「一生懸命勉強しているのに、成績がなかなか伸びず悩んでいