「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということわざがありますが、現代社会を生きるビジネスパーソンにとって、この言葉は参考にならないでしょう。情報量が多く、変化がめまぐるしい現代においては、働きながら “学び続ける” ことが求められています。
では、仕事と勉強を両立するには?——この問題を解決するのは困難に思えますよね。ですが、インプットとアウトプットを頑張りすぎなければ、両立も不可能ではないのです。
今回の記事では、仕事と勉強を両立するための “努力しない勉強法” を、実践例とともに紹介しましょう。
「スキマ時間に3分読むだけ」でいい
教科書や勉強用の本には、すべて目を通すべき——そう考えているなら、効率化のためにその固定観念を捨ててみましょう。本は必要なところだけ読めばいいのであって、インプットは2〜3分で充分です。
京都大学に首席で合格した経験をもつ実業家の粂原圭太郎氏は、本をすべて読もうとすると「記憶に定着せず、多読もできない」と指摘します。
本は「本当に読みたい」と思えたところ、必要な箇所を読めばいいわけで、無理して全部読む必要などありません。
(カギカッコ内および枠内引用元:プレジデントオンライン|京大首席が実践する10秒で本を読む方法)
筆者にも、本を最初から最後まで読んだのになぜか頭に入っておらず、もう一度読まなければならなかった経験があります。いま思えば、“読むべき箇所” を見極め、必要なところだけ読めばよかったのかもしれません。
また、必要なところだけ読むというやり方は、忙しいビジネスパーソンに適しています。本を読む時間がない……と思っても、ちょっとしたスキマ時間ならあるもの。必要なところを読むだけであれば、短時間でもできます。実際、粂原氏は「出かける前の2~3分にも、10~30秒でも時間があれば本を開」くそう。(カギカッコ内引用元:同上)
じつは世界では、著名な大学が、粂原氏が述べた方法と類似のメソッドを推奨しています。それは、「スキミング」と呼ばれる読書術。テキストの詳細を省き、得たい情報だけをすくい読むという方法です。
スキミングは、次の3つの手順で行なわれます。
- 始まりと終わりを確認する
- 各章の主要な情報を得るのに必要な量だけ文章を読む
- 著者が方向を指し示す箇所・強調する箇所などに注目する
米・ノースカロライナ大学のウェブサイトによると、スキミングは「全体像」や「要点」をつかむのに最も効率的な方法なのだそう。つまり、この方法は読む時間や量を減らすだけでなく、要点を判断する力を育むのにも有効なのです。
(参考:The University of North Carolina at Chapel Hill|Skimming)
しかし、最初から最後まで読むクセのある人にとっては、いわゆる “流し読み” のスタイルには違和感があるのではないでしょうか? 筆者もそのひとりでした。「本当にそんな読み方で頭に入るのかな?」と思い、スキマ時間を使ったスキミングを1週間試してみることにしましたよ。
上に示した3つの手順に入る前に、目次を読み、気になる章に付箋を貼ってからスキミングに挑戦。案の定、1冊めは苦戦し、うまく読めている実感を得られませんでした。しかし、2冊め、3冊めと進めるうち、重要なのは著者が強調したい箇所をつかむことだと気づきました。
そこで、先ほどの3つの手順にあったことをふまえ、次のような箇所に注目しながら何冊も読み続けたところ――
- 章の始まり・終わりの文章
- 「しかし」「ところが」「問題なのは」など、主張が変わる言葉
- 「つまり」という前の文の要約を示す言葉
しだい慣れ、WEB記事をチェックするような感覚で就寝前や出勤前にサッと読む習慣がつきました。たった2~5分の積み重ねで、1週間に読めた本は合計10冊。
次の画像は、筆者の読書記録です。掘り下げて学びたい内容には、水色のアンダーラインを引きました。
当初、筆者はスピードを意識して焦って読んでいましたが、大切なのは速度の調整だと気づきました。たとえば、具体例は流し読みして、著者の主張・反対意見・結論など重要なところは “理解できる速度” でゆっくり丁寧に読むということです。
飛ばして読むにしろ、内容を理解していなければ意味がありません。速度を調整しつつ、スキミングで要点をつかみながら読むことに慣れると、飛ばした箇所も含めてひとつの文脈としてとらえられるようになりました。つまり、その章で筆者が述べたいことの全体像がわかるようになったのです。
また、意外にも疲れているときのほうが効率的に読もうとする心理が働くため、はかどりやすかったですよ。仕事で勉強時間を奪われていると感じるなら、スキミングでインプットの効率を上げてみてはいかがでしょうか。
「頭のなかで思い出すだけ」でいい
「理解するためにはアウトプットが大事」という言葉はみなさんもよく耳にすると思います。ただ、問題を解いたりノートに書き出したりしたくても、仕事が忙しいとなかなか机に向かえないもの。ところが、机に向かわなくても、ただ “思い出す” だけでアウトプットになるのです。
スタンフォード大学オンラインハイスクール校長の星友啓氏は、「頭の中の記憶をたどって答えを思いだそうとする」のは、効果的な学習法だと述べます。これを「リトリーバル」(=Retrieval:検索練習)と呼ぶのだそう。(カギカッコ内引用元:AERA dot.|スタンフォード大学オンラインハイスクール校長が伝授「あらゆる年代に使える」3つの勉強法)
ノートや教科書で答えを探すより、自力で内容を思い出すほうが難しいもの。つまり、簡単に答えがわかるより、苦労して答えを見つけ出すほうが脳の機能を幅広く使えて、より学習内容が記憶に定着するのです。
さらに、リトリーバルには理解していない部分や忘れている部分を再認識する効果もあります。認知科学者のプージャ K. アガルワル氏の研究によると、この学習法を行なうことで、客観的に自分の理解力を知るメタ認知向上の傾向も見られたのだとか。(参考:Washington University in St.Louis|Using Retrieval Practice to Increase Student Learning)
テキストを見ずに記憶をたどろうとすると、完全に覚えていない限り、どうしても思い出せない空白部分が見つかるもの。「理解していないのはこの部分だ」とわかりますよね。つまり、自力で思い出すことは “わかったつもり” になるのを防ぐためにも効果的なのです。
そんなリトリーバルを、筆者も語学の勉強に取り入れてみました。試験が近づいているため、何度も問題集を繰り返す時間はありません。料理中や待ち時間、あるいは散歩などの勉強道具がない状態のときに、問題集でミスした内容を頭のなかで思い出し、覚えているかどうかをテストしました。もちろん、ノートを手に取る機会があれば、赤で直した解答を読み、正しい答えも確認しました。
リトリーバルを試してみると、 “わかっている” と思い込んでいた基礎的な文法がなかなか正確に思い出せないことに気づきました。そう、筆者は基礎文法を “わかったつもり” でいたのです。「簡単だからわかるはず」という過信は、じつは落とし穴だったわけですね。
思い出すのに苦労する体験があれば、答えを求める心理が働きます。「間違えて覚えていた……!」と認識するのは少し恥ずかしい体験ですが、より答えを意識しやすく、しっかり覚えていられますよ。さらに、いつでも手軽にアウトプットできるのは大きな利点。「忙しくてアウトプットできない」と悩まなくても大丈夫です。頭のなかで学習内容を思い出す習慣さえあれば、アウトプットを日常に取り入れることは可能ですよ!
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仕事も勉強も自分の時間も大切にする——これは、欲張りなことではありません。本記事を参考にしながら、二兎も三兎も追ってくださいね。
プレジデントオンライン|京大首席が実践する10秒で本を読む方法
The University of North Carolina at Chapel Hill|Skimming
AERA dot.|スタンフォード大学オンラインハイスクール校長が伝授「あらゆる年代に使える」3つの勉強法
Washington University in St.Louis|Using Retrieval Practice to Increase Student Learning
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。