヨーク州弁護士資格も取得した山口真由さんの勉強法、そしてStudyHackerを運営する恵学社の英語パーソナル「ENGLISH COMPANY」が著した書籍『最速最短! 英語学習マップ』(セブン&アイ出版)からも、効果的な英語学習のヒントを皆さまにお届けします。

構成/岩川悟(slipstream) 取材・文/辻本圭介 写真/石塚雅人

英語が苦手だったわたしは、インプット(読む・聞く)を重視して学習した

――山口さんはこれまで、『7回読み勉強法』を提唱し、学習意欲がある人たちから大きな反響を得てきました。英語についても、同じ方法で勉強されてきたのでしょうか。

山口さん:
大学受験までは、英語も『7回読み勉強法』でやりました。簡単にいうと、勉強する単元ごとに7回繰り返し読んで、その内容を覚えてしまうという方法です。ただし、英語の場合は、読むだけでなく「書いて覚える」ことも併用していました。

――もともと英語は得意でしたか?

山口さん:
じつは、受験のときも社会人になってからも、英語は得意ではありませんでした。「話すこと」に苦手意識があり、受験では苦労しましたね。あたりまえですが、英語は日本語ではないので、『7回読み勉強法』といっても、そもそも知らない単語は読めないわけです。それでも、大学受験は教科書の内容を覚えることで乗り切った感じでしたね。

――すると、社会人になってからも英語の勉強には苦労した?

山口さん:
苦労しました……(苦笑)。まず、社会人の英語勉強の目的は「試験に受かること」ではありません。つまり、いくら内容を覚えても実際に会話で使えるようにはなるとは限らないのです。また、留学のために受験したTOEFL®テストでも、話すことが苦手でスピーキングのスコアが伸びず、なかなか大変でしたね。

――どのような方法でそのハードルを乗り越えたのでしょう。

山口さん:
わたしはインプットが得意なので、まず「読む・聞く」を重視して勉強しました。これは留学してから気づいたことですが、話す内容をしっかり理解し、ある程度まとまりのある長い文章を話せて、かつその内容が論理的であれば、発音がイマイチでも話を聞いてくれたのです。もちろん、聞き手によりますが、英語を話すうえでは基本的な文法や語彙の知識と、話す分野の知識がしっかりしていることが大事だと感じました。

――事前にお渡しした、『最速最短! 英語学習マップ』にも書かれているのですが、言語習得の科学「第二言語習得研究」(※母語ではない言語をどのように身につけていくのか、そのメカニズムやプロセスを明らかにしていく学問)でも、インプット中心のトレーニングを積むことが効果的だとされています。読んだり聞いたりしてもわからない英語は、そもそも話したり書いたりすることはできませんよね。「インプット(読む・聞く)」が十分にできていなければ、「アウトプット(話す・書く)」もうまくできるようにはならないと。

山口さん:
そのとおりです。インプットがおろそかになっていると、アウトプットは難しいのではないでしょうか。「とにかく話して英語に慣れよう」という考え方もありますし、それはひとつの考え方なのかもしれません。ただ、学習という意識がない小さな子どもの段階ならいいのかもしれませんが、大人になって英語を学ぶなら、やはり体系的に勉強したほうがいいことは間違いないと思います

――「英語を勉強する」となると、大部分の人は最終的なゴールとして「英語をすらすら話せるようになる」ことをイメージします。だからでしょうか、英会話をはじめたり、ネイティブと交流したり、いきなり「話すこと」から英語学習を始めてしまう人も多いようです。でも、第二言語習得研究ではあくまでインプットを先行させるのが鉄則とされています。

山口さん:
たとえば、いまの時代はスカイプやカフェなどでネイティブと会話をする手段がたくさんあります。でも、そのような方法では、相手との会話は基本的には通じちゃいますよね(笑)。考えてみれば当然で、学習者に合わせて先生が内容を推測してくれたり、フォローしてくれたりするからです。でも、実際のビジネスや留学での授業はそうはいきません。やはり、ナチュラルなスピードの英語を聞き取らなければならないし、相手が理解できる「正しくて論理的な英語」を話さなければなりません。そのためには、先に英語のインプットがどうしても必要になってくる。やみくもに英語をアウトプットしても、なかなか話せるようにならない理由はそこにあるのではないでしょうか。

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――山口さんが本気で英語に取り組んだのは、留学して英語を話す環境に身を置いてからですか?

