いいキャリアを歩みたいし、理想的なキャリアプランを描きたい。でも先のことなんてよくわからない。本当にいまのままで幸せな職業人生を歩めるのだろうか……。
今回はそんなみなさんに向けて、よりよいキャリアを歩むための手法「キャリア・ドリフト」を実践するうえで役立つ4冊の本を紹介します。
「キャリア・ドリフト」とは?
キャリア・ドリフトとは、立命館大学教授の金井壽宏氏が提唱するキャリア論。人生の節目でのみキャリアをじっくり設計し、節目ではない普段の生活においては細かなプランに縛られることなくキャリアを歩む、という考え方です。人生の節目には、就職、転職、転勤、昇進、結婚、出産、病気、親の介護、移住などが挙げられます。
金井氏によると、キャリアプランに縛られすぎると「自分のやっていることは正しいのだろうか」と日々悩みがちになるとのこと。先行きが不透明な時代であればなおのことでしょう。そこで、節目のタイミングでキャリアの大きな方向性は決めつつも、節目以外では将来に対する心配は忘れ、あえて「流される=drift」ことで、想定外の能力や天職を発見できるような可能性をひらくのが、キャリア・ドリフトの考え方です。
キャリア・ドリフトは以下の4ステップで構成されます。
- キャリアに方向感覚をもつ
- 節目でキャリアデザインをする
- アクションを起こす
- 偶然を楽しむ
ここからは、各ステップの解説を交えながら、キャリア・ドリフトの実現に役立つ本を4冊ご紹介しましょう。
1:キャリアの方向性を考えるのに役立つ本
「キャリアに方向感覚をもつ」とは、一生あるいは数年という長めのスパンで実現したい夢や目標をもつこと。とはいえ長期的なことなどイメージできない、という人に紹介したいのが、アーティストのジュリア・キャメロン氏の著書『ずっとやりたかったことを、やりなさい。』です。
この本にある「モーニング・ページ」という方法は、なりたい自分を思い描くための足がかりになります。やり方はいたってシンプルで、毎朝3ページ、思い浮かんだことをノートに手書きするだけ(乱雑でもOK)。朝は記憶がまっさらなため、自分の気持ちが素直に書き出せるそうです。そして、書いたものを見直しているうちに、興味の方向性がだんだん見えてくるとのこと。
たとえば「人と会うのが楽しみ」という内容が多ければ「ひとりよりもチームの仕事が楽しい」と気づけたり、「職場の人間関係」への悩みが多ければ「仕事内容よりも好きな人たちと働くことのほうが大事」と気づけたりするでしょう。そこから、「いままで一緒に働いてきた好きな人たちを集めて起業する」という方向性が見つかるのではないでしょうか。
このように、自分の気持ちを手がかりにして夢を探すのに有効な1冊です。
2:節目のキャリアデザインに役立つ本
「人生の節目でキャリアデザインをする」といっても、具体的にどうすればいいのかなかなかわかりませんよね。そこで助けになるのが本書『キャリア・アンカー』です。
キャリア・アンカーとは、アメリカの心理学者エドガー・シャイン氏が提唱したキャリア理論。自分が働いてきた価値観のなかから「絶対に譲れないポイント」を分析し、それを中心にキャリアを考えます。「アンカー(いかり)」となる価値観を見つけて、キャリアという船を安定させるのですね。
ここで考えるべき3つの要素がこちらです。
- can:できることとできないこと
- will:やりたいこととやりたくないこと
- must:やるべきこと。人生や仕事で何を重んじるか
たとえば「会社から出世を提示されたが、自分に管理職は向いているのだろうか」と悩んでいる場合には、以下のように分析してみます。
- can:仲間と話すことはできるが、人前で話すことはできない。
- will:好きな人たちと体を動かしたい。デスクで黙々と管理業務はしたくない。
- must:仲間と喜びを分かち合うこと
この例であれば、出世して管理職になるよりも、現場で仲間と一緒に働き続けるほうが、この人の価値観に合った働き方と言えるでしょう。このように、節目にキャリアを見つめ直すときのヒントが得られる1冊です。
