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「英文法」の学び方を脳科学的に考えてみた。すぐ忘れるのは “覚え方” がちょっと惜しいから。

もう忘れない! 英文法の学び方を脳科学的に考えてみた

「文法規則を学んでも、なかなか覚えられない……」
「文法書を読んでも、あまり頭に入ってこない……」

そんな方はいませんか?

なぜ私たちは、文法学習に取り組んでも、時間が経つとすぐに忘れてしまうのでしょうか……。もっと効果的に覚える方法はないのでしょうか?

そんなお悩みを解消すべく、"記憶の専門家” である東京大学大学院の池谷裕二教授のお話をもとに、「効率の良い英文法の学び方」を考えてみました。

さらに解決策として、時短型英語ジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」でシニアリサーチャーとして活躍する “英語職人” 時吉秀弥さんに「認知文法」についてのお話をうかがいました。

脳科学と認知言語学の2つの知見にもとづいた学習法で、長年悩みの種だった英文法を誰でも確実に身につけることができますよ。



文法知識をすぐに忘れてしまう理由

英文法を勉強しようと文法書を手に取り、ページをめくってみても、一冊読み終わる頃には大半を忘れてしまう……。読めば理解できるものの、あとから思い出そうとしても思い出せない……。こんな経験のある方は多いはず。なぜ私たちは、学んだ文法知識をすぐに忘れてしまうのでしょうか。

答えを探るうえでヒントになるのが、「記憶の階層」。記憶に関わる脳の部位である "海馬” を研究している池谷教授が、著書『記憶力を磨く方法』内で示しているものです。

もう忘れない! 英文法の学び方を脳科学的に考えてみた01

(図:夏谷隆治 著, 池谷裕二 監修, 大和書房『記憶力を磨く方法』をもとに筆者が作成)

「記憶の階層」では、記憶の種類は5つ。取り出しやすい順に上から並べるとこうなります。

  1. エピソード記憶:個人のエピソードや経験などの思い出とともに想起される記憶
  2. 短期記憶:30秒〜数分の一時的な記憶。7±2しか保持できない
  3. 意味記憶:”本で読んで知ったこと” のような知識の記憶
  4. プライミング記憶:勘違いのもとになったり暗示に利用されたりする記憶
  5. 手続き記憶:体で覚えるものごとの手順についての記憶

さらにこれらは、「顕在記憶」と「潜在記憶」の2グループに分類されます。前者は “思い出そう” とする意志を伴う記憶で、後者は無意識的に想起される記憶です。

5つの記憶のなかで、文法書を読んで得ただけの表面的な知識は「意味記憶」に該当します。無意識的な潜在記憶で、“思い出そう” という意志を伴うものではありません。だから、私たちはなかなか文法知識を思い出せないのです。

もう忘れない! 英文法の学び方を脳科学的に考えてみた02

意味記憶をエピソード記憶に変えれば忘れない

それでは、どうしたら文法知識を覚えられるようになるのでしょう?

池谷教授は、単なる知識の記憶である「意味記憶」を、最も取り出しやすい「エピソード記憶」に変換すればといいと語ります。

「エピソード記憶」に変換するために重要なことは2つ。1つめは「意味づけ」です。

大人がいま、教科書を覚えるように「1853年、ペリー、浦賀にくる」「1860年、桜田門外の変」などと暗記してもうまくいきません。年号だけを覚えることに意味を感じられないからです。知りたいのは、なぜ、どうしてそのことが起こったのかということです。

(中略)大人が学習するときには大きな流れを読み取り、ものごとに意味づけをすると記憶されやすくなります

(引用元:夏谷隆治 著, 池谷裕二 監修(2013),『記憶力を磨く方法』, 大和書房. ※太字は筆者が施した)

なぜこのように表現するのか。どうしてこんな意味を持つのか。まずは大まかな流れを読み取ったうえで、文法規則の裏にある背景を知り、意味づけをする。こうして本質を理解することで、表面的な暗記から脱し、記憶の質を高めることができるのです。

2つめは、自分の感情や経験と関連づけること。

純粋な知識の記憶でも、自分の感情や経験と関連づけてその内容を豊富にすることで、記憶はしっかりと定着します。このことを脳科学では「精緻化(せいちか)」といいます。

(中略)知識を自分のものにするには、できるだけ自分に引き寄せて覚えること。これは大事なポイントになります。

(引用元:同上 ※太字は筆者が施した)

英文法を学習するとき、説明や例文になんとなく目を通して、終わりにしていませんか? それでは精緻化は起こりません。字面を追うだけでなく、経験をもとに実際の情景を思い浮かべ、感情と結びつけてイメージするステップが必要です。

「意味づけ」「感情や経験との関連づけ」によって精緻化を促すことで、表面的な知識である「意味記憶」を、記憶の階層のトップに君臨する「エピソード記憶」にアップグレードできます。そのため、格段に記憶に残りやすくなるのです。

もう忘れない! 英文法の学び方を脳科学的に考えてみた03

(図:同上)

文法知識の "精緻化” には「認知文法」がベスト

記憶の質を高めてくれる「意味づけ」と「感情や経験との関連づけ」。この2つを実践するには、どうすればいいのでしょう?

