なぜ日本人は「英語の前置詞」がこれほど苦手なのか? 安直に「~の」=of と思ってはいけない
”of” は「〜の」という意味だと思っている。
at と in、to と for、over と above などの使い分け方がわからない。
そんな方はいませんか?
前置詞は、日本人英語学習者の苦手な文法項目上位の定番。どうすれば ”苦手” を ”得意” に変え、ネイティブのように使いこなせるようになるのでしょう? そんなお悩みを解消すべく、英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」が、前置詞の効果的な学習方法を探ってみました。
前置詞は英語力アップの決め手!?
at と in どちらを使えばいいの? toとfor、ここではどっち? 英語を使うとき、こんなふうに迷うことはありませんか。
時刻を表すのは at、曜日は on、月や年は in でいいんだっけ......!? 日本語ではすべて「に」ですむのに、英語って面倒くさいなあ。そう感じる方もいることでしょう。
使い分けが難しい英語の前置詞。しかし英語習得において、前置詞の正確な理解は避けて通れません。慶應義塾大学名誉教授、ココネ言語教育研究所所長の田中茂範氏は「英語の前置詞はとても重要な役割を果たす」と語り、日本語との違いをこう説明しています。
英語の前置詞は、役割としては「に」「が」「を」など日本の助詞に相当します。ただし、日本の助詞に具体的な意味はなく、音を聞いて意味内容を連想することはまずありません。一方、英語の前置詞は、例えば、inと聞けば「空間内」を連想するでしょうし、aboveと聞けば「位置的に上」を連想するでしょう。ここに、日本語と英語の大きな違いがあります。英語は、「前置詞言語」だといえるのです。
(引用元:田中茂範(2019),『イメージでわかる・使える英単語【前置詞編】』, アルク. ※太字は筆者が施した)
日本語の助詞は、具体的な位置関係や意味関係を明示する英語の前置詞とは大違い。たとえば、日本語の「AのB」という表現を考えてみましょう。
- ドアの鍵
- 瓶のラベル
- 桶の水
- 大人の漫画
- コロンビア大学の生徒
「の」という助詞を使って名詞の複合形を作りますが、これだけではAとBがどんな関係にあるか、あまりはっきりしませんね。
一方、「前置詞言語」である英語では、AとBの空間関係や意味関係を、前置詞を使って明示します。
- a key to >the door(ドアに合う鍵)
- a label on the bottle(瓶に接触しているラベル)
- water in the tub(桶の空間内の水)
- a comic book for adults(大人対象の漫画)
- a student of Columbia University(コロンビア大学に所属する生徒)
具体的な意味をはっきりと示す、英語の前置詞。こうした性格をもつ前置詞の使い方を習得することは、英語という言語の核心を得ることであり、英語力アップの決め手となる――田中教授はそう主張しています。
「前置詞言語」である英語を、前置詞の理解なしにマスターすることはできません。逆に言えば、前置詞を使いこなせるようになれば、高い英語力の実現に大きく近づくことができるのです。
日本人が英語の前置詞を使いこなせないワケ
では、前置詞をマスターするにはどうすればいいのでしょう。そのためには「前置詞言語である英語」を、言語体系が大きく異なる「日本語」の尺度で見る悪習慣から脱する必要があります。前述の田中教授は、日本人が英語の前置詞を使いこなせない原因についてこう指摘しています。
英語的な発想で前置詞を理解しないまま、日本語に引きずられて英語を使おうとするところに前置詞学習の問題があります。
(引用元:田中茂範(2017),『表現英文法 増補改訂第2版』, コスモピア. ※太字は筆者が施した)
日本語と異なる言語体系を持つ英語を、日本語のものさしで見ようとするから、いつまでたっても正確な理解ができないのです。
たとえば、前置詞 ”of” を「〜の」だと覚えた方は多いでしょう。そのため、冒頭で紹介したこれらの日本語を英語にするとき、すべてに ”of” を当てはめてはいませんか?
