「すすめられた専門書を読んだあと、上司から感想を聞かれても答えられなかった……」「マネジメントに関する本をたくさん読んだのに、うまく部下に説明できなかった……」
いざ、本の内容を説明しようとしたら、言葉に詰まる——。
本当に理解したかどうかを、自分で確認するのは難しいものです。そんな時におすすめの方法が、読書にファインマンテクニックを活用してみること。
今回はわかったつもりを防ぐために有効なファインマンテクニックをご紹介します。わかったつもりの原因を解説するとともに、筆者の実践例を見ていきましょう。
- 「わかったつもり」の読書は「メタ認知の低さ」が原因
- 「わかったつもり」で読書を終わらせない方法
- 読書にファインマンテクニックを使ってみた
- 「わからない」を可視化すれば、読書の「わかったつもり」を防げる
ダイヤモンド・オンライン|「TEDで話題の勉強法」が解説!“独学”最大の落とし穴「わかったつもり」が解決できる技術とは?
野村證券|ホワイトナイト
日経ビジネス|勉強できる子に共通する「メタ認知」とは?
松崎朝樹(2023),『教養としての精神医学』,KADOKAWA.
「わかったつもり」の読書は「メタ認知の低さ」が原因
リバプール大学の認知心理学者、レベッカ・ローソン博士は “わかったつもり” を「説明深度の錯覚」と呼んでいます。ひらたく言えば「自分が理解していないことを理解していると勘違いしてしまう」現象のこと。(カギカッコ内引用元:ダイヤモンド・オンライン|「TEDで話題の勉強法」が解説!“独学”最大の落とし穴「わかったつもり」が解決できる技術とは?)
たとえば、経営学を専攻していた筆者は「ホワイトナイト」という用語を「自社がピンチのとき買収して助けてくれる会社」とぼんやり記憶していました。あながち間違いではありませんが、調べるとこんなデメリットがあるようです。
さらに競合する新たな買収者を誘引する可能性も否定できない。
(引用元:野村證券|ホワイトナイト)
つまり、弱い立場にさらされる(ほかにも買収しようとする会社が現れる)危険性もあるとのこと。デメリットを知らないまま、情けないことに筆者は「ホワイトナイトはいい味方」とわかったつもりでいたのです。
なぜ、人は理解度を過信してしまうのでしょうか? その答えは、メタ認知の低さにあります。心理学者・榎本博明氏の言葉をまとめると、昨今よく聞くメタ認知とは——
- 自分の認知(わかっていると思うこと)を俯瞰する
- 俯瞰したうえで、現在の認知(わかっているorわからない)を評価する
- 必要に応じて認知を修正する(理解していない部分を直す)
(参考元:日経ビジネス|勉強できる子に共通する「メタ認知」とは? )
つまり、わかっていることを客観的に見直し、認知をコントロールするわけですね。榎本氏によると、成績が伸びない子は授業が終わっても「あまり振り返らない」のだそう。そもそもどこがどんなふうにわからないのか「はっきりつかもうという姿勢がない」と言います。(カギカッコ内引用元:同上)
みなさんは、読書をしたあとに読んだ本を振り返ろうとは思っているでしょうか。耳の痛い話かもしれませんが、それが “わかったつもり” で終わる原因なのです。
「わかったつもり」で読書を終わらせない方法
前出の榎本氏によれば、成績のよい子は「絶えず自分の現状を振り返り」「チェック」し、「改善するための行動をとる」傾向にあるのだとか。(カギカッコ内引用元:同上)
「このプロセスを読書で行なうのは面倒」と思う人もいますよね。ですが、ファインマンテクニックを試してみれば、案外難しい問題ではないかもしれません。ファインマンテクニックの方法はいたってシンプル。
- 理解したいテーマを、紙の一番上に書く
- その下の余白に、テーマや用語を人に説明するように書く
- わからない場合、本を読み返して補足する
(ダイヤモンド・オンライン|「TEDで話題の勉強法」が解説!“独学”最大の落とし穴「わかったつもり」が解決できる技術とは?よりまとめた)
前項のメタ認知と照らし合わせると、テーマを書いて下に内容を書く(自分の理解度を評価する)、わからないところは本を読み返して補足する(必要に応じて認知を修正する)——つまり、メタ認知と同じプロセスを通るテクニックなのです。
読書にファインマンテクニックを使ってみた
前項までの情報を知って、筆者もファインマンテクニックを読書に取り入れる意欲が湧きました。精神医学に関する理解を深めたいと最近思ったからです。
用意した本は『教養としての精神医学』(KADOKAWA)。精神医学に関する知識を網羅的にわかりやすく解説しているため、初心者の筆者にも適していると考えました。
1. テーマを書く
まずは余白の上にテーマを書きます。筆者は本の目次を読み、理解を深めたい「不安障害」をテーマとしました。
念のため、下の余白は広めにスペースをとっています。
2. テーマに関して人に説明するように書く
次は余白に、現在筆者が「不安障害」について知っている知識を説明するように書き出します。聞き慣れている障害ではあるものの……。
書き出してみれば、「これで合っているのかな?」と疑問の湧く内容ばかり……。症状に対して、そもそも無関心であったことがよくわかります。これでは、人との会話で話題にのぼっても、知ったかぶりをしてしまいそうです。
3.わからないところは本を読み返して補足
自分の知識が不完全だとわかったのなら、今度は本を読み返して修正します。本を読みながら、補足する情報を見失わないように付箋を使いました。
本で答え合わせしながら「なるほどー」と思うことはありますが、それだけでは理解を深めるには足りず……。記憶力に自信のない筆者は、目で追うだけでは新しい知識を自分のものにできません。
終わったら付箋をつけた箇所を頼りに補足。少々見苦しいですが、ご覧ください。
前項で自分の書いた知識の補足が青い色、補足の補足が水色と色分けしています。補足しながら、障害の原因や治療法に関しての記述が抜けていたことに気づきました。いわゆる “わからないところがわからない” ——知識の盲点となっている場所ですね。
「わからない」を可視化すれば、読書の「わかったつもり」を防げる
ファインマンテクニックを試してみて、簡単であると同時に脳に負荷のかかる方法だと気づきました。
本を読む前に自分の知識の不完全さを知ることで、わからない場所を意識的に探せるからです。そのうえで既存の知識に肉付けし、考えながら紙の上で穴埋めすると、わかっているところ/わからなかったところの差がはっきりと見えてきます。
今回筆者はテーマに関して、そもそも原因や治療法について、概念から見落としていることに気づきました。新しい知識を学ぶ場合、“わからないところがわからない” 状態になるのはよくあること。このテクニックでは、覚えていない知識のみならず、意識外の知識さえも浮き上がってくるのです。
ただ、あとで読み返すとなれば、整理したものを文章として残すことが好ましいでしょう。筆者も読書ノートに、内容を整理して記録しようと思います。
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単に読むだけで読書を終わらせるのはもったいないもの。せっかくなら、読書で学んだことを深い理解に落とし込んでみてください。知識が深まれば、知性的な話を周囲と共有できますよ。
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。