中原誠 なにが起きても動じることなく、 強くしなやかに生きるための秘訣【棋士たちの言葉 第8回】

勝負事にかぎらず、世の中にはときに「想定外」とでも言うべき出来事が起こります。そんな思いもよらないことが起こったときにどのような行動をとるかによって、その人の考え方や生き方が如実に表れます。

今回は、棋士・中原誠さんの座右の銘とでもいうべき故事とともに、まわりの環境の変化に左右されない、強くしなやかに生きるための秘訣をご紹介します。きっと仕事や勉強において、ハードルを乗り越える際のヒントになるでしょう。

【格言】 人間万事塞翁が馬(じんかんばんじさいおうがうま)

中原誠十六世名人の棋風は、若いころは「自然流」と呼ばれた。将棋は、無理のない自然な手を積み重ねていくことができれば、自然と勝利に近づいていくものである。

中原は現役時、好んで色紙に「人間万事塞翁が馬」と揮毫した。それは中国の古い哲学書『淮南子(えなんじ)』に記された故事に由来している。

むかしむかし、中国の北方の塞(とりで)の近くに老人が住んでいた。老人は、飼っていた馬に逃げられてしまうという不幸に見舞われる。その後その馬は、胡(こ)の国の駿馬(しゅんめ)を連れて帰ってくるという幸運があったものの、その駿馬に乗った老人の息子は、馬から落ちてしまうという不幸もあった。しかし、そのため、息子は兵として戦争に行かされずに済んだ、という幸運があった。

「人間(じんかん)」とは、この世のこと。勝負師ならずとも、人生には自分の力を超えたところでさまざまな幸運、不運が起こる。それがまた、次にどのような幸運、不運を呼ぶのかはわからない。したがって、起こったことはすべてあるがままに受け止める。それが有為転変、なんでも起こり得る世の中を生きていくうえでの要諦なのだろう。

*** 最善を尽くしながら、起こる結果についてありのままに受け入れ、その地点からまた最善を尽くしていく――。このように、流れにむやみに抵抗しないしなやかな姿勢こそが、本当の意味での「打たれ強さ」を育んでいくのでしょう。

ネガティブな出来事にも動じない心が育つと、いつでも自分の目標や行動に集中できるようになります。結果として、ネガティブな出来事が発端となり、思わぬポジティブな出来事がやってくるのかもしれません。

【棋士プロフィール】 中原誠(なかはら・まこと) 1947年9月2日、宮城県塩竈市に生まれる。57年、高柳敏夫名誉九段門下。65年、四段。70年、八段。72年、名人位に就き、以後通算15期獲得。十六世名人の資格を得る。タイトル獲得総数は64期(歴代3位)。2009年、現役引退。

 

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