3:選び取った道を歩むうえで役立つ本
「アクションを起こす」とは、節目のタイミングで進むべき道を選び取ったあと、その道を実際に突き進むこと。大事なのは、一定以上の時間と労力をきちんと注ぎ込むことです。すぐに諦めては、成果の発揮も能力開発もできません。困難なことがあっても努力を続けられる力「レジリエンス」が必要です。そこで役立つのが『世界のエリートがIQ・学歴よりも重視!「レジリエンス」の鍛え方』。
本書で、著者の久世浩司氏は「3つのよいことを書く」という方法をすすめます。ルールは次のとおり。
- 1日の終わりに、うまくいったことを3つ思い出す
- 思い出したことのなかで「ありがたい」「運がよかった」と感じた内容を書く
- なぜうまくいったのか、理由も考える
たとえば
- 本を多く読めた:電車で運よく座れたから
- ご飯がおいしくつくれた:母親が地元の食材を送ってくれたおかげ
- いいコラム記事が完成した:担当編集さんのアドバイスのおかげ
といった具合に、些細な内容でかまいません。逆境下だと私たちは「ないもの」に目を向けがちです。ところが久世氏によると、レジリエンスが高い人は、逆境にあっても「あるもの」に目を向けて前向きに取り組めるのだそう。「3つのよいことを書く」ことは、その訓練にうってつけなのです。
この本は、進むべき道を力強く歩いていくための手助けとなるでしょう。
4:偶然を楽しむのに役立つ本
最後の「偶然を楽しむ」とは、たとえば「営業の仕事をしている人が、プライベートな場面でたまたま友人からイベントの手伝いを頼まれた」というような、キャリアとは関係なさそうな偶然のことでも楽しんで取り込もうという考え方です。
「でも、ただ待っているだけで偶然なんて来るの? 来たところでどうやって偶然を取り込めばいい?」と思う人もいるはず。そんな人に最適なのが、スタンフォード大学名誉教授のJ.D.クランボルツ氏による『その幸運は偶然ではないんです!』。偶然の引き起こし方、取り込み方を解説してくれる1冊です。
本書は、偶然を引き起こすには、考えすぎずいろいろな仕事をまずはやってみることが大事だと説きます。
たとえば、本書で紹介されているある男性は、職場に新しいパソコンが導入されることになった際、その使い方を覚えることを気楽に引き受けました。その後は、覚えたスキルを活かしてワークショップを開くまでに。そして彼は、当時の職場がなくなったあともパソコンスキルの研修業を続けたそう。最初は気楽に引き受けた仕事が、新たなキャリアへとつながった――まさしく偶然を楽しんで自らのキャリアに取り込んだ好例と言えます。
本書には「キャリア・ドリフト」という言葉こそ出てきませんが、まさに「プランに縛られないキャリアの歩み方」をするための方法が詰まった1冊です。
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一寸先に何が起こるかわからない時代だからこそ、変化に柔軟に対応していきたいもの。紹介した本が、少しでもみなさんの仕事人生の助けになれば幸いです。
(参考)
BizHint|キャリアドリフト
@IT|金井壽宏教授が提唱する「節目」のキャリア論
ジュリア・キャメロン著, 菅靖彦訳(2001),『ずっとやりたかったことを、やりなさい。』, サンマーク出版.
エドガー・H. シャイン著, 金井壽宏訳(2003),『キャリア・アンカー 自分のほんとうの価値を発見しよう』, 白桃書房.
久世浩司(2014),『世界のエリートがIQ・学歴よりも重視!「レジリエンス」の鍛え方』, 実業之日本社.
J.D.クランボルツ著, A.S.レヴィン著, 花田光代訳, 大木紀子訳, 宮地夕紀子訳(2005),『その幸運は偶然ではないんです!』, ダイヤモンド社.
【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。