もっと自然な英語が使えるようになる。「自動詞と他動詞」本質的な違いはこれだ!
みなさんは「自動詞」「他動詞」の違いを理解していますか。自動詞と他動詞があることはなんとなく知っていても、日本語の訳に当てはめて、間違った英語や違和感のある英語を使ってしまうこともしばしば。
じつは、日本語と英語では、自動詞と他動詞の使用傾向が異なるのです。その比較から自動詞と他動詞の違いを見ていくと、より自然な英語の言い回しができるようになりますよ。英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」が詳しく解説します。
認知文法から見た自動詞と他動詞の違い
みなさんは自動詞と他動詞の違いをどう覚えましたか?「目的語が必要ないものが自動詞」「目的語が必要なものが他動詞」などと覚えたかもしれませんね。でも、ネイティブの文法感覚がわかる認知文法で学ぶと、もっと本質的な理解ができますよ。
認知文法では、自動詞を「自分から出る力が自分自身にぶつかって作用する動き」の言葉ととらえます。たとえば、“run”「走る」、 “talk”「話す」はともに自動詞。以下の図を見てください。“I run.” の文なら、他者に力をぶつけなくても、話者である “I”「私」自身の動きとして成立しますよね。
一方で、他動詞は「自分から出た力を他者にぶつける動き」の言葉です。たとえば、“throw”「投げる」や “send”「送る」など。以下の図の “I throw a ball.” のように、「投げる」動作には “a ball”「ボール」という別のものが必要ですね。単独で使ったら、「何を?」「誰に?」などと、力をぶつけられた他者の正体について、さらに質問を受けそうな動詞を他動詞ととらえるとよいでしょう。
動詞を力の方向としてとらえると、自動詞と他動詞の区別が簡単にできるようになります。ただ、実際にアウトプットするときは、自動詞・他動詞の区別の知識だけでは足りません。なぜなら、日本語と英語では世界のとらえ方が異なるから。その違いが、日本語と英語それぞれにおける自動詞・他動詞の好まれやすさに影響を与えているのです。
自動詞・他動詞と日英の視点の違いの関係
日本語を英語に直訳したら不自然で冗長になった、逆に英語を日本語に直訳したらなんだか違和感を覚えた、そんな経験はありませんか。典型的な例のひとつが、無生物主語の文。以下の対訳を比べてみましょう。
- Bad weather made us stay at home.
- 悪天候が私たちを家にいさせた。
1は、無生物 “bad weather” 「悪天候」が主語の文。直訳すると2のようになりますが、なんとなく変な日本語に感じますよね。「いさせた」は、自動詞「いる」が使役の助動詞「させる」にくっついて、他動詞に変化したもの。もっと自然な日本語訳は、「悪天候のせいで、(私たちは)家にいなければならなかった」となるでしょう。
今度は、先ほどの自然な日本語訳を使って、以下の英語の訳を比べてみましょう。
「悪天候のせいで、(私たちは)家にいなければならなかった」
- Because of bad weather, we had to stay at home.
- Bad weather made us stay at home.
1は直訳した英訳。2は他動詞 “make”「〜に……させる」を使った英訳です。1よりも2のほうがコンパクトに見えますね。英語では、2のような文を好む傾向があるのです。
なぜ、日本語では他動詞にすると違和感を覚える一方、英語では他動詞を使う傾向があるのでしょう。それは、話者の視点の違いと関わりがあるのです。
東京大学の池上嘉彦名誉教授は、人間は出来事を2通りの視点でとらえると語ります。一方が、出来事全体をとらえ、事の成り行きや状況の変化という観点から出来事を注目しようとする視点。もう一方が、動作主としての主体に注目し、それを際立たせる形で表現しようとする視点です。日本語話者は前者の視点、英語話者は後者の視点をもつと言われています。
先ほどの例の場合、以下の図のような視点の違いがあります。
日本語では、話者から見てどう状況が変化したのかに注目する傾向があります。上の例の場合、日本語では「家にいなければならなかった」という状況が最も重要なのです。原因である「悪天候」は補足情報。また、話者自身は視界に入っていないので、話者である「私たち」は明示する必要がありません。よって日本語は、状況が「おのずからなる(変化する)」という自動詞の表現をより好みます。
一方英語は、あたかも場面の外から話者の様子を眺めているかのように描写する言語。別の視点に立って、話者としての自分がどのような力を他者にぶつけているか、もしくはぶつけられているかに着目する言語です。場面の外から見ているため、上の例の “us” 「私たち」は、動作の受け手として視点に入っています。そのため、力をぶつけられる “us” も言語化しなければなりません。
さらに英語には、無生物である “bad weather”「悪天候」を、生物扱いとして表現する特徴があります。上の例では他動詞 “make” を使って、“bad weather” が “us” に力をぶつけている様子を示しています。英語では「何/誰が、何/誰を(に)、どうする」という他動詞の表現をより頻繁に使用するのです。
この考え方を理解すると、次からご紹介する感情表現の日英のギャップ、英語を使った論理的な説得の仕方も把握することができますよ。
「驚く」= “surprise” ではない理由
感情表現の表し方の違いは、自動詞を好む日本語と他動詞を好む英語のそれぞれの特徴と関わりがあります。以下の図のように、感情は自発的に人の内部に起こるとみなされる日本語は、感情の原因に重きを置かない言語。一方英語は、感情を引き起こす原因を重視する言語です。
(図:畠山雄二編, 田中江扶、 谷口一美、 秋田喜美、 本田謙介、 内田聖二著, 『ことばの仕組みから学ぶ和文英訳のコツ』をもとに筆者が作成)
たとえば「私はそのニュースに驚いた」のような意味の文。日本語は感情の原因(=ニュース)を重視しないため、「私」が主語に。
しかし英語は感情の原因を重視するため、原因(=そのニュース)が主語に来て、 “The news surprised me.” (そのニュースは私を驚かせた)となります。感情の原因を重視しないなら、 “I was surprised at the news.” のような受け身形に。英語の受け身形は、原因を明らかにしないことで「責任をぼかす」ときに使います。
以上を頭に入れて、次の日本語をより自然な英訳にしてみましょう。動詞 “bore” 「〜を退屈させる」をヒントに考えてみてください。
- 私は退屈だった。
- その本は退屈だった。
正解は、以下のとおり。
- I was bored. (私は退屈だった)
- The book bored me (us). (その本は退屈だった)
1の主語は、感情を経験している「私」。退屈にさせる原因が書かれていないため、受け身形にします。対して2の主語は、感情を引き起こす原因の「その本」。「その本」が原因で、「退屈」という感情を「私(私たち)」に引き起こしたという因果関係が成立します。この因果関係を、他動詞 “bore” で表現しているのです。
このように、日本語では同じ「退屈だった」の形であっても、英語では違う形で表現することがあります。感情表現を含んだ英文では、主語を原因とするか、感情を経験する人とするかによって、文の組み立て方を考えていくようにしましょう。
説得しやすい英文にするには
日本語と英語の比較から自動詞・他動詞の使い分けを見ていくと、自動詞・他動詞の違いだけでなく、英語で論理的に説得できるポイントも理解できますよ。いったいどのようなポイントなのでしょうか。
答えは、東京言語研究所にて理論言語学賞を受賞した認知文法のプロであり、時短型英語ジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」でシニアリサーチャーとして活躍する ”英語職人” 時吉秀弥さんが、以下の約9分の動画のなかで説明しています。認知文法の観点から詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
- 自動詞と他動詞の違いがわかるメリット
- 直訳すると変に感じる日本語訳の例
- 自動詞の文は〇〇に注目する表現
- 他動詞の文は〇〇に注目する表現
- 英語で好まれる表現の仕方
- 英語で説得しやすくなるコツ
***
日本語は自動詞を好み、英語は他動詞を好むという違いがわかると、自動詞と他動詞の使い分けだけでなく、日本語と英語の対訳のギャップや、表現の仕方の違いをものにできますよ。さらに、相手を正確に論理的に英語で説得するときにも大いに役立ちます。今回の記事と動画で学んだことを、ぜひ英語でのプレゼンや会議などに応用してみてください。