- ドアの鍵
- 瓶のラベル
- 桶の水
- 大人の漫画
- コロンビア大学の生徒
私たちは日本語の「〜の」につられて、英訳の際につい自動的に ”of” を当てはめてしまいがち。しかし前述のとおり、5つとも必要な前置詞は違います。このような前置詞の誤用は、不自然な英語を生み出すことにつながります。
単純に日本語と対応させて前置詞を学ぶことには限界があります。日本語的な発想で学ぶだけでは、英語の前置詞を正確に理解し、使いこなすことはできないのです。
認知文法による「イメージ学習」で解決できる
では、英語的な発想で前置詞を学ぶにはどうすればいいのでしょう?
助けになるのが「認知文法」。「ことばの意味には認知主体のとらえ方が反映されている」――そんな言語観をもつ認知文法に基づいた学習のメリットは、ネイティブスピーカーが潜在意識としてもっている文法感覚を、英語を日本語に訳すのではなく、イメージでとらえられるようになること。
訳にしばられた日本語的な発想から抜け出し、ネイティブの思考に沿った正確な理解を手に入れることで、より自然に文法を使いこなせるように。英語的な発想が強く表れている前置詞においては特に、認知的アプローチは非常に有効だと言えるでしょう。
学習の手順としては、まず前置詞の本質であるコアイメージを理解したうえで、そのイメージをさまざまな用法に当てはめて考えると効果的。
英語の前置詞を使いこなすためには、それぞれのコアイメージを理解し、頭の中で個々のコアイメージを投射したり、ある部分を強調したり、回転させたりしながら、そのイメージを操れるようになることが大切です。そのための有効な学習法が、具体的な用例の中で前置詞のコアイメージがどのように働いているかを考えるということなのです。
(引用元:田中茂範(2019),『イメージでわかる・使える英単語【前置詞編】』, アルク. ※太字は筆者が施した)
ひとつの前置詞にはたくさんの意味があり、全部覚えられない。どんなときにどの意味をもつのかわからない――そう悩む学習者も多いですが、まずはコアイメージから学習を始め、実際の用例にイメージを照らし合わせながら学ぶことで解決できます。
認知的アプローチは、英語の前置詞をマスターするのに最適な学習法だと言えるでしょう。
【前置詞クイズ】「渋谷行きの電車」toとforどっち?
実際に前置詞toとforを、認知文法を使ってイメージでとらえる練習をしてみましょう。まずはクイズから。あなたはどちらを使うべきかわかりますか?
A. toとforどちらが正しい?
- I went(to / for) Ginza.
- I left home(to / for)Ginza.
B.「渋谷行きの電車」toとforどちらが正しい?
- a train(to / for)Shibuya
どちらも「向かっている」イメージのあるtoとfor、まぎわらしいですよね......。特にBの答えは、意外に思う方が多いかもしれません。
この2問の正答や前置詞 to と for のコアイメージについて、時短型英語ジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」でシニアリサーチャーとして活躍する ”英語職人” 時吉秀弥さんにうかがいました。認知文法の観点から詳しく解説していますので、ぜひご覧ください!
- 「渋谷行きの電車」では to と for どちらを使う?
- to と for のコアイメージ
- 行き先を表すときの to と for の意味は真逆!?
- 「〜にあげる」give のあとに to がくるワケ
- 「〜に買う」buy のあとに for がくるワケ
- 前置詞 to と for の正しい使い分け方
>>>【英語の前置詞】「to」と「for」の違いと使い分け方|鬼わかり英文法 vol.006
動画によるわかりやすい説明で、「前置詞の使い分けが苦手」というお悩みを解決できるはずですよ。
YouTube「時吉秀弥のイングリッシュカンパニーchチャンネル」では、ほかにも英語学習中のみなさんを応援するためのお役立ちコンテンツを数多くご用意しています。東京言語研究所にて理論言語学賞を受賞した "認知文法のプロ” 時吉さんによる文法解説動画もたくさん! ぜひチャンネル登録をお願いします!
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英語の前置詞は難しい。そう感じるのはあなただけではありません。でも心配無用。認知的なアプローチで「ネイティブスピーカーの文法感覚とのギャップ」を埋めれば、きっと自分でも驚くほど自然に、英語の前置詞を使いこなせるようになりますよ。