先延ばしをしない秘訣は「脳疲労を抑える」こと。すぐできる有効な方法

頭が疲れているビジネスパーソン

「なかなか行動に移せない」ことは、ビジネスパーソンに致命的なダメージを与えかねません。生産性の低下だけでなく、人間関係が悪化したり評価が下がったりと、最終的には自らが望むキャリア構築も難しくなるでしょう。そこで、組織開発を主としたコンサルティングを手がける恩田勲さんとともに共著『「心の勢い」の作り方』(東洋経済新報社)を上梓した、禅僧であり精神科医でもある川野泰周さんにアドバイスをお願いしました。川野さんが専門のひとつとする「マインドフルネス」は、さまざまな点から先延ばし癖解消に有効だと語ります。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】
川野泰周(かわの・たいしゅう)
1980年生まれ、神奈川県出身。精神科・心療内科医、臨済宗建長寺派林香寺住職。精神保健指定医・日本精神神経学会認定精神科専門医・日本医師会認定産業医。一般社団法人日本モメンタム協会理事。2005年、慶應義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。2014年末より臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在、寺務のかたわら都内および横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。うつ病・不安障害・PTSD・睡眠障害などに対し、薬物療法や従来の精神療法と並び、禅やマインドフルネスの実践による心理療法を積極的に導入している。また、ビジネスパーソン、医療従事者、学校教員、子育て世代、シニア世代などを対象に幅広く講演活動を行なっている。『ずぼら瞑想』(幻冬舎)、『半分、減らす。』(三笠書房)など著書多数。

恩田勲(おんだ・いさお)
1957年生まれ、大阪府出身。JoyBizコンサルティング株式会社代表取締役社長。一般社団法人日本モメンタム協会理事。1982年、日本大学法学部法律学科卒業。大学卒業後、国内最大手の民族系コンサルタント会社の営業職を経て、行動科学理論を基軸においた人材開発を主としたコンサルタントとして活動。2008年に実務を経験すべく大手機械商社の経営企画部門に転職した後、2009年にJoyBizコンサルティング株式会社を設立。組織開発を主としたコンサルティングを手がける。現在は、クライアント企業の経営陣を対象としたコンサルテーション、人材や組織を活性化させるオリジナルのプログラム開発を行なっている。著書に『イノベーションを起こすために問題解決のセンスをみがく本』(総合法令出版)がある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

先延ばし癖を招く「物語としての自己」

――「先延ばしせず行動できる人になりたいのにそうなれない」と悩む人は、どういった要因でそのような事態に陥っていることが多いのでしょうか。

川野:心理学や哲学において、「物語としての自己」と呼ばれる概念が関係しています。みなさんそれぞれ、これまでの体験に基づいて「自分はこういうキャラクターだ」という自分なりのストーリーをもっていますよね。それが「物語としての自己」です。そして、その「物語としての自己」を前提として、「自分はこういうキャラクターだから、こう考えるだろう」と、さまざまな場面で判断を下しているのです。

そのため、過去の失敗を物語として強く定着させてしまっている人の場合、なにかに新しく取り組んでみようとするときにも、失敗にともなった苦しみや悲しみが惹起され、「どうせやっても無駄だ」「また傷つくかもしれない」といった不安や諦めの気持ちを抱き、着手しないということになるのです。そこで有効になるのが、「マインドフルネス」です。

――なぜ、マインドフルネスが有効なのでしょうか。そのメカニズムを教えてください。

川野:マインドフルネスの基本は、現実から離れて呼吸などに意識を集中させる瞑想です。つまり、マインドフルネスとはいまこの瞬間に集中することであるため、「物語としての自己」ではなく「いまこの瞬間の自己」を生きることにつながり、過去に縛られず「まずやってみよう!」という発想をもつに至るのです。

先延ばし癖を招く「物語としての自己」について語る川野泰周さん

川野泰周さん

脳が疲れていると、行動できない

――川野さんは脳科学も専門のひとつとされています。行動できないことと脳のあいだにもなんらかの関係があるのでしょうか。

川野:それは大いにありますね。いま、私のクリニックには心の悩みというよりも自律神経失調症など身体的不調を訴えて来院する患者さんが増えています。その要因のひとつは、脳の疲労です。

脳疲労が過度に生じれば、心のバランスを崩してうつ病や不安障害などの精神疾患を発症するリスクが高まります。たとえそこまでには至らずとも、なにをするにもダルい、面倒くさいと感じて行動できなくなってしまうのです。

でも、脳は自分が知らないうちに疲れていきます。「今日の脳の疲労はどれくらいだろう?」と考えてもわかりませんよね? 本人としては脳が疲れているとは思っていないのに、脳疲労の結果として体の調子がおかしいからなんとかしたいと、クリニックにいらっしゃる方が増えていると感じます。

――脳疲労の要因はどのようなものなのでしょうか

川野:「デフォルト・モード・ネットワーク」(精神的な健康状態や認知機能との関連が強く、ぼんやりしているときなどに活発になる脳のネットワーク)と呼ばれる脳活動のパターンにあります。デフォルト・モード・ネットワークが過剰に働き続けることによって、脳疲労をきたすと考えられるのです。

なお、デフォルト・モード・ネットワークの過剰な働きを招いているのが、ネット社会になって多すぎる情報に触れていることや、仕事に使うツールの進化や人手不足によってビジネスパーソンひとりあたりの仕事量が増えているなかでマルチタスクを強いられていることなどです。

脳が疲れていると、行動できないと語る川野泰周さん

マインドフルネスでメンタルブロックが外れ、行動的になれる

――そのことを前提に考えると、無駄な情報に触れないようにしたり、仕事をシングルタスクで行なったりするのが有効なのですね?

川野:もちろんそれらも有効ですが、じつは脳疲労を抑えるためにもマインドフルネスが力を発揮するのです。マインドフルネスで主に行なわれる集中型の瞑想は、心を平静にするためのものですが、デフォルト・モード・ネットワークの活性を穏やかにさせる働きもあるとわかっています。

また、それとは別の観点からも、先延ばしせず行動できる人間になるためにマインドフルネスが有効だもわかっています。先に、マインドフルネスにより「物語としての自己」ではなく「いまこの瞬間の自己」を生きることで過去に縛られないようになるとお伝えしました。

これは、メンタルブロックと呼ばれる「心のふた」が外れることを意味します。マインドフルネスを続けているうちに、子どもの頃の体験などをふとしたきっかけで思い出すようになったという人がたくさんいます。つまり、過去の体験や身につけた知識に縛られない本来の自分を取り戻せるのです。

すると、「子どもの頃は俳優になりたかったのだった」とか、「そもそもこの会社に入ったのは〇〇をやりたかったからだ」といった埋もれていた記憶がよみがえり、「プロになれるかはともかく、いまからでも劇団に所属してみよう」「上司に部署異動の相談をしてみよう」という具合に、行動につながる思考をもつようになるのです。

マインドフルネスでメンタルブロックが外れ、行動的になれると語る川野泰周さん

自分のタイプに合った瞑想をチョイスする

――マインドフルネスの基本は瞑想とのことでしたが、初心者でも取り組みやすい方法を教えてください。

川野:基本は、座っている状態で目を閉じて呼吸に集中するというものです。背筋を軽く伸ばし、鼻を出入りする空気の流れや、呼吸によって体が膨らんだりしぼんだりするのを感じます。その様子を、「空気が入った入った、出た出た」と、心のなかで実況中継しても結構です。頭のなかに雑念が湧いてきたら、そのことも実況中継しましょう。「あっ、雑念だ。呼吸に集中を戻そう」というように、雑念を手放すのです。

そして、この瞑想を日常生活行為とセットにしてルーティン化することでマインドフルネスの効果がさらに高まるタイプの人もいます。たとえば、お風呂で湯船に浸かっているとき、寝る前の5分、通勤電車のなかでだけ呼吸瞑想をするといった具合です。

一方、ルーティンが自分を縛るように感じられて苦手なタイプの人もいます。そのような人は、「なんでもいいので瞑想にしてしまおう」といった意識で取り組んでみるのがいいでしょう。たとえば、ペットボトルの水を飲むときに水の冷たさや味に意識を向ける、駅から会社まで歩くときに足の裏に伝わる感覚に意識を向けるといった具合です。

――呼吸ではないものに意識を向ける瞑想もあるのですね。

川野:視覚優位、聴覚優位、身体感覚優位といって、扱うのが得意な感覚は人によって異なります。これは私の見解ですが、呼吸瞑想は身体感覚優位な人に向いた方法です。視覚優位な人なら流れる雲を眺めてもいいですし、聴覚優位の人なら心のなかで「ひとーつ」「ふたーつ」とゆっくり数を数える「数息観」という瞑想がおすすめです。

ただし、エンタメ性があまりに高いものには注意が必要です。「おそらく自分は視覚優位だろうし、ホラー映画が好きだから」と映画を観ても、それは自分が主体的に注意を向けているのではなく注意を奪われている状態ですから、マインドフルネスにはなりづらいのです。

「脳疲労を抑える」ためにすぐできる有効な方法についてお話しくださった川野泰周さんと恩田勲さん

(左)川野泰周さん、(右)恩田勲さん

【川野泰周さん・恩田勲さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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