覚えにくい「可算名詞」「不可算名詞」を一発理解! 英語における “1個” の正体
みなさんこんにちは、英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」の英語職人・時吉秀弥です。
英語を勉強していると、わからないことがいっぱい出てきますよね。そして中でも日本人(というか、中国、タイ、ベトナム、モンゴル語などをはじめとする東アジア諸国の言語を話す人間)にとって一番わからないことって、ヨーロッパ語の「単数・複数」の感覚だと思うんです。特に、英語の「数えられる名詞」「数えられない名詞」というものを習ったとき、私は気が狂いそうになりました。日本語なら「チョーク1本」って言えるし「パンを1個」って言えるのに、なんで英語ではチョークやパンは「数えられないもの」なのか? 英語の世界では何をもって「1個」と考えるのか?
……正直に言います。実は私、今でも完璧にわかっているわけではありません。ときどき、仕事の相棒であるアメリカ人から「え? そんな使い方もあるの?」と思わされるような指摘を受けたりもします。それくらい悩ましいものなのです。
しかし大方において、「数えられる」「数えられない」の概念は理解可能なもの。そしてこれは決して「ルール」というわけではないんです。その物を「どう感じるか」が全てなんですね。文法とは、その言葉をしゃべる人たちが「世界をどう捉える文化を持っているか」でできあがるのです。
では今回は、英語を話す人達がどんな感覚を使って「数えられる」物と「数えられない」物を区別していくのかを見ていきましょう。
※この連載は2017年に実施しました
区別のヒントは “2種類” の物の見方
今から述べる考え方は認知言語学の世界で広く採用されている考え方で、私個人としては、慶應義塾大学教授の今井むつみ先生の講義を聞いて「そうか!」と目を開かされたものです。今井先生の研究によると、人間は幼少期に次の2種類の物の見方を身につけるのだそう。
- 形として物を見る
- 性質として物を見る
では、まずは1から考えてみましょう。 例えば、目の前にグラスがあるとします。そのグラスをハンマーで砕いてバラバラにします。で、その破片の集まりを見て、あなたはそれをグラスと呼びますか? 呼ばないのが普通ですよね。これが「形で物を見る」ということです。我々はそれを「グラスという形をしているから」グラスと呼ぶのです。その形を崩してしまえば、もはやそれをグラスと呼びません。
次に2を考えてみましょう。 目の前に大きな氷のかたまりがあります。それをハンマーで砕いてみましょう。目の前に散らばったそのかたまりをあなたは氷と呼びますか? 呼びますよね。氷をいくら砕いてもやはり氷です。形がどうなろうと関係ないのです。私たちはそれを「氷という『性質』を持った物」として見ているのです。このような「性質を持った」物と認識される名詞は、英文法の世界では一般に「物質名詞」と呼ばれています。
「数えられる」「数えられない」の見分け方
さて、それでは「形」で見る物と「性質」で見る物、いったいどちらが数えられる名詞でしょうか。
もうおわかりだと思いますが、「形」で見る物が数えられる名詞、つまり可算名詞です。つまり、英語の「1個」の正体は「それ以上崩してはいけない、ひとつのまとまった物の形、輪郭」ということになるわけです。ですから「とあるひとつの」を意味する英語の冠詞である a は「数えられる、1個のまとまった形を持った」という意味を持っている、ということになります。
例えば a fish なら尾頭つきの丸ごと1匹の魚を意味します。つまり数えられる名詞扱いです。しかし、それがスーパーに売っている切り身の魚になれば、a fish とは言えません。some fish となります。つまり数えられない名詞です( some は「ある程度の量」を表します)。なぜなら、「1匹の魚の形」は崩れてなくなり、魚の肉という性質を持った肉片になるからです。魚の切り身はいくら切ってもやはり「魚の切り身」ですよね。同じ魚が見え方によって、可算にも不可算にもなるわけです。
中学や高校で「可算名詞の一覧」「不可算名詞の一覧」というふうに名詞のリストとしてよくわからないまま覚えていた私としては、これに気づいたときには大きな衝撃を受け、また一気に目が開けた気持ちになったことを覚えています。
