自分に期待しすぎて疲れたら――この3つの方法で心と脳が楽になる。

自分に期待しすぎている人が心を軽くする方法01

仕事でも勉強でも、自信を持つことでモチベーションが高まり、意欲的に取り組めるようになりますよね。しかし、「自分ならできるはず!」と期待しすぎるあまり、心身ともに追い詰めてしまった経験はありませんか?

どう考えても自分ひとりでこなせる量ではないのに、無理して仕事を引き受けてしまう……。この企画は絶対に成功させなければと自分自身にプレッシャーをかけ、切羽詰まるような状況を招いてしまう……。難易度の高い資格を目指して、夜もあまり寝ずに頑張りすぎてしまう……。

ここではそんな、自分に期待して頑張りすぎてしまう人に向けて、心をすっと軽くするための方法を3つご紹介します

自分に期待しすぎると、かえってパフォーマンスが落ちることも……

アメリカの心理学者ロバート・ヤーキーズ氏とJ・D・ドットソン氏は、マウスを用いた研究で、ストレスと学習効果の関係性について調べています。それによれば、ストレスが適度にかかっている状態では学習効果が高まるものの、ストレスがかかりすぎている状態では下がってしまうのだそう(※この研究では、ストレスがまったくかかっていない状態でも学習効果が下がることが報告されています)。

つまり、自分への期待が気持ちや意欲を高める程度のちょうどよい塩梅だと、パフォーマンスにもよい影響がもたらされるということ。しかし、「自分ならできるはずだ!」と頑張りすぎるあまり、過度なプレッシャーやストレスを抱えるようになってしまっては本末転倒。かえってパフォーマンスは落ちてしまうのです。

全米ベストセラー『残酷すぎる成功法則』の著者であるエリック・パーカー氏も、過剰な自信の危険性を指摘しています。傲慢になって、他人のアドバイスを聞き入れなくなってしまう……自分の期待値に届かず、ひどく落ち込んでしまう……自分が優れているということを証明するのに躍起になり、心身ともに消耗していくリスクさえあるのだとか。

また、自分を追い込みすぎると、突然無気力になって「バーンアウト(燃え尽き症候群)」に陥る可能性も。このバーンアウト、医学的にはうつ病の一種とされており、完璧主義者のほか、理想が高い人や責任感が強い人がなりやすいのだそう。「これくらいはできなければいけない」と掲げた目標になかなか到達できないなど、理想と現実のギャップが広がれば広がるほど、この症状から抜け出せなくなってしまうのだとか。

そうなる前に、ぜひ「自分の心を軽くするための方法」を試してみませんか?

自分に期待しすぎている人が心を軽くする方法02

1.「セルフ・コンパッション」で自分を許す

前出のパーカー氏は、自信よりも重要なのは「セルフ・コンパッションだと述べています。セルフ・コンパッションとは心理学用語で、「あるがままの自分を受け容れ、自分を思いやる力」のこと。“こうであるべき自分” という理想に重きを置かないので、理想と現実の差を埋めるために無理に必死になる必要がありません。

また、一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表の荻野淳也氏も、完璧主義的で自分を許せない人はまず、その心理の裏側にある恐怖心や不安感に気づくべきだと述べます。

結果が伴わなくて、上司や自分の評価者に「できないやつ」とレッテルを貼られたらどうしよう、担当を外されたらどうしよう、クビになったらどうしよう、とか。

程度に差はありますが、そういった仕事に対する不安は誰もが持っています。それは苦しみの中の一つで、恐怖や執着。そういう自分がいるんだなと気づいて、あるがままに受け止めてあげることが大事です

(引用元:wotopi|「私、ダメな先輩ですか?」荻野淳也さんに相談してみた ※太字は筆者が施した)

いったん理想は忘れ、今の自分を認めてあげてください。このセルフ・コンパッションの考え方が身につくことで、他人の評価から来る恐怖が減り、心にも余裕が生まれるはず。自分に対して、今よりずっと優しくなれるのではないでしょうか。

自分に期待しすぎている人が心を軽くする方法03

2. “現実的な目標” を持つ

本来ならば自分のモチベーションとなるはずの夢や目標。しかし、それが自分にとっての重圧となっているのならば、その目標はもう一度見直したほうがいいかもしれませんよ。なぜならば、バーゼル大学(スイス)の心理学者チームの研究調査によれば、“現実的な目標設定” をしている人のほうが、人生における満足度も高いから。

研究者らは、スイス国内に住む18〜92歳の973人を対象に調査を実施。参加者には、「家族」「健康」「仕事」「財産」など10分野それぞれについて、人生の目標における重要度とその達成可能度を4段階で評価してもらいました。さらに、参加者の半数以上に、2年後と4年後にも同じ調査を実施。すると、達成できると感じる(たとえば「1年で5kg減量する(※健康分野)」など)現実的な目標は、認知的にも情緒的にも幸福度を高めてくれることが判明しました。