山口さん:
そうですね。もちろん、TOEFL®テストでも勉強しましたが、最初は海外で自分の英語がまったく通じないのがショックでした。日本に在住する外国人は、やっぱり日本人の発音のクセに合わせて聞いてくれるんですよ。でも、海外ではそうはいかない。そのため、早急に「話す力」をつける必要に迫られました。

――どのようにして、英語を「話す力」を磨いていったのでしょうか。

山口さん:
まず、インプットを重視したのは先に述べたとおりです。加えて、話すことについては、ネイティブの発音や「口の動き」を真剣に観察しました。すると、「thって本当に舌を出すんだ」というような発見がたくさんあったのです。そこで、ネイティブの発音に近づけるように、なるべく意識して真似するようにしました。

――あくまでインプットを重視しつつ、正しい発音なども意識してトレーニングしていたのですね。ちなみに、英語を「聞く力」、リスニングはどのように勉強したのでしょう。

山口さん:
TOEFL®テストのリスニングでスコアを上げるために、時間があれば英語を聞くようにしました。また、ポッドキャストでBBCを聞いたり、ネットでTED Talksを聞いたり。BBCはイギリス英語なので適切な教材かどうかはわかりませんが、TED Talksは内容が面白く、米西海岸で話されている一般的な英語も多いのでおすすめですよ。自分が興味のある話題なら聞きやすいし、あまり「聞けない」ことにこだわらずに、わからない箇所は飛ばしながら聞いていました。そして、全体の内容を理解できるようになってきたら、わからない箇所だけをもう一度聞くという感じで繰り返しました。

――自分が興味のある話題なら飽きないし、そんな音源を選んで繰り返し聞いたということですね。

山口さん:
ただし、「聞き流し」はしませんでした。なぜなら、リスニングは聞く英語のレベルが重要で、まったくわからないものをただ聞いていても、いつまでも聞き取れるようにはならないからです。目安としては、9割くらいの単語が理解できるものが良いと思います。そのくらいであれば、残り1割の単語の意味を推測できるはず。でも、理解できることが8割以下になると、そもそも聞き取れなくなって意味が追えません。すると、ただの苦痛でしかなくなるので、レベルはしっかり選んだほうがいいでしょう。

――9割ということは、ほとんど内容がわかるものを聞くということですね。すると、もともと基本的な語彙や文法をインプットしておくことが大切になりますが、「単語」などはどのように覚えたのですか?

山口さん:
大学受験までは、単語帳を使って『7回読み勉強法』で覚えました。ただ、TOEFL®テストのときに効果を実感したのは、文章のなかで覚えることです。たとえば、100語程度の英文のなかに、難しい単語が少し含まれているような教材を使うと覚えやすくなりました。また、文章であれば、「頭にirがついて否定になる」ような、接頭語や接頭語がちがうだけの単語もたくさん出てきますよね。そんな単語も意識的に覚えることができました。

自己流ではなく、「体系的」に学ばなければ英語は話せるようにならない

――山口さんの英語学習はやはりインプット中心で、とにかく量を読むことが軸だったわけですね。英語を使うことに不自由がなくなったいま、山口さんが考える「英語学習のポイント」とはどこにありますか?

