朝起きて、仕事をして、寝るだけの忙しい日々。最近お腹を抱えて笑ったのはいつだろう。タイトなスケジュールに追われて笑う暇もなければ、感情が表に出ることさえあまりなくなった……。
このように、忙しさで感情をどこかに置き忘れてしまった現代人は決して少なくありません。だからこそ、「泣くことが脳にいい影響を及ぼす」「泣くことがストレス発散にいいらしい」などと話題になると、すかさず泣ける映画やドラマで涙を流そうとする人も多いのではないでしょうか。でも、泣くことだけではなく、「笑い」が脳に及ぼす影響も多大なものなのです。そこで今回は、「笑う」ことのメリットや、日常にうまく「笑い」を取り入れる方法などをご紹介します。
「笑う」とは何か
笑うという動作は誰もが知っていることですが、そもそも「笑う」とはいったい何なのでしょう。実はこの「笑う」、「自然に笑う(laugh)」と「作り笑い(smile)」の2つに分けられ、それらは脳内で異なる反応や経路をたどって生み出されるものなのです。
自然に笑うこと、いわゆる(laugh)が起こるまでの生理的なプロセスは、「認知」→「情動体験(面白さや楽しい気分の体験)」→「笑う」という3段階になるのだそう。これは、イギリスとカナダの研究グループが行った実験により証明されています。
まず、何かを見たとき視覚的な情報が脳に届きます。それが脳内の経路をたどっていき面白いかどうか判断され、情動体験が起こります。そして、視覚情報を運動に変換する部位を中心に、脳の深い場所と大脳とが相互作用しながら笑いが生み出されるのです。要するに、視覚情報から笑いの表情が「自然に」作られているわけです。
一方、作り笑い(smile)は、脳の一次運動野と補足運動野によって “意図的に” 表情筋が動かされます。まさに「無理して笑っている」状態ですね。
もちろん誰もが前者の「自然に笑う(laugh)」を好むのではないでしょうか。しかし、自然な笑いにあふれた子供のころとは違い、大人になると作り笑いも必要なときがあります。ある研究によると、平均的な4歳児は一日に300~400回は自然に笑うとのことですが、大人になると自然な笑いは15回程度にまで減ってしまうそうです。この数字には驚いてしまいますね。
笑いが脳などに与える影響
では、私たちが笑うと脳にどのような影響があり、どのようなことが起こるのでしょう。以下に2つ例を挙げましょう。
1つめは免疫にかかわることです。笑うことで、脳内には“善玉”の神経ペプチドが活発に生産されることが多くの研究でわかっています。これが血液やリンパ液を通じて体中に流れ出すと、人の免疫力を向上させるNK(ナチュラルキラー)細胞が活性化するのです。ちなみにこのNK細胞、実はがん細胞の殺傷にも役立つと言われているのですよ。
2つめは内分泌系にかかわることです。笑いによって脳内で分泌されるβ-エンドルフィンというホルモンは、多幸感や、痛みなどの軽減をもたらすと言われています。また、人はストレスを感じると脳からの指令でストレスホルモンを出して対抗しますが、それが過剰になると免疫機能の低下をまねきます。しかし、笑うと脳からの指令が止まり、ストレスホルモンを減少させてくれるのです。そのほか、脳内物質であるドーパミンやセロトニン活性を高めて、抗うつ効果を発揮するといった研究結果もあります。
このように、笑いが脳とからだに与える影響は多大なものです。では、実際によく笑うには、どのような工夫が必要なのでしょうか。以下に3つご紹介しましょう。
1. よく笑う人の近くにいる
あくびをしている人を見ると、ついつい自分もあくびをしそうになりませんか? また、笑っている人や微笑んでいる人を見ると、ついこちらもニッコリしてしまいますよね。
実は、あくびも笑いも、脳の働きによって伝染するものなのです。これは脳内の「ミラーニューロン」の作用と考えられています。ミラーニューロンはものまね細胞とも言われ、反射的なものまねによって共感性・想像力・言語などの情報を脳に埋めこみ、社会性を養います。もしもあなたがどうしても笑えないときには、よく笑う人の近くにいることをおすすめします。きっとあなたも笑顔になれるはずですよ。
2. 自分の笑いのツボを知る
新しい笑いを開拓するのが難しいときは、既存のものに頼ってしまいましょう。実はむしろ、それで生まれる効果があります。
お笑い芸人のライブ、漫画、アニメなど、何でもかまいません。もちろん落語を聴くなど音声だけでもよいでしょう。過去に見て聴いて自分が少しでも笑えたものがあるならば、再び繰り返してみてください。すると、もうすでに笑うポイントがわかっているにもかかわらず、何度も同じところで笑ってしまうはず。実はそうすることによって、自分の笑いのツボを知ることができるのです。
人によって面白いと感じる部分は違いますよね。誰かに「これが面白かったよ」とすすめられても、あまり笑えなかったということもあるのではないでしょうか。つまり、自分の笑いのツボを知っておけば、自分自身で笑いたいときの方法を把握しやすくなるのです。
3. 鏡で笑顔の練習をし、実践する
以上ふたつは「自然に笑う(laugh)」方法について述べたものですが、「作り笑い(smile)」もまた笑いのひとつであることには違いありません。そしてこの「作り笑い」は、実は自然な笑いと同様に、脳に良い影響を与えてくれることが研究においてわかっています。それに、ビジネスの世界ではときに作り笑いが必要になることもあります。会議や商談、面接など、意図的につくる笑顔が必要とされる機会は多いのです。そこで、こちらでは上手く「作り笑い」をする方法についてお伝えします。
まずは鏡で口の端と端の口角をキュッとあげて笑顔を練習して、とっておきのフォームが定まったらそれを記憶してください。そして日々の生活で実践してみましょう。相手に微笑んでもらえたときに微笑み返したり、または自分から微笑んでみたりと、とことん実践することでうまくなれるはずですよ。
ちなみに、外国人は目が合うと知り合いでもないのに、思わず微笑み返したくなるような笑顔で微笑んでくれることがありますよね。微笑み上手な人の所作をまねることでも、笑顔と身近な関係になれるはずです。
*** 笑顔は人間だけの特権です。笑顔はその人の魅力をうんとアップさせ、また他人に好感を抱かせます。笑顔の人を見ると元気が湧いてきますよね。笑顔でいれば、自分も周りも気持ちがいいものです。ぜひ以上の内容を試してみて下さい。
(参考) Takahashi, K. et al. (2001), “The elevation of natural killer cell activity induced by laughter in a crossover designed study”, Int J Mol Med, Vol. 8,No.6,pp.645-650. J Psychosom Res (2009), “Viewing a humorous film decreases IgE production by seminal B cells from patients with atopic eczema” ,Journal of Psychosomatic Research,Vol.66,No.2 ,pp.173–175. Yim J (2016), “Therapeutic Benefits of Laughter in Mental Health: A Theoretical Review”, Tohoku J Exp Med,Vol. 239, No.3,pp.243-249. 石原俊一(2007),『自律神経系に及ぼす自発的笑いの実験的検討』,『人間科学研究』文教大学人間科学部 第29号. 安田和人著(2006),『図解 栄養の基本がよくわかる事典』, 西東社. 藤原裕弥(2015),『笑いと笑顔が心身の健康に及ぼす影響』, 安田女子大学紀要, 広島:安田女子大学・安田女子短期大学. 岩瀬真生(2001),『科学が明かす笑いと健康笑いと脳』, 第29回研究会(2001年 11月 20日大阪市弁天町市民学習センター), 笑い学研究. PR TIMES|女性達の笑顔を増やすプロジェクト『Smile Switch Project』アテニア メッセージムービー サワイ健康推進課|カラダの豆事典|“笑い”がもたらす 健康効果 湧永製薬株式会社|ワッハッハで元気!笑いは身体の万能薬。 Wikipedia|コルチゾール