数十年前ならともかく、いまデスクワークが中心の人で、「パソコンを使わない」という人は皆無でしょう。情報を数多く扱う時代です。たしかに、パソコンでしかできない作業も数多く存在します。
しかし、「要領よく仕事を進める」という点でいくと、「手書きが力を発揮する」と語るのは、脳の機能を活かした人材開発を行なう作業療法士の菅原洋平さん。そのメカニズムを解説してもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹
【プロフィール】
菅原洋平(すがわら・ようへい)
1978年8月30日、青森県生まれ。作業療法士。ユークロニア株式会社代表。国際医療福祉大学卒業後、作業療法士免許を取得。民間病院精神科勤務後、国立病院機構にて脳のリハビリテーション業務に従事。その後、脳の機能を活かした人材開発を行なうビジネスプランをもとにユークロニア株式会社を設立。現在、東京・ベスリクリニックにて外来を担当するかたわら、企業研修を全国で展開している。『あなたの人生を変える睡眠の法則』(自由国民社)、『「めんどくさい」が消える脳の使い方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「できない自分」を脳から変える行動大全』(扶桑社)、『「やらなきゃいけないのになんにも終わらなかった……」がなくなる本』(WAVE出版)など著書多数。
手書きのほうが脳にかかる負担は小さい
脳科学の観点から見た場合、仕事の要領をよくするための方法のひとつに、「手書きをする」というものがあります。なぜなら、パソコンで文字を打つよりも手書きをするほうが、脳にかかる負担が小さいからです。
これは、みなさんが実際にあることを試してみるとわかります。それは、しゃべっていることと別の言葉を書くというもの。じつは、手書きの場合にはしゃべっていることと別の言葉を書くこともできるのですが、パソコンの場合はそうできないのです。
そのため、パソコンを使うのか手書きをするのかにより、仕事や勉強の質にも差が生まれます。なぜかと言うと、手書きの場合にはしゃべっていることと別の言葉も書けることからわかるように、メモをしながらも思考をめぐらせることができるからです。
そうして、上司やお客さまなど誰かの言葉をメモするにも、自分なりの言葉に変えたり疑問点を加えたりなど、咀嚼したかたちでメモを残せます。言われた言葉をそのまま残すことしかできないパソコン入力と比べると、その後の行動、その結果としての成果に大きな違いが生まれます。
学生時代の授業のノートを思い出してもらうとわかりやすいかもしれません。先生の板書をそのままノートに書き写しただけでは記憶に残らなかった一方、自分なりの言葉に変えたり疑問点を加えたりしながらノートをとったときは、なぜか覚えがよかった。そんな経験があるのではありませんか? これが、思考をめぐらせながら手書きをするメリットです。
そのままメモするのではなく、自分なりの「Q&A」を添える
では、仕事の要領をよくするにはなにをどのように手書きすればいいのでしょうか。ビジネスパーソンには「書く」場面が数多く存在しますが、ここでは上司の指示を聞いてToDoリストをつくるようなシーンで考えてみましょう。
ToDoリストですから、やるべきことを忘れてしまっては大問題です。つまり、しっかりと記憶にとどめることが絶対不可欠です。
そうするには、アウトプットが有効だと脳科学の研究によって示されています。記憶したいことをただインプットするよりも、誰かにそれを説明するなど、アウトプットをしたほうが強い記憶になるのです。
そこで、自分がアウトプットするのを前提として、「Q&Aにする」という手法が効果的です。上司の指示をそのままメモするのは、インプットしているだけに過ぎません。一方、指示を聞いて浮かんだ疑問と、それに対する自分なりの回答を書きとめるのは、紛れもないアウトプットです。
上司の指示を聞いてやるべきことを書いたら、それについて「どんな課題がありそうか?」といった疑問を書き、「こんな課題にぶつかりそうだ」など自分なりの回答も書くのです。
すると、記憶に残りやすくなるだけでなく、やるべきことについてイメージ化することにもつながります。いわば事前にシミュレーションができているため、「そうだ、これをやらなければいけないんだった」とノープランでとりかかるのと比べれば、格段にスムーズに要領よく仕事を進められるようになるのです。
Q&Aを書くのは、私も普段のメモでやっています。私はビジネスパーソン向けに睡眠改善についてアドバイスする仕事もしていて、それに関連して睡眠学会に出席したとき、こんなメモをとりました。「週末の寝だめで回復する?」といった疑問、それに対する自分なりの回答を書き込んでいます。
「尺度」を意識してメモすれば、頭のなかを整理できる
また、なかには「普段から手書きをしているけれど、要領よく仕事をできているように感じない」という人もいるかもしれません。
そういう人には、「なんらかの尺度で分けて書く」ことをおすすめします。そうする理由は、これができていないと、頭のなかを整理しづらくなってしまうからです。
たとえば、大きなプロジェクトの長期的な目標と、「今日の○時までにやらなければならない」ような短期的なタスクを一律に並べて書いていませんか? たしかに、それらはともに「やらなければならないこと」かもしれませんが、数か月先に達成したいことと今日達成したいことが並列していれば、混乱してしまうのも当然です。
そこで、なんらかの尺度で分けてみてください。書き込む内容によって、時間のほかに物事の大小、あるいは場所など、適した尺度があるはずです。
頭のなかを整理してまとめるとは、「いまはこういう状況だから、次はこうしよう」と、「次の行動のイメージ化をする」ことだと私は考えています。そうするために、先の「Q&Aにする」と同様に、尺度で分けて書くことも効果的なのです。
【菅原洋平さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。