なにかを選択するときに迷ってしまうのは、誰しもが経験することです。試験でも解答するのに迷いに迷って、いろいろ考えた末に選んだ答えが間違っていた……そんな経験をしたことがあるかもしれません。

そんなとき、棋士の加藤一二三さんはある指針に従って判断を下していると言います。今回は「神武以来の天才」と呼ばれ、最近は「ひふみん」の愛称でも人気の加藤さんが長年頼りにしてきた、決断するための秘訣をご紹介します。

【格言】
直感のほうを選ぶ

将棋の対局では、「長考に好手なし」という不思議な現象がしばしば起こる。「下手(へた)の考え休むに似たり」で、ぐるぐる堂々巡り、ただ迷っているだけ、ということも多い。持ち時間をほとんど使って、最後のほうで思いついた手がバカにうまく見え、ふっと指してみたらそれが大悪手、ということもある。「なんだ、最初に見えた手がやっぱり一番よかったのか」と悔やんだ経験は誰しもあるだろう。

加藤一二三九段は現役時、直感力、読みの力、いずれも超一流だった。では、考えた末に、後で浮上した候補手と比較をする際にはどうしたのだろうか。かつて加藤は、こう語っていた。

「直感の手とあとから読んだ手とだいたい価値が同じくらいのときがあるでしょう。その場合には、わたしなんか直感のほうを選んでいる。あとからのほうは、だいたい欲が出てきて思考的にもどうもおかしいところがあるかと思いましてね。それで直感のほうを選ぶ」(『数理科学』1971年1月)

「直観は過(あやま)たない。過つのは判断である」という有名な言葉もある。時間をかけて検討し、迷った際には直感を信じる。それもまた、ひとつの指針であろう。

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自分の直感を信じることは、自分自身を信じることに他なりません。もちろんなんの根拠もなく直感に従うのではなく、加藤さんのように長年にわたり「読みの力」を鍛え抜いてきたからこそ活きるものだと言えます。

「ここぞ」というときに自分の直感を選び、悔いなく前へと進んでいけるようになるためには、やはり普段からのたゆまぬ努力を積み重ねることが必要なのでしょう。

【棋士プロフィール】
加藤一二三(かとう・ひふみ)
1940年1月1日、福岡県嘉穂郡(現・嘉麻市)に生まれる。54年、14歳(当時史上最年少)で四段。58年に18歳でA級八段、60年に20歳で名人挑戦(いずれも史上最年少)。82年、名人位を獲得。タイトル通算獲得8期。2017年、現役引退。現在は「ひふみん」の愛称で、テレビなどでも活躍中。

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