答えをくれるのが「認知文法」。北海道大学 文学研究院の高橋英光教授は、認知言語学についてこう語っています。

認知言語学とは、心の働きに注目しコミュニケーションや文化と言語の関係を解明しようとする言語学である。

(引用元:森雄一, 高橋英光(2013),『認知言語学 基礎から最前線へ』, くろしお出版. ※太字は筆者が施した)

さらに、札幌大学の濱田英人教授は、その言語観について以下のように述べています。

認知文法では、ことばの意味は認知主体が記述対象のモノや出来事をどのように捉えているかという認知プロセスにある(中略)つまり、ことばの意味には認知主体の「捉え方」が反映されている

(引用元:濱田英人(2013),『認知と言語: 日本語の世界・英語の世界』, 開拓社. ※太字は筆者が施した)

私たちは世界をどう捉え、どう感じているかーーそんな認知プロセスをたどり、ことばの根源的な意味を解き明かすのが「認知文法」なのです。

そのため、こんなメリットがあります。

ネイティブスピーカーが潜在意識として持っている文法感覚を、英語を日本語に訳すのではなく、イメージで捉えられるようになる

(引用元:今井隆夫(2010),『イメージで捉える感覚英文法―認知文法を参照した英語学習法』, 開拓社. ※太字は筆者が施した)

伝統的な学校文法では、一見ランダムに並んでいるように見え、無機質な丸暗記を強いられた文法規則。認知文法はそれとは一線を画す、革新的な文法のとらえ方です。

まず、認知プロセスをもとに文法規則の背景を明らかにし、文法表現に込められた根源的な意味を教えてくれるので、無意味に見えるルールに本質的な意味を見出せます。よって「意味づけ」が実現します。

さらに心の働きに着目するので、文法表現を使う人間の感情と結びつけて理解できます。また文法感覚をイメージでとらえることで、情景とともに思い浮かべやすくなります。よって「感情や経験との関連づけ」も実現します。

「意味づけ」「感情や経験との関連づけ」が同時に叶う。そのため、認知文法は記憶の「精緻化」に最適なのです。

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認知文法で must / have to の精緻化に挑戦してみた

具体例をあげましょう。たとえば、”will = be going to” ”can = be able to” ”must = have to” のような、高校の英語試験で頻出の書き換え問題を覚えていますか? そのなかのひとつ、”must = have to” について、学校ではこう習いました。

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(図:石黒昭博 監修, 桐原書店『総合英語 Forest』をもとに筆者が作成)

この説明をなんとなく眺めているだけでは、「意味記憶」のまま。記憶の質を高めるために、認知文法の力を借りてみましょう。

東京言語研究所にて理論言語学賞を受賞した認知文法のプロ・時吉さんは、must と have to の本質についてこう語ります。

must の根っこの感覚は「絶対」です。(中略)目の前の相手に面と向かって must を使うときは、絶対やれよと相手に強く圧力をかけることを意味します。

(引用先:時吉秀弥(2019),『英文法の鬼100則』, 明日香出版. ※太字は筆者が施した)

もう忘れない! 英文法の学び方を脳科学的に考えてみた06

「絶対やれよ」という相手に対する強い圧力が、文脈に応じて命令になったり、強い推薦になったりするとのこと。さらに主語が一人称(私・私たち)のときは「絶対やろう、やらないといけない」という強い意志・決意を、また主語が三人称(彼・彼女・彼ら)のときはその人たちが抱える義務を表すのだとか。

一方、have to の正体は異なります。

have は持っている」「抱えている」ということですが、義務とか負担には「抱えているもの」というイメージがあります。have to (do〜) は「(〜する)ことに向かって抱えているのだから、やらないとしょうがないじゃない」ということなのです。

(引用先:同上 ※太字は筆者が施した)

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must と have to にはこんな心理的な違いがあり、こう意味づけできるのですね。

一見バラバラに見える文法規則をただ眺め、無機質な暗記を図るよりも、このように本質を理解し、心の動きを鮮やかに思い浮かべるほうが、ずっと記憶に残る気がしませんか?

【新事実】must と have to はこんなに違う!

”must = have to” と学校で習ったけれど、それって間違いだったの? 両者の差はなんとなくわかったけれど、なぜ否定形になるとそれぞれ別の意味を持つんだろう?

今まで「だいたい同じだろう」と思っていた must と have to についての新事実を知り、疑問が尽きない。そんな方も多いはず。

その答えは、認知文法が用意してくれています。認知文法の知見にもとづく「 must と have to の心の動きと本当の意味」をご紹介した約5分間の動画がありますので、ぜひご覧ください!



“英語職人” 時吉さんによる解説で、「英文法がなかなか覚えられない」という皆さんのお悩みを解決できるはずですよ。

YouTube「時吉秀弥のイングリッシュカンパニーch」では、ほかにも英語学習中の皆さんを応援するためのお役立ちコンテンツをたくさんご用意しています。ぜひチャンネル登録をお願いします!

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「記憶の階層」を制する者は、英文法を制する。そう言っても過言ではありません。そして、記憶の質を高めるのに効果的なのは、いま話題の「認知文法」です。

YouTube「時吉秀弥のイングリッシュカンパニーch」では、認知文法のプロ・時吉さんによる「鬼わかり英文法」シリーズを順次公開しています。

せっかく勉強しても忘れてしまう――そんなもどかしい思いはもうこりごり。これからは、脳の性質を生かし、本質を理解したうえで、効率的に文法学習を進めてみませんか。



参考資料
夏谷隆治 著, 池谷裕二 監修(2013),『記憶力を磨く方法』, 大和書房.
森雄一, 高橋英光(2013),『認知言語学 基礎から最前線へ』, くろしお出版.
濱田英人(2016),『認知と言語: 日本語の世界・英語の世界 (開拓社言語・文化選書)』,開拓社.
今井隆夫(2010),『イメージで捉える感覚英文法―認知文法を参照した英語学習法』,開拓社.
墺タカユキ, 川崎芳人, 久保田廣美, 高田有現, 高橋克美, 土屋満明, Guy Fisher, 山田光著, 石黒昭博 監修(2003),『総合英語 Forest(フォレスト)[4th Edition]』, 桐原書店.
時吉秀弥(2019),『英文法の鬼100則』, 明日香出版.
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