暗記ではなく「印象に刻む」。本の内容を確実に頭に残せる「多重マーキング」という読み方

印象に刻みながら本を読む女性

せっかく本を読んだのだから「内容を覚えておかなくちゃ」と考えたり、「内容を忘れてしまう」と悩んだり……。多くの人に共通する「あるある」かもしれません。どうすれば、本の内容を「頭に残す」ことができるでしょうか。

新刊『ちゃんと「読む」ための本』(PHP研究所)を上梓した著作家の奥野宣之さんは、「『頭に残す』とは、『暗記』ではなく『印象に刻む』こと」だと言います。その手法を教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹

【プロフィール】
奥野宣之(おくの・のぶゆき)
1981年9月4日生まれ、大阪府出身。同志社大学でジャーナリズムを専攻後、出版社・新聞社勤務を経て、著作家・ライターとして活動。読書や情報整理などを主なテーマとして執筆や講演活動などを行なっている。『情報は1冊のノートにまとめなさい[完全版]』『読書は1冊のノートにまとめなさい[完全版]』(以上、ダイヤモンド社)、『図書館「超」活用術』(朝日新聞出版)、『学問のすすめ』『論語と算盤(上)(下)』(以上、致知出版社)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

身体的感覚をともなった記憶こそが強く頭に残る

本を読んで「いい本だった」「これから役に立ちそう」と感じたなら、やはりその内容を覚えておきたいと思うものです。そのとき、受験生時代のように「暗記をしよう」と考える人もいるかもしれません。しかし、それでは「頭に残す」ことは難しいのです。

私がイメージする暗記は、内容をパソコンにそのまま入力するような無機質な行為です。パソコンの場合ならそれでもしっかりと記憶してくれますが、人間の脳はそんなふうにできていません。印象に薄いことはどんどん忘れていくようになっているのです。

そのため、「頭に残そう」と思うのなら、まさに「印象を強める」だとか「印象に刻む」ことがポイントとなります。私が言う「印象に刻む」という行為には、フィジカルな要素が絡んできます。手触りといった身体的感覚がともなうのです。

たとえば、自動車の運転方法だって、すべての手順を暗記しているわけではありませんよね。それこそ感覚的にやっている部分が多いと思います。

私は水泳をしているのですが、速く上手に泳ぐ方法についての知識をいくら本から得たとしても、すぐに速く上手に泳げるようになるわけではありません。そのコツやノウハウ通りにやっているつもりでも、いざやってみたらできない。

それでもずっと続けるうちに、ようやく「なるほど、こういうことか!」という感覚をつかめる瞬間が訪れます。繰り返し練習をしているうちに、その感覚を自分のものにすることができるのです。そうした明確な感覚をともなった身体記憶は、そう簡単に忘れません

ペンをもち身体的な感覚をともないながら本を読む女性

本の内容を印象に刻むための「多重マーキング」

きちんと本の内容を「頭に残す」ことにも、まさにこれと同じことが言えます。情報として頭に入れるというより、感覚としてつかむイメージです。

そうできているかどうかのバロメーターのひとつとなるのが、「自分の言葉でしゃべれるかどうか」ということです。自分の感覚として本の内容をつかんでしっかりと頭に残すことができたなら、その内容について自分の言葉でしゃべれるようになります。

そうなると、ただの受け売りではありません。頭に残した内容をいろいろな場面で応用することもできますし、そこからアイデアを生むことだってできます。

ですから、本を読むときにも、その内容を頭に残したいと思うのであれば、身体的感覚を意識的にともなわせることがポイントとなります。たとえば、むかしながらの方法になりますが、マーカーを引いたり付箋を貼ったりするのもひとつの手です。

私の場合、「いい本だ」と感じた本は何度も読み返します。そこで、1回めに読むときに「重要だ」「いい文章だ」と感じた部分にはまず蛍光イエローのマーカーでマーキングします。あまり目立たない色のため、2回め以降に読むときにも邪魔にならないからです。

2回めには、ピンクなどはっきりした色で重ねてマーキングします。1回めとの違いがわかりやすいからです。その後、3回めには、自作した「▼」の形のスタンプで「ここに注目」という意味をもたせ、4回めには付箋を使います。あまりマーキングを増やしすぎると、紙面がうるさくなって読みづらくなるからです。私は、この手法を「多重マーキング」と呼んでいます。

奥野宣之さんが提唱する「多重マーキング」のやり方

「勉強」ではなく「娯楽」ととらえる

いずれにせよ、重要なのは手を使うこと。マーカーを引く、付箋を貼る作業をすることで、身体感覚をともなった記憶として本の内容が頭に残りやすくなるのです。

そういう意味では、これもむかしながらの方法ですが、切り抜きも有効です。私は「切り抜きノート」というものをつくっています。雑誌や新聞のなかで「これは覚えておこう」「素晴らしい内容だ」と思った記事を切り抜いて大学ノートに貼っています。

ノートですから、余白に日付やメモ、感想を書き込んでおくこともできます。もちろん、これも身体感覚をともなう作業です。そのため、その作業によって「自分だけのノート」をつくっていく過程で内容が頭に残りやすくなるわけです。

そして、それらの作業を含め、なによりもインプットを「娯楽」だと考えてほしいと思います。趣味として好きな作家の小説を読むような読書ならともかく、社会人の読書にはどうしても「勉強」のイメージがともないがちです。

「勉強」は「勉めることを強いる」と書きますが、なにかの知識を得ることを「勉強」だと考えた瞬間、その行為はつまらなくなってしまいます。つまらないことに集中できるほど人間は便利にできていません。でも、知らないことを知るということは、本来楽しくてワクワクしておもしろいことであるはずです。つまり、娯楽にほかならないのです。

みなさんも、自分が好きなこと、自分にとっての娯楽に関する記憶は強く残っているのではないですか? 覚えようなどとしなくても覚えているものですし、それどころか忘れようとしても忘れられないことだってあるはずです。そんなふうにインプットを娯楽だと考えれば、本の内容を頭に残すこともずっと楽にできるようになると思います。

本の内容を頭に残す方法について解説してくれた奥野宣之さん

【奥野宣之さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「本当に読むべき本」はどうすれば見つかるのか? ベストセラー読書本の著者に聞いてみた
ベストセラー作家が「人からすすめられた本は読まなくていい」と語る納得の理由

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