will の意味は「未来」じゃない!? その正体は「心が○○すること」

みなさんこんにちは、英語職人・時吉秀弥です。
現在形は現在を表し、will は未来形である、と教わった人は多いと思います。でも「現在」って、どこまでが現在なんでしょう? 例えば、0.2秒後は「今」に入るのか、それとも「未来」なのか。「1秒前」は「今」なのか「過去」なのか?
※この連載は2017年に実施しました
時制によくある誤解
こんな哲学的な疑問が英語を学習する人の中に出てきてしまうのは、「現在形は現在を表す」とか「will は未来を表す」といった「物理的な時間の捉え方」を英文法に当てはめて教わってしまうことが原因です。言葉は「人間の世界の捉え方」しか表しません。ですから文法において何が現在形で何が未来形なのか、過去形なのか、というのは「物理的にそれが未来なのか、現在なのか」というよりは、「それを現実と捉えるか、それとも現実の外にあると考えるか」というのが正解なのです。
例えば英語の現在形は現在を表さないことがよくあります。
The class starts at 9 a.m. 「授業は午前9時に始まります。」
上の2つの文は昨日も今日も明日も起きることです。つまり、今だけでなく、過去や未来のことも表しています。
この文は未来のことを表しています。現在形が現在を表さないことはざらにあるのです。
英語の現在形の正体は実は「現在」ではありません。「事実」形、「現実」形です。ですから「いつも起きている現実」「事実として決まっている予定」は現在形を使います。「自分にとっての現実の中に存在していること」を現在形が担当するのです。

ここでたくさんの英語学習者が混乱します。「現在形で未来が表せるなら、will はどういうときに使うのか?」という疑問に悩まされるからです。 そこで今回は「will は未来という意味ではない」というお話をします。
willの正体
will の正体は「心が傾くこと」です。日本語でも「心が揺れる」と言いますよね。揺れたあと、パタンと傾いて、「心が決まる」わけです。ここから will の意味の太い2本の枝が出てきます。1つは「意思(~するつもりだ)」。もう1つは「予想(~だろうなぁ)」です。

先ほどの My flight leaves at seven thirty. を My flight will leave at seven thirty. とすると、1つ目のイラストにある「これから先にあるよくわからない未来」のエリアを表すことになります。現実から離れた、あくまで「予想」でしかない未来です。「7時半に出ると思うんだ……。」という感じですね。これって、例えば「飛行機の離陸が遅れるというアナウンスがあったんだ。色々あって、出発は7時半になるだろうって。」というシチュエーションなんです。現実として、確実に遂行される感じで捉える現在形の leaves とはだいぶ感じが違うのです。
一方、「意思」の will は主語が1人称のときによく使われます。
現在の状況から判断して、よし、家に帰ろう、と心がパタンと傾いて意思が決まる感じです。
「野菜買っておいてくれない?」「わかった、買っとくよ。」
I will. は「野菜を買うよ」という意思表明をしています。 また、「意思」の will は「~しようとしやしない」という苛立ちを伴った「相手の頑固さへの非難」でも使われます。
これは擬人法的に、ドアに意思があるかのように見立てて話しています。
「予想」の感覚が作り出す、様々な will の用法
ここまでのお話で、will は「物理的に未来の話だから使う」のではなく、「私はこうするつもりなんだ(意思)」「私はこうなるだろうなと思ってるんだ(予想)」という「話し手の気持ち、心の動き」を表すために使うのだということが見えてきました。will は「意思」や「予想」を表すことによって、結果的に未来の話をすることが多い、というだけの言葉です。
さて、今「未来の話をすることが多い」と言いました。つまり未来だけでなく現在のことも will で表せるのです。
例えば今あなたが部屋にいて、玄関のチャイムが鳴ったとします。
この will は何を表しているかわかりますか? そうです。「今ドアの向こうにいるのは誰か、の予想」ですね。今のこの状況なら、ウチにやってくるのはジェーンだ、と心がパタンと傾いたのです。この「予想」の感覚は、これから解説する will の用法の中に一貫して流れています。
will の中に「現在の習慣」と呼ばれる用法があります。例えば、
Boys will be boys. 「男の子なんだからしょうがない(直訳:男の子は男の子であるものだ)。」
さっきの It will be Jane. では「今の状況から判断して、ドアの向こうにいるのはジェーンだろうな。」と心が傾いたことを表しました。今度は心の中にある「典型的なイメージ」へと心が傾くことを表します。つまり、「犬といえば、普通は『吠える』というイメージが浮かぶなぁ。」=「『吠える』というイメージに心がパッと傾く」ということです。学校英文法では「現在の習慣」という名称がついてしまっていますが、その正体は「連想の will」と言ったほうが正しいでしょう。
これが過去の話になると、「過去の習慣の would 」と呼ばれる用法になります。しかし、「連想の will 」というのと同様、この would も「習慣」というよりは「あの頃と言えば」でパッと心に浮かぶ記憶のことを表します。このことは同様に過去の習慣を表す used to と意味の比較をしてみるとよくわかるでしょう。
「昔はジムに通ったものだ。」(でも今は行っていない。)
「used to +動詞の原形」の意味のポイントは「今は違う」ということを強調している点です。一方で would は「あの頃と言えば、で真っ先に思い浮かぶ、よくやっていたこと。」です。
「大学のときはよくジムに通ったよな〜。」(思い浮かんで、懐かしんでいる感じ)
when I was in college に注目してください。used to と違い、would のときには「あの頃と言えば」を表すフレーズがくっつくことがかなり普通です。さらに、would は「あの頃と言えば、でパッと思い浮かぶ(=心が傾く記憶)」ということですから、「過去、何度も繰り返していたこと」が述べられます。なぜなら、「何度も繰り返す行為=記憶に強く結びつき、思い浮かびやすい」からです。would に often が好んでくっつくのも「繰り返している」ことを表しています。逆にいうと、繰り返していないことは would では表さず used to を使います。
○ There used to be a hospital here. 「かつてここに病院があった。」(今は存在しない。)
「病院が繰り返し存在する」というのは「建ったり潰れたり」みたいな感じで変ですから、would は使いません。used to によって、「過去は存在したが、今は違う」ということが述べられています。

依頼文のwillとwould
最後に、相手に依頼をする時に疑問文で使う will と would についてお話をします。
この will は「あなたは~してくれるだろうかなぁ」という「予想」の形で相手に問いを立てることで、遠回しに依頼をするという形をとっています。昔私は、この will を「意思」だと捉え、「相手の意思」を尋ねることで依頼をしている、と考えていましたが、相手の意思を直接尋ねるのは英語では失礼と考えられるケースがよくありますので、この will は「予想」と考えるのが妥当だと思われます。「予想」が丁寧さを表す理由はわかるでしょうか?
今回の1枚目のイラストにある通り、「予想」は「現実」から離れた世界です。この「距離」感が「遠回しな表現」として利用されているのです。will が would になるとさらに丁寧になります。現実を表す現在形(will)よりも、「過去」(would)という、現実から離れた表現を使うことで、より多くの距離を持つ表現、つまり、より遠回しな表現になるのです。
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willの正体は「心が傾くこと」です。そして、そこから「意思」と「予想」という意味が出て、さらに「予想」から「現在の習慣」「過去の習慣」「依頼」などの用法が現れるのです。色々な意味があるように見えて、「心がパタンと傾く」ことがどの用法にも一貫して意識できれば、will をもっと「自然」に使えるようになるはずです。