最近、書籍や雑誌、テレビなどで田中角栄(1918-1993)が特集されることが多く、「田中角栄ブーム」が再燃していると言われています。なぜ今、田中角栄にこんなに注目が集まっているのでしょう?

若手のビジネスパーソンにとっては、田中角栄と言われてもピンと来ないかもしれません。田中角栄の活躍はすでに歴史上の出来事だし、田中角栄から何かを学ぶといっても自分とはスケールが違う。だいいち自分は政治家じゃない。田中角栄ブームなんて、政治に関心のある一部の人の間でだけ起きていることなのではないか。そう考える若い人は多いことでしょう。

しかし、田中角栄の政治哲学、人生哲学には、今のビジネスパーソンが学ぶべき要素が詰まっているのです。その理由は、高等小学校卒業という学歴ながら、総理大臣まで上り詰めた実績が語っています。彼は、強烈な人心掌握術を持っていました。また、膨大かつ明晰な知識と、徹底してやり抜く実行力から「コンピュータ付きブルドーザー」と呼ばれていたという話もあります。

「私が田中角栄だ。小学校高等科卒業である。諸君は日本中の秀才代表であり、財政金融の専門家ぞろいだ。私は素人だが、トゲの多い門松をたくさんくぐってきて、いささか仕事のコツを知っている。・・・・・・一緒に仕事をするには互いによく知り合うことが大切だ。われと思わん者は誰でも遠慮なく大臣室にきてほしい。何でも言ってくれ。上司の許可を得る必要はない。・・・・・・できることはやる。できないことはやらない。しかし、すべての責任はこの田中角栄が背負う。以上。」

(引用元:Spotlight|リーダーシップを学ぶならこの人しかいない!「田中角栄名言15選」

これは、44歳で大蔵大臣に就任した際に、大蔵省幹部を前にして行った挨拶です。彼独特の思いが現れていますね。また、それに先立つ郵政大臣時代には、職員のだらけた勤務態度の原因が省内の二大派閥にあると突き止めると、すぐに二大派閥のボス同士を人事異動で更迭させました。これはほんの一例ですが、田中角栄の大胆さは、さまざまなエピソードに見ることができます。

日本が発展するために激動の時代を推進した田中角栄流の生き方から、私たちは何を学ぶことができるのでしょうか。彼の哲学を見てみましょう。

素早く決断・実行する

休日の東京・目白の田中邸には、朝から各界、各層の陳情客が100人単位で列をなしていたそうです。田中はいつも、一人一人順番に陳情の内容を聞き、「よし分かった」、「それは出来る」、「それは出来ない」とその場で陳情をさばいていきました。

田中が「分かった」と言ったものに関しては100%実行されたといいます。口癖は、「結論を先に言え、理由を三つに限定しろ。それで説明できないことはない」。そして、田中は「『できない』と断ることは勇気がいること」だとも語っていたのだそうです。

やってみたい仕事、リスクのある挑戦。できるかできないか、チャレンジしてみようかやめておこうか、いろいろ考えた挙句尻込みしてしまうことはありませんか。物事はシンプルに、理由を三つに絞って考えてみましょう。田中にしてみれば、「できない」と考えることは忌避すべきこと。「できない」と考えるよりも「できる」理由を三つ考えてみてはどうでしょう。そうして即断したら、あとは100%実行に移すのです。

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政治の原点は市井にあり

田中は、「政治家を志す人間は、人を愛さなきゃダメだ」と説いています。頭のいい人は理論重視で、現実の人間を軽蔑しがち。しかし政治家は、八百屋のおっちゃん、おばちゃん、その人たちをそのままで愛し、彼らの希望を聞くべきであり、それこそが政治の原点なのだと田中は話しています。

田中は、「これからは東京から新潟へ出稼ぎに行く時代が来る」、「俺の目標は、年寄りも孫も一緒に、楽しく暮らせる世の中をつくることなんだ」と語っていました。これらの言葉には、田中の地元・新潟の人々の期待に答えなければならないという思いが詰まっていたのです。

仕事が毎日のルーティーンになってしまい、そつなくこなすことだけが目的となり、情熱を失ってしまうことはありませんか。仕事が面白くなくなったときは、自分が誰のために仕事をしているのか、考えてみてはどうでしょうか。社員のため、顧客のため、家族のため、夢を実現したい自分のため。働く原点を、思い出せるかもしれません。

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将来を見据え、ビジョンを示す

田中は、「雪国と都会の格差の解消」「国土の均衡ある発展」を唱え、自動車道や新幹線のような大規模事業から、山間部の各集落が冬でも孤立しないためのトンネル整備など、多様な公共事業を推進しました。

また、郵政大臣時代の1957年には、全国の民放テレビ放送36局の一括免許交付に踏み切り、「今後15年くらいでテレビは1,500万台を越えると見込まれます」と答弁。その通りにテレビは大量生産され、各家庭に普及していきました。田中には、鋭い構想力と予見性があったことがわかります。

なにか目新しいビジョンを示したい、イノベーションを起こしたいと考えるなら、将来を見据える力を田中に学びましょう。将来を表現する強い言葉には、その通りに実現する可能性が秘められているのです。

名前を覚える

学生時代、英和辞典を隅から丸暗記して、覚えたページは破り捨てたという驚異的な記憶力で、田中は有権者の名前、家族の年齢、悩み、仕事など大量の情報を記憶し、瞬時に思い出していました。政治家としての全盛期には、田中のもとに届いた8,000枚もの年賀状の差出人は、ほとんど面識のない選挙民が大半でしたが、すべてに目を通して記憶していたのだといいます。

そんな田中でも、相手の名前をどうしても思い出せないときがあったそう。そんな時は「あなた誰だっけ」と聞き、相手が苗字で返すと「そうじゃない。苗字は知っているが、名前を聞いているんだ」と言ったというエピソードがあります。名前を覚えることが、すべての気遣いの元だと考えていたのですね。これは政治家だけに必要な要素ではありません。すべての仕事には相手があります。相手のことを覚え、きちんと思い出す。ビジネスパーソンに不可欠なマナーであると言えるでしょう。

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発想力と権限をもった政治家が指揮しないと、役人も国も動きません。田中にはその力がありました。そして、田中が一番大事にしていたのは、「現場の声に耳を傾け、できることを実行し、できないことを約束しない」ことだったのです。

「分かったようなことを言うな。気の利いたことを言うな。そんなものは聞いている者は一発で見抜く。借り物でない自分の言葉で、全力で話せ。そうすれば、初めて人が聞く耳を持ってくれる。」
「人間は、やっぱり出来損ないだ。みんな失敗もする。その出来損ないの人間そのままを愛せるかどうかなんだ。政治家を志す人間は、人を愛さなきゃダメだ。」

(引用元:地球の名言|田中角栄の名言

「コンピュータ付きブルドーザー」と呼ばれた田中ですが、芯は人間味のあふれる政治家だったことがうかがえます。政治や人にかける熱い思い。ビジネスパーソンの私たちも大いに学びたいものですね。

(参考)
後藤謙次監修(2016),『人を動かす天才 田中角栄の人間力』,小学館.
石原慎太郎著(2016),『天才』,幻冬舎.
Wikipedia|田中角栄
地球の名言|田中角栄の名言
Spotlight|リーダーシップを学ぶならこの人しかいない!「田中角栄名言15選」