さらに、リヴァプール大学(イギリス)の臨床心理研究者ジョアン・ディクソン博士の調査では、目標が漠然としているとネガティブ思考の連鎖にはまる可能性があるのだとか。

研究チームは、21人のうつ病患者とそうでない24人を被験者に調査。被験者らに「達成したい目標」と「避けたい未来」を思い浮かぶだけ書き写し、その理由も記述させました。その後研究者らは、それらの目標の詳細度をカテゴリー分けし、達成したい理由または避けたい理由をポジティヴなものとネガティヴなものに分けて分析。その結果、うつ病患者らは、「幸せになる」や「いまよりも豊かになる」など、より “抽象的な目標” を抱えていることが明らかになったのです。

このことからディクソン氏は、目標を達成できない事実が、ネガティブ思考への悪循環となっていることを指摘。たしかに、抽象的な目標には「いつ、どこで、どのようにして」といった具体的な情報がないため、達成できるイメージも湧きづらいですよね。それが遠からずネガティブ思考を招いてしまうのです。

負の連鎖を断ち切る方法として、ディクソン氏は「目標を細かく分解したうえで、達成したい理由も詳しく定める」ことをすすめています。

たとえば、「社長になりたい!」というのは、まさに抽象的な目標なのでNG。「経営に関する書籍を3ヶ月後までに5冊読む」「その後3ヶ月で起業のハウツーを徹底的に勉強する」など、社長になるために必要だと考えられるアクションに落とし込み、いつまでに実行するか期限も決めてしまいましょう(※もちろん “現実的な範囲” で!)。同時に、その目標を持つ理由について徹底的に考えて言語化することも忘れないでください。

自分に期待しすぎている人が心を軽くする方法04

3.「マインドフルネス瞑想」でたまには脳を休めよう

自分にプレッシャーをかけて過ごしていると、毎日が息苦しく、休みの日も休めていない感覚を持つかもしれません。そんなときは、マインドフルネス瞑想をして脳を休めてみませんか

マインドフルネスとは、「今この瞬間」に意識を向けることをいいます。たとえば、ただぼんやりとしているだけでも、私たちは過去のことを思い出したり、未来のことを考えたりしますよね。そうではなくて、呼吸に意識を向けたり、身体の感覚に意識を向けたりしながら、途中で雑念が湧いたとしても「今」に気持ちを戻していくのです。

マインドフルネス瞑想の基本となる呼吸瞑想は以下の通り。

  1. 椅子に座って背筋は軽く伸ばす。手は太ももの上に置き、目は閉じる。
  2. 身体に接触しているさまざまなものとの感覚に意識を向ける。
    (足の裏と床が接触している感覚。お尻と椅子、手と太ももが触れている感覚。肌に当たる空気や、身体が重力に引っ張られている感覚など)
  3. 呼吸に意識を向ける。
    (空気が鼻を通る感覚や、呼吸によって胸やお腹が上下する感覚に集中する。呼吸を「1、2……」と数えるのもコツ)
  4. 雑念が浮かんだときは、その事実を受け止め、また呼吸に意識を戻す。
    (「雑念が浮かんだから、この瞑想はだめだ……」と責める必要はなし)

マインドフルネス瞑想は脳機能を変化させるという研究結果もたくさん出ています。

マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学医学部など2010年に行なった研究では、マインドフルネス瞑想を行なった人について、記憶や自己認識、共感、ストレスに関連する脳の領域に変化があったことが報告されています。

研究では、8週間のマインドフルネス瞑想プログラムに参加する2週間前と、参加した2週間後に、参加者16人の脳構造のMR画像を撮影をしました。すると、学習と記憶に関わる海馬の灰白質の密度が増加。さらには、不安やストレスに重要な部位である偏桃体にもよい変化が見られたのです。

「忙しくて瞑想なんてできない」という人でも大丈夫。5~10分程度でもよいと、『脳疲労が消える 最高の休息法』著者の久賀谷亮医師は述べています。仕事のお昼休憩時や就寝前など、ちょっとした空き時間に実践してみたいものですね。

***
自分に期待しすぎて「ちょっと疲れたな……」と感じたら、そこで立ち止まって振り返ってみることも必要かもしれません。もしかしたら、自分自身でプレッシャーをかけすぎていることも。少しだけ肩の力を落としていくと、意外とうまく前に進めるかもしれませんよ。

(参考)
中野重行 (2015),「こころ、からだ、いのち 学習効果、作業成績、さらには生体反応に及ぼすストレス強度の影響は「曲線関係」にある」(PDF
プレジデント・オンライン|失敗を恐れなくなる「最強の感情」の効力
GLOCAL MISSION Times|自分の働き方を見直そう 燃え尽き症候群の兆候と予防とは
wotopi|「私、ダメな先輩ですか?」荻野淳也さんに相談してみた
Science Daily|Live better with attainable goals
Joanne M. Dickson (2013), "Reduced Specificity of Personal Goals and Explanations for Goal Attainment in Major Depression", PLOS ONE.
現代ビジネス|ストレスまみれの心を癒す、今話題の “マインドフルネス” とは
The Harvard Gazette|Eight weeks to a better brain

【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。

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