「英語を教わるならネイティブから」はキケン!? 彼らには説明できないこともある
「英語はやっぱりネイティブに教わったほうがいいの?」
「自分に合っている英語講師の選び方が知りたい!」
そんな方はいませんか?
語学の学習において、先生選びはとても大切。効率よく学ぶためには、ネイティブと日本人、どちらの講師を選ぶべき? いまの自分に最適な講師の見分け方は? 第二言語習得研究の知見をもとに、そんな疑問の答えを、英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」が探ってみました。
「英語を教わるならネイティブ」の罠
「英語が一番できるのはネイティブ。だから母語話者に教えてもらおう」
「日本人より、アメリカ人やイギリス人に習いたい」
日本ではいまだに、「英語を教わるならやっぱりネイティブ」という風潮があるようです。
しかし、学習者のレベルを無視した過度なネイティブ信仰は危険。なぜなら、語学力を効率よく伸ばすために、ネイティブに教わることが常に最適だとは限らないから。ネイティブに習うのが効果的なフェーズと、必ずしもそうでないフェーズがあるのです。
まずは、日本語の母語話者である私たちに置き換えて、ネイティブの言語能力について考えてみましょう。
「ネイティブの言語力」あなたの場合は?
みなさんに質問がふたつあります。
- あなたは日本語を正しく使うことに自信がありますか?
- あなたは日本語についての明示的な知識を持っていますか?
1は問題ないはず。2の「明示的な知識」とはどういうこと? そう疑問に思った方は、以下の問いに答えられるか、試してみてください。
- 「が」と「は」の違いは?
- 一本(いっぽん)、二本(にほん)、三本(さんぼん)、四本(よんほん)......。助数詞の「本」は、何を基準に発音が変わるの?
- おんな+こころ→「おんなごころ」と「こ」にテンテンがついて「ご」に変わるけれど、おんな+ことば→「おんなごとば」になることはない。なぜ?
わかりましたか? どれも難しく感じる方が多いのではないでしょうか。こんなこと、いままで考えたことさえなかった――そんな方もいるかもしれませんね。(※答えは後述)
普段日本語を話すときに「が」と「は」を自然に使い分けられるし、「いっほん」「にぽん」と誤って言うこともない。「おんなごころ」は自然で、「おんなごとば」は不自然だと判別できる。でも「なぜか」と聞かれると、必ずしも的確な説明が出てこない。ネイティブの言語力とは、本来そのようなものです。
時短学習を叶えるなら「明示的知識」から
ネイティブなら誰しももっている、直感的に言葉を使いこなす力。これは、幼少期から無意識のうちに身につけた、暗示的な言語知識に支えられています。
これと対になるのが、明示的な言語知識。たとえば、日本語なら「が」と「は」の文法的な違いや、「おんなごころ」のような濁音化の現象(連濁)、「おんなことば」のような連濁の例外規則(「ライマンの法則」と呼ばれています)。英語なら英文法のさまざまな法則や音声変化のルールなど......。言葉で説明できる、言語規則についての知識です。
さて、大人が外国語を効率的に学ぶために、まず身につけたいのはどちらの言語知識でしょう? ヒントは、幼い子どもには未発達の「認知能力」が大人には備わっていること。そして、高い認知能力があれば、「明示的知識」を理解して運用することが可能だということ。
人間は10歳以降、認知能力がグッと高まります。そのため、10歳以降に外国語を学ぶときは、認知能力を使って初めに「明示的知識」を身につけ、そのうえで良質なインプットを多く与えたほうが、短い時間で効率よく学ぶことができるのです。
大学英語教育学会SLA研究会の佐野富士子教授らは、明示的知識は言語習得を進めるうえで重要な役割を担っていると語り、その理由として以下の3点を挙げています。
- 明示的知識があると、インプットのなかの特徴に気づきやすくなる
- アウトプットするとき、明示的知識が暗示的知識をサポートしてくれる
- 明示的知識に基づき、誤りを自分で訂正することができる
このように明示的知識は、インプットとアウトプットの両方のプロセスにおいて大切な知識。そのため、大人が外国語を学ぶときは、まず文法をはじめとした言語規則を明示的に学ぶと、効率のいい時短学習が実現できるでしょう。
明示的知識を身につけたいなら「日本人講師」
英語についての明示的知識を体系的に学ぶ。そのために最適なパートナーは、どんな講師でしょう? おすすめなのは、言語習得や英語教授法に精通した、英語力の高い「日本人講師」。立命館大学の田浦秀幸教授は、日本人の先生を選ぶメリットについてこう語っています。
日本人の先生は英語を後天的に身につけていて、英語教育のベースの知識もあります。「こんなふうに考えたらできるよ」というコツを持っていますね。英語力の高い日本人の先生に教えてもらう利点はそこにあります。さらに、母語として日本語がきちんとわかっていますから、日本語との違いという単位で教えてくれますよね。それはわかりやすいし、生徒としても日本語で質問ができるやりやすさがあります。
(引用元:田浦秀幸(2016),『科学的トレーニングで英語力は伸ばせる!』, マイナビ出版. ※太字は筆者が施した)
日本語と大きく異なる英語の言語体系を、日本語との違いを含めて、明示的に学べるのは大きなメリット。特に、第二言語習得や英語教授法の専門知識がある講師ならば、学習者のつまづきがちなポイントもわかっているので、無駄のない指導が可能です。