山口さん:
場当たり的にやるのではなく、体系的に勉強することです。留学時代、わたしのまわりにも、ひたすら話すことでうまくなろうとするノリの外国人もいました。でも、あくまで個人的な感覚ですが、そうした方法はあまり日本人に向かない気がします。また、いずれビジネスで使うことを考えると、「通じればいい」という勉強法は危ない面もあります。

――「体系的に学習する」ということが、山口さんの場合は、インプットを重視して知識を積み上げながら学んでいくプロセスだったわけですね。

山口さん:
もちろん、それはわたしがもともと「読むこと」が得意で、受験などを通じて基本的な英語の知識があったからです。それでも、きちんと「自分のレベルに合ったことを体系的に学ぶ」ことは意識していました。結局、語彙や文法がわからない英語をいくら聞いても、ほとんど理解はできません。やはり、基本的な文法や語彙をまず押さえて、「インプット(読む・聞く)」から学習をはじめていくのが合理的だと考えています。

――簡単にいえば、英語を「話せるようになりたい」と思っても、インプットからはじめたほうが、最終的に「急がば回れ」で効率が良いということですね。

山口さん:
無理に話そうとして、「What’s up!」とか「Yeah」などの表現を覚えても、普通はビジネスであまり使えませんよね(笑)。逆に、なんでも丁寧に、「Would I〜」を繰り返すのもおかしい。つまり、いきなり自己流ではじめたりとにかく話したりしてはいけないのです。

――『最速最短! 英語学習マップ』にも、自分の目的と「自分がいまいる場所」をきちんと考えてから勉強することの大切さが書かれています。「基本的な語彙や文法の知識は身についているものの、英文をスピーディーに読むことができない」「英文は読めるが、リスニングになるとうまく聞き取れない」というように、人によって英語のレベルのフェーズはちがいますよね。そして、それぞれのフェーズごとに、最適な学習法は存在します。いまの自分の状態にあてはまるフェーズにフォーカスして、その課題に適した学習をする必要があるといえそうです。

山口さん:
なかには、自分の課題をうまく見つけられないという人もいるかもしれませんが……。もしきちんと指摘してくれる存在が身近にいれば、自分の課題は見つけやすいのではないでしょうか。わたしの場合も、レポート提出の前は必ず英語ができる友人に見てもらいました。すると、「間接表現が多すぎるよ」「ふつうはこういわないよ」とフィードバックされることで、理解が深まっていきました。

――あくまで、いまの自分の「段階」「課題」を客観的に見つけてから、自分の目標に向かって一歩ずつ勉強を積み重ねていくことが大切なのですね。

山口さん:
そうですね。わたしの場合、留学してから「英語学習のための時間」はあまりなかったので、自分が得意な「読む」ことを軸にして、課題を解決していったというのが正直なところです。ただ、「うまく話せない」という課題は明確だったので、自分で音読にも取り組んでいました。あくまで「読む」というアプローチを軸にして、自然に話せるようになるために口の動かし方を慣らしていったのです。

その意味では、インプットを重視しながらも、自分が得意なスキルに寄せていくことで、自分に合った勉強法を見つけることができると思います。

【プロフィール】
山口真由(やまぐち・まゆ)
東京大学法学部在学中3年次に司法試験、翌年には国家公務員Ⅰ種に合格。学業成績は在学中4年間を通じて「オール優」で4年次には総長賞も受ける。2006年4月に財務省に入省し、主税局に配属。08年に退職し、09年から15年まで大手法律事務所に勤務し企業法務に従事。15年から1年間ハーバード・ロースクールへの留学、修了し、ニューヨーク州弁護士資格も取得。現在は、テレビのコメンテーターや執筆でも活躍している。著書に『東大主席が教える超速「7回読み」勉強法』、『東大主席が教える「間違えない」思考法』(以上PHP研究所)、『リベラルという病』(新潮社)、『東大首席・ハーバード卒NY州弁護士と母が教える 合格習慣55:家庭でできる最難関突破の地頭づくり』(学研)など多数。

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