さて、こうなるとパンやチョークが数えられない名詞として扱われる理由がわかってきます。 例えば食パンをいくらスライスしても、やっぱりそれは食パンですよね。こうやってスライスした1枚の食パンを、英語では a piece of bread と呼びます。bread のかたまりから a piece を取り出す(= of )感覚ですね( of の「取り出す感覚」に関しては第10回『「be made of」と「be made from」の違いが一目瞭然。前置詞 of の根本的な意味』を参考にしてください。)。
例えばペンをボキッと折ったら、もはやそれをペンとは呼ばないでしょうが、チョークは半分に折ってもやはりチョークですね。だから私たちはチョークを形ではなく、性質で見ていることがわかります。だから日本語で「1本のチョーク」と呼ぶところを、英語では a chalk ではなく a piece of chalk と呼ぶのです。
「液体」や「気体」も数えられる場合がある
逆に、我々日本人にとって、液体は数えられないものだ、というのはわりと理解しやすいと思います。しかし、これも見方によっては「数えられる」わけです。
例えばビールは液体ですが、「1本いくら」で売っている場合には「1本の瓶」というまとまった形があるわけです。それを崩して売るわけにはいかないので、ここでは「形」が意識されることになります。そこで one beer、two beers という言い方が成立するわけです。
新聞は売り物の場合はそれを半分に割いて売ったりすることはできませんから、「これ以上分けられないひとつの形」が存在します。つまり数えられるのです。したがって a newspaper という言い方が成立します。
しかし、これが古新聞になると、もはや「ここからここまでで1部」というまとまりがないわけです。1枚の新聞紙を割いて半分にしてもやっぱり古新聞ですね。こうなると数えられない名詞なのです。以下の例文では newspaper に a がついていないことに注目してください。
「気体」も液体と同様、数えられない名詞であることはすんなりわかると思います。しかし、数えられる場合もあるのです。いったいどんな場合でしょう? 一緒に考えてみましょう。
「温室効果ガス」は気体なのに複数形の -es がついています。じつは、温室効果ガスというのは1種類だけではありません。二酸化炭素だけでなく、メタンや一酸化二窒素、フロンガスなどがあります。つまり、これは「種類が複数ある」ということなのです。greenhouse gasses と言うことで「様々な種類の温室効果ガス」という意味を表現できているのです。
よく出る不可算名詞の “数えられない感覚” とは?
最後に、試験でよく出る不可算名詞である information と furniture について述べておきます。私が「情報系」と呼んでいる4つの言葉、information、news、 advice、evidence は、よく出る不可算名詞です。advice =助言は「役に立つ情報」、evidence =証拠は「立証するための情報」ですね。
例えば「バス事故の情報」があったとします。これらを「いつ起きたのか」「どこで起きたのか」「何人怪我をしたのか」というふうに細かく砕いてみましょう。やはりそれらは「バス事故の情報」でしかありません。つまり氷をいくら砕いても氷であるように、情報をいくら砕いても「それについてのより詳しい情報」でしかないのです。ですから不可算名詞です。
furniture の場合は少し毛色が違います。家具である机や椅子やタンスなどはもちろん数えられますが「家具」となると数えられません。なぜでしょう?
では実験をしてみましょう。純粋に「家具」を思い浮かべてみてください。椅子を思い浮かべちゃダメですよ。机もテーブルもダメ。「家具」です。どうです? できないでしょ? それは「家具」という言葉が具体的な椅子や机といったものを表すのではなく、「種類、カテゴリー」しか表さないからです。実体がないわけですから「形」もないわけで、だから不可算名詞なのです。同じ種類のものに「設備」を意味する equipment がありますよ。