勉強でも仕事でも、重い腰がなかなか上がらず、着手し始めるのに時間がかかることがあります。そんな状況を打破するには、“とりあえず始めてみる”といいですよ。今回は、同じ作業を行うにつれ没頭状態になっていくメカニズムを生かし、やる気を起こす方法をシチュエーション別に紹介します。

なぜ「とりあえず始める」べきか

徐々にやる気が出る「作業興奮」とは?

「作業興奮」という言葉をご存知ですか? 嫌々でも作業を始めてみると、徐々に気分が盛り上がり夢中になっていく状態を表す言葉です。もともとは、ドイツの精神医学者エミール・クレペリン氏が行なった「作業曲線」という研究が発端。それに着想を得た心理学者の内田勇三郎氏が、性格検査・職業適性検査として「内田クレペリン精神検査」を完成させました。実はこれが国産の心理テスト第一号です。

同氏が独自に吟味を重ねたところ、作業を行う人間の心理過程には「意思緊張」「興奮」「慣れ」「疲労」「練習」という5つの因子が複雑に、しかしかなり法則的な形で働きあっていることが分かったそうです。

そのなかの「興奮」という因子が「作業興奮」にあたります。

「やる気スイッチ」ONには工夫が必要

薬学博士・東京大学・薬学部教授の池谷裕二氏、コピーライターの糸井重里氏らが共著した『海馬/脳は疲れない ほぼ日ブックス』では、「脳のほぼ真ん中にある側坐核が働き、脳内物質が分泌することでやる気は出てくる」と伝えています。

側坐核の神経細胞は簡単に活動しませんが、ある程度の刺激がくると活動し始めるそうです。いったん活動が始まると、側座核は自己興奮するので動きが活発になるのだとか。特別やりたいことではなくても、やっているうちに気分が乗ってきて集中力が高まるのです。

それがいわゆる「作業興奮」の状態。「まずは動く→側坐核を刺激→没頭状態へ」ということです。

なお、どういう課題を与えたとき脳が一番活性化するかを調べたところ、簡単すぎる課題のときは脳の血流量が上がらず、難しすぎる課題はむしろ低下したそうです。しかし、少し頑張ればできるという程度の課題だと、血流量が増えて脳が活性化したのだとか。(能力開発工学センターのサイトより)

つまり、重い腰がなかなか上がらない、着手し始めるのに時間がかかる、やる気が起こらないというときは、少し頑張ればできる簡単な勉強や仕事からとりかかり、徐々に集中力を高め、本腰を入れていくのが良いというわけです。ちなみに、「笑い」や「元気」などをテーマに年間300回ものセミナー・講演を行う大谷由里子氏は、「単純作業で達成感があるものが(作業興奮に)利く」といいます。

それらを踏まえ、次に具体的な行動を説明していきます。

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1 勉強を始めるときの場合

勉強を始めたいのに、なかなかやる気が出ないときは「得意な科目」「好きな科目」「労力が低いもの」「単純作業ですむもの」から始めましょう。なおかつ「達成感」や「少し頑張ればできる感」を得られるもの、「サッと終えられるもの」がいいですね。おすすめは以下です。

・数学の公式を覚える
・昨日覚えた数学の公式を書き出す
・昨日覚えた数学の公式問題を1~2問解く
・英単語の暗記
・昨日覚えた英単語を書き出す
・漢字の暗記
・昨日覚えた漢字を書き出す
・教科書やテキストを数ページだけ音読

2 朝出勤して仕事を始めるときの場合

朝、会社に出勤して仕事を始めようとしても、気分がいまひとつ乗らないときがあります。そんなときは、とにかく「単純作業」がおすすめ。そして少しだけ頑張ってサッと終わらせなければならない作業を選ぶといいでしょう。例えば以下のとおり。

・簡単なデータ入力――午前中には仕上げたほうがいい
・簡単な伝票整理――すぐに終わるが、いったん始めたら中断しにくい
・勤怠表などの入力――業務ではないのでサッと終わらせたい
・パソコン内の整理――業務ではないのでサッと終わらせたい
・メールやデータの仕分け作業――すぐに終わるが、いったん始めたら中断しにくい

3 重たいタスクに着手しなければいけない場合

非常に重いタスクに取りかかろうとする際も、重い腰が上がらないものですよね。そんなときは、その重いタスクにかかわる「資料の仕分けや整理」がおすすめです。

よく「作業興奮=脳のウォーミングアップ」と表現されることがあります。つまり、重ーい仕事があとに控えているときも、資料整理でウォーミングアップすれば良いのです。資料を整理しながら見ていると色んな気づきもあるので、ますます脳が刺激されますよ。

4 心から嫌いな「科目」あるいは「業務」を始めるとき

学生なら誰にでも嫌いな科目、ビジネスパーソンなら嫌いな業務はあるものです。しかし、始めないわけにはいきません。そんなときでも、実はおすすめの作業があります。それは、

・鉛筆をナイフなどで削ること

科学教育・研究を推進しているリバネスは、ビクトリノックス・ジャパンらとの共同研究で、ナイフで鉛筆を削ることによる脳活動への影響を調査しました。その結果、学習前にナイフを使用することによって、集中力が維持され、学習効果が高まる可能性が示されたそうです。集中力を維持できれば、やる気はあとからついてきます。

作家のトルーマン・カポーティは、ナイフで鉛筆を何本も削ってから仕事に取りかかったそうです。なぜならば、1ダースほど削ると、「さあ、いいかげん原稿に取りかかろう」という気になるから。実は理にかなっていたのですね。

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シチュエーション別「側坐核」を刺激して没頭する方法をご紹介しました。なかなか勉強や仕事を始められないときは、「とりあえず動け」と自分にささやいてみましょう!

(参考)
奥野宣之著(2013),『読書は1冊のノートにまとめなさい』 ,ダイヤモンド社.
池谷裕二著,糸井重里著(2002),『海馬/脳は疲れない ほぼ日ブックス』,朝日出版社.
笠原彰著(2017),『気持ちの片づけ術』,サンクチュアリ出版.
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