皆さん“自伝的小説”というジャンルをご存知ですか? 作家が自分の生い立ちとその時に関わった人を様々な思い出ととも書き連ね、悩みや葛藤を経験しながら成長する過程を描く物語です。その中には、作者の今を形作る出会いや、別れ、印象的な出来事が、モチーフともに効果的に描かれています。育った時代が違うとはいえ、青年期に抱える悩みにはそう大きく違いはないはずです。
今回はおすすめの自伝的小説を3本を紹介しますので、春休みにじっくり読んでみてはいかがでしょうか。

井上靖『あすなろ物語』『しろばんば』『夏草冬濤』『北の海』

井上靖自身がモデルの主人公洪作の、幼少から青年になるまでの自伝的な作品です。三部作として
・『しろばんば』は静岡県伊豆湯ヶ島で過ごした幼少時代
・『夏草冬涛』は旧制沼津中学校の生徒だった頃
・『北の海』は沼津中学卒業後の沼津での浪人生活の1年近くが中心。
旧制第四高等学校で柔道に明け暮れる(本人は柔道4段で北陸代表)様子を生き生きと描かれている
・『あすなろ物語』は、3部のまとめと社会人となってからの友情が中心

「あすは檜になろう,あすは檜になろうと一生懸命考えている木よ。でも,永久に檜にはなれないんだって!それであすなろうと言うのよ。」「貴方は翌檜でさえもないじゃありませんか。翌檜は、一生懸命に明日は檜になろ うと思っているでしょう。貴方は何にもなろうとも思っていらっしゃらない。」

(引用元:『あすなろ物語』井上靖)

有名な『あすなろ物語』の一説です。何か、心に訴えかけてくるものはありませんか?

yoko815
苦手の文法を克服! TOEIC815点を獲得し、国際会議でスピーチ。英語力を大きく変えた3ヶ月の科学的トレーニング。
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五木寛之 青春の門 8部作

大作家として知られる五木寛之氏の青春小説は、8部作の大作です。

「第1部 筑豊篇」、「第2部 自立篇」、「第3部 放浪篇」、「第4部 堕落篇」、「第5部 望郷篇」、「第6部 再起篇」、「第7部 挑戦篇」、「第8部 風雲篇(単行本化されていません)」

『青春の門』は作者が少年時代に住んだ筑豊を舞台に、主人公の上京、成長と挫折の人生を描く大河小説です。時代も、太平洋戦争中の昭和時代から始まります。九州・筑豊の炭鉱で、義母・タエとののふれあいや波乱に満ちた人生から始まり、東京、北海道、ロシアと点々と舞台は移ります。
貧乏学生でアルバイトにあけくれ、自分の血を売りながら毎日をしのぐシーンは作者の青春時代そのものであり、当時の日本の風景がまざまざと蘇ります。学生運動や、自暴自棄な生活の中で、社会のもつ矛盾にまきこまれ、「持たざる者」としての自分を強く意識し、何かを求め彷徨う信介には、根底に自分探しのさすらいがあります。

『馬鹿も利口も命は一つ』

(引用元:青春の門「第1部 筑豊篇」五木寛之)

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宮本輝

宮本輝氏の青春小説は、自身ではなく父親がモデルとなっており、現在は以下の7部作です。

「流転の海」、「地の星 流転の海 第二部」、「血脈の火 流転の海 第三部」、「天の夜曲 流転の海 第四部」、「花の回廊 流転の海 第五部」、「慈雨の音 流転の海 第六部」、「満月の道 流転の海 第七部」

主人公の松坂熊吾(作者の父親をモデル)が破壊的に破天荒だけど、優しく、子供伸仁(50歳の時にできた初めてできた作者を投影。伸仁が20歳になる頃、熊吾は70歳。)を愛して、「お前が二十歳になるまでは絶対に死なんけんのう」と決断します。子供が無事に成人して、独り立ちしているところを見届けたいと願いますが、数奇な「宿命」にいたるところで翻弄されます。

ユニークな登場人物との裏切り、対決、逆転のストーリーが、映画を思わせるようなシナリオです。ユーモアも散りばめられています。現在まだ七部で、第九部で完結予定です。

「男は自分の自尊心よりも大切なものを大切なものを持って生きにゃあいけん」

(引用元:「花の回廊 流転の海 第五部」宮本輝)

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いかがでしょう?
どれも読み始めると、一気に読んでしまうほど、主人公と登場人物が生き生きしています。また、歴史で習った昭和の様子など、今とはまるで違う日本の文化がリアルに分かる点も興味深いです。簡単な、自己啓発やハウツー物もいいですが、たまにはじっくり主人公の壮大なドラマを一緒にたどってみませんか。思春期特有の悩みや葛藤など様々な経験をして、1人の人間として成長していく姿は、あなたをきっと励ましてくれますよ。
たまには最初から読み返してみたくなりますよ!