オールイングリッシュ VS. 日本語指導
「ただ英語が話せるだけ」のネイティブではなく、明示的知識をもつプロのネイティブ講師に習うのがいいのでは? そう思う方もいるかもしれません。もちろん、そのようなネイティブ講師に教わるのも一案でしょう。しかしその場合は、オールイングリッシュで学ぶことに。初心者の場合、英文法や発音などの細かな点は、英語で学ぶと時間がかかってしまうこともあるので、注意が必要です。
たとえば、「仮定法過去完了」の意味や用法を英語で説明すると、"It expresses a condition that was likely enough, but did not actually happen in the past. Use the past perfect in the if-clause. The modal auxiliary + have + past participle in the main clause expresses the theoretical situation that could have happened”。なんだか長ったらしくて説明を理解するだけでひと苦労、という人もいるはず。これよりも、日本語で簡潔に「もし〜だったなら、......だったろうに」という意味や用法を学んだほうが、すんなりと理解できる気がしますよね。
発音でも同じこと。sea(síː)と混同しがちなsheの音(ʃíː)ならば、"Round your lips and keep your tongue flat in your mouth. Make sure that your tongue is not touching your teeth.”のように英語で説明してもらうよりも、「『静かに』と言うときに使う『しー』の音だよ」と、日本語の音と交えて教わったほうが早いこともあるでしょう。
大人が短い時間で効率的に英語を学ぶ――そのためには、まず「日本人講師」とともに、「日本語」を通して英語についての「明示的知識」を身につけることから始めるのが近道だと言えます。
【レベル別】ネイティブと日本人、あなたはどっち?
これから明示的知識を学ぶ段階にいる英語初級者や、現在学習中の中級者は、ネイティブよりも日本人講師のほうが学習効率が高い。では、すでに高いレベルで明示的な知識を身につけた上級者は、どんな講師を選べばいいのでしょう?
じつは、学習フェーズによって、ネイティブ講師を選ぶべきか日本人講師を選ぶべきかは変わってきます。どのくらいの英語力があれば、ネイティブ講師による学習効果を高めることができるのでしょうか?
そんな「自分に合った講師の見極め方」について、時短型英語ジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」でトレーナーとして活躍する “英語の専門家” 高橋秀和さんが説明しています。第二言語習得研究の観点から詳しく解説していますので、ぜひご覧ください!
- 初心者におすすめの学習法と講師の選び方
- ネイティブ講師とのレッスンでは「化石化」に注意!
- ネイティブ講師による高い学習効果を引き出せる英語レベルの目安
- アウトプットによる学習のメリット
- いい講師の見極め方のポイント
動画によるわかりやすい解説で、「自分に合った英語講師の選び方がわからない」というみなさんのお悩みを解決できるはずですよ。
YouTube「時吉秀弥のイングリッシュカンパニーch」では、ほかにも英語学習中のみなさんを応援するためのお役立ちコンテンツを数多くご用意しています。ぜひチャンネル登録をお願いします!
***
英語が一番できるのはネイティブ。だから母語話者に習おう――ついそう考えてしまいがちですが、このような単純化は危険です。大切なのは、学習ステージに合わせて、必要な学習と最適な講師を見極めること。いまのあなたにベストなパートナーを見つけて、効率よく英語を学んでいきましょう。
※日本語クイズの解答・解説
- 「が」と「は」の違いは?
→「が」は格助詞、「は」は副助詞。通常は、名詞文(名詞を述語とする文)・形容詞文(形容詞や形容動詞を述語とする文)の主語は「は」、動詞文(動詞を述語とする文)の主語は「が」で示す。これを入れ替え、名詞文・形容詞文の主語を「が」、動詞文の主語を「は」で示すと、他を排除して該当者を特定するような解釈となる。(※ほかにもいろいろな説明が可能) - 一本(いっぽん)、二本(にほん)、三本(さんぼん)、四本(よんほん)......。助数詞の「本」は、何を基準に発音が変わるの?
→「本」の基本は「ほん」。1、6、8のときは「促音(っ)+ぽん」になる。なぜなら「いち」「はち」の語末は「ち(chi)」、「ろく」の語末は「く(ku)」のように、「無声子音+母音」になっているから。そのような環境では規則的に「ほん」が「促音(っ)+ぽん」に変わる。「一発」「六発」「八発」なども同様。 - おんな+こころ→「おんなごころ」が濁音化するけれど、おんな+ことば→「おんなごとば」になることはない。なぜ?
→日本語では、ふたつの語が結びついて1語になるとき、ふたつめの語の頭の清音(濁点のテンテンなどがつかない音)が濁音に変わる(=連濁)。
(例)おんな+こころ→「おんなごころ」
ちから+ためし→「ちからだめし」
き+つかれ→「きづかれ」
しかし、ふたつめの語にすでに濁音が含まれていると、この現象は起こらない(=ライマンの法則)。
(例)おんな+ことば→「おんなことば」
ちから+こぶ→「ちからこぶ」
き+くばり→「きくばり」