「資格試験前の最後の追い込み期間なのに、勉強を始められない……」
「勉強すべきなのはわかっているのに、机に向かってもやる気が出ない……」
このように「勉強に手がつかない」ときでも、気持ちを切り替えて勉強を始めるためには、「ロールレタリング」という方法がおすすめです。筆者の実践例とともに、詳しいやり方と効果をご紹介しましょう。
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。
「こころ」のための専門メディア 金子書房|不安から抜け出すためのロールレタリング(金子周平:九州大学教育学部准教授)#不安との向き合い方
仲嶺真, 上條菜美子, 大西智予, 村田理恵 (2021), 『個人で取り組むロールレタリングを試みた実践の報告』, モチベーション研究 : モチベーション研究所報告書, (10), 21-28.
中嶋渥, 山本眞利子 (2007), 『「就職後の自分」を用いたロールレタリングが大学生の進路不決断と自尊感情に及ぼす影響』, 久留米大学心理学研究, (6), 75-80.
「ロールレタリング」とは?
勉強をしたいという気持ちはあるのに、なぜかやる気が湧いてこないとき。自分の心のなかに「勉強したい私」と「やる気の起きない私」の二役を用意して、両者間で手紙をかわしてみる――これが、本記事で紹介する「ロールレタリング」です。
ロールレタリング(役割交換書簡法)とは、心理療法のひとつ。九州大学教育学部准教授で役割交換書簡法・ロールレタリング学会理事長の金子周平氏は、ロールレタリングを、自分の不安や悩みを見つめ直すために「一人二役、時にはそれ以上の役割の間で交わされる手紙を書いていく方法」だと説明しています。手紙を通じ、「自分で自分のことを大切にし、自分の気持ちをそのまま認め」られるのだとか。(カギカッコ内引用元:「こころ」のための専門メディア 金子書房|不安から抜け出すためのロールレタリング(金子周平:九州大学教育学部准教授)#不安との向き合い方)
たとえば、自分のなかで「勉強したい」という気持ちと「休憩したい」という気持ちが対立している場合。それぞれの気持ちを代弁するキャラクターになりきって手紙を書けば、自分のなかの葛藤や矛盾を認めることができます。
そうして気持ちを整理すれば、「勉強したい気持ちも休憩したい気持ちも両方あるのだから、勉強と休憩を交互に繰り返してみよう」といったように、勉強とうまく向き合うための解決策を見つけやすくもなるでしょう。
ロールレタリングは本来、精神科医や臨床心理士といった支援者のもとで行なわれる心理療法です。とはいえ、個人のみで行なっても効果があります。東京未来大学がモチベーションに関する教育・研究機関として設置したモチベーション研究所による報告では、「日常的に生じる不快感を低減するためのセルフケア、あるいは、健康維持の一環のための活動として」も活用可能だと結論づけられています。(カッコ内引用元:仲嶺真, 上條菜美子, 大西智予, 村田理恵 (2021), 『個人で取り組むロールレタリングを試みた実践の報告』, モチベーション研究 : モチベーション研究所報告書, (10), 21-28.)
また久留米大学で行なわれたロールレタリングの実証研究では、被験者である大学生が「就職後の自分」に手紙を書いたところ、「進路不決断の軽減」と「自尊感情の向上」が示唆されたとのこと。大学生らは、自己理解が進んだことで複数の可能性から進路をひとつ選択できるようになり、また自分自身を肯定的にとらえられるようにもなったのです。(カギカッコ内引用元:中嶋渥, 山本眞利子 (2007), 『「就職後の自分」を用いたロールレタリングが大学生の進路不決断と自尊感情に及ぼす影響』, 久留米大学心理学研究, (6), 75-80.)
ロールレタリングを無理のない範囲で行なえば、気持ちをうまく切り替えて行動へ移せるという点で、きっと一定の効果が得られるでしょう。
「ロールレタリング」を実践してみた
筆者も、勉強にどうしても手がつかず、不安や焦りばかり感じることがしばしばあります。そこでロールレタリングを個人的に実践してみることにしました。
今回手紙を書いた相手は、“勉強が終わったあとの、落ち着いた自分”。金子氏が示している、以下のポイントを押さえて実践しました。
- 誰から誰へ手紙を書くかを決めるのに時間をかける
「別の自分」か、あるいは「他者」か、悩みの種類によって相手を変える - 「他者」へ手紙を書く場合は、実際の相手へ送ったり見せたりしない
「実際のコミュニケーション」と「心の作業としてのコミュニケーション」を分ける - 自分の気持ちのまま、自由に手紙を書く
頭でストーリーをつくったり、展開を予想したりしない - 書いていて行き詰まることを恐れず、思いきり行き詰まってみる
試して嫌な感じが強かったり、つらいことを思い出したり、混乱したりする場合には、無理して行なわない
(前出の『「こころ」のための専門メディア 金子書房』記事よりまとめた)
そして金子氏が「紙とペンと、十分に余裕のある時間を準備すればよい」と述べていることから、B5のルーズリーフシャーペンを用意し、週末に行ないました。
こちらが、「現在の自分」から「勉強が終わったあとの、落ち着いた自分」へ書いた手紙です。
そして、「勉強が終わったあとの、落ち着いた自分」から「現在の自分」への手紙がこちら。
「ロールレタリング」を実践したら、気持ちをうまく切り替えられた!
今回の実践で感じたことと、提案したいことを以下にまとめます。
1. 何もしないときよりもすぐに、不安や焦りが解消された!
ロールレタリングを実践したところ、何もせず時が過ぎるのをただ待ったり、趣味などで気を紛らわせたりするよりも早く、気持ちを落ち着かせることができました。不安や焦りがすんなりと収まったのです。
また、時間をかけながら書き進めていくと、なぜ不安や焦りを感じるのか、自分なりに推測することができました。たとえば、「そういえば自分は、周囲からプレッシャーをかけられるような場面がこれまでに多かった」という気づきから、「過去の経験によって、不安や焦りという感情が生まれやすくなっているだけかも」と認識することができたのです。それだけでも少し気が楽になりました。
ただ、金子氏によれば “気持ちのまま” 書くのが大事だとのことでしたが、実際には、頭で内容を考えて書いてしまっていることに気づく場面がたくさんありました。気持ちのまま自由に書こうとすると、なかなかうまく表現できないもどかしさがあったのです。ですが、そうした自分ともじっくり向き合ったことで上記のような気づきを得られましたので、時間をかける意味があったなと感じています。
2. 実践後は、勉強に集中して取り組めた!
ロールレタリングによって不安や焦りが比較的早く解消されたぶん、勉強にも集中して取り組むことができました。具体的な解決策がなくても、感じるままに手紙へ書き出しただけで、一定の安心感を得られたからだと思います。
また「勉強が終わったあとの、落ち着いた自分」から「現在の自分」に対する共感的理解を得られたことがよりいっそう安心につながり、気持ちをうまく切り替えるきっかけになったと感じています。
そうした心境になれたからか、実践しやすい具体的な解決策を考えやすくもなりました。たとえば、「勉強を何度も中断してよい」「1問解くだけでもよい」「音楽を聴きながら勉強してもよい」といった解決策を考え、そのなかから現在の自分に合ったやり方を選べるようになったのです。今回書いた手紙は、気持ちを落ち着けるだけでなく、実際に勉強をし始める助けにもなりました。
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不安や焦りといった気持ちからなかなか抜け出せず、勉強に手がつかない……と感じる方は、ぜひ気持ちのままに手紙を書くロールレタリングを活用してみてください。この記事が、みなさんが勉強にスムーズに取りかかるためのきっかけとなれば幸いです。