「本音で話そう」では本音を引き出せない。部下の気持ちがわかる上司が心がけていること

部下の本音を引き出している男性上司

社会活動するなかにおいては、生まれ育った時代や環境が異なる他人との共存が求められます。しかし、相手を理解できないケースは多いものです。プライベートなら、「わからない相手のことはわからないままでいい」というスタンスで問題ないかもしれませんが、ビジネスとなれば話は変わります。

チームの成果を最大化しようと思えばメンバー間での信頼関係構築が欠かせず、そうするためにも「本音」での対話が必要でしょう。人事コンサルタントの曽和利光さんが、部下の本音を引き出せる上司が意識していることを明かしてくれました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】
曽和利光(そわ・としみつ)
1971年生まれ、愛知県出身。株式会社人材研究所代表取締役社長。日本ビジネス心理学会理事。日本採用力検定協会理事。情報経営イノベーション専門職大学客員教授。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科卒業。大学在学中は関西大手進学塾にて数学科統括講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用・人事の責任者を務める。2011年に人事コンサルティング会社、株式会社人材研究所を設立。日系大手企業、外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小企業、スタートアップ、官公庁、大学、病院など、多くの組織に人事や採用のコンサルティング、研修、講演を行なう。『シン報連相』(クロスメディア・パブリッシング)、『定着と離職のマネジメント』(ソシム)、『採用面接100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

若手が本音を話さないのは、あなたの偏見のせい

いま上司の立場にある人のなかにも、自分自身が若手だった頃には「上司は自分をわかってくれない」と感じた経験がある人も多いはずです。ところが、いざ自分が上司になってみると、今度は「若手の本音がわからない」「本音を話してくれない」と悩むこともあるのではないでしょうか。

こういった問題を引き起こす主な要因は、偏見や典型です。若手の本音がわからないと思っている上司のみなさんのなかに、具体的なファクトがないままで「女性だから」「体育会系育ちだから」「Z世代だから」というようなフィルターを通して部下を見ている人はいませんか?

自分に置き換えてみれば理解できるはずです。ただの偏見によって、「あなたは世代的にこういう考え方をもっていますよね?」とひとくくりに見られ、しかもそれが的外れのことだったらいい気持ちはしないでしょう。

これは、いわば「仮説思考」によるものです。もちろん、ビジネスにおいては、仮説思考は重要なもののひとつです。すべての情報がそろわないなかで戦略を考えようというときには、「こうではないか?」と仮説を立てて実行に移し、その結果をフィードバックしながら仮説を更新していくのは、スピーディーに成果を挙げるために有効な手段です。

しかし、人間関係においては、仮説思考は危険なものとなりえます。ファクトではなく偏見や典型に基づいて「こういう人間だろう」と自分を決めつけられると、相手に対する信頼は大きく損なわれるのです。

しかも、信頼とは基本的に不可逆のものです。ビジネスなら失敗してもやり直すことができますが、一度失われた信頼はそう簡単に回復できるものではありません。

若手が本音を話さないのは、あなたの偏見のせいと語る曽和利光さん

日頃の行動から心理的安全性を築く

とはいえ、「お互いに本音で話し合おう」などとストレートに伝えたところで、若い部下の本音はなかなか引き出せるものではありません。

本音とは、そのほとんどが不満などネガティブなことです。ポジティブなことなら、わざわざ「話してほしい」と言わなくとも自ら話してくれる場合も多いもの。本音は、似た言葉の「真意」や「本意」に比べて「隠されている」という意味合いが強い言葉であり、だからこそたいていネガティブなことなのです。

もちろん、そういった不満なども抵抗なく周囲に話せる組織もあるでしょう。それは、いわゆる心理的安全性がきちんとつくられている組織です。

しかし、そうでない組織のなかで安易に不満を口にしたらどうですか? 上司から否定されたり叱られたり論破されたり……と、ひどいことが待っているのは明白です。そのような状況で本音を言うメリットはまったくなく、そのために多くの若い部下が上司に本音を話さないのです。

そこで、上司の日常的な行動がひとつの鍵を握ります。日頃から、業務改善の提案など部下の意見(本音)をまずはきちんと受け止め、実行できることならすぐに実行する、あるいはそうできないならその理由を丁寧に説明するなど、「この上司には自分の意見を素直に言う価値がある」と思わせ、心理的安全性をつくっていくのです。

逆に「この上司にはなにを言っても無駄だ」と思われてしまえば、部下は心を閉ざしてしまうでしょう。

日頃の行動から心理的安全性を築くことについて語る曽和利光さん

時には「拙速に動かない」ことも大切

ただし、矛盾すると思う人もいるかもしれませんが、部下の本音の内容によっては「拙速に動かない」のも重要なポイントです。これは、私がかつての勤務先で人事部長だったときに学んだことです。

たとえば、ある社員が上司の不満を私に漏らしたとします。人事部長としては、そのチームが円滑に動けるようになんらかの対策を講じたくなります。そこで、「上司に改善するように私から伝えておくよ」と言おうものなら、その社員から「いやいや、やめてください」と言われる場合もあるのです。

もちろん、その社員からすれば上司に対する不満が解消されるに越したことはないでしょう。でも、そうしようとすることで上司との人間関係が逆に悪化することも考えられます。そのように、「ただ愚痴を聴いてほしい」といったケースでは、へたに動くのは避けるべきです。

つまり、見定めるべきは、本音のさらに裏にある相手の「本心」です。相手の本心が、本音をさらすことで「本当に解決したいことがある」といった場合にはなんらかの対応をする。そうではなく、「ただ愚痴を聴いてほしい」といった場合には拙速に動かず、その本音をきちんと受け止めてあげるだけで十分なのです。

部下の気持ちがわかる上司が心がけていることについてお話しくださった曽和利光さん

【曽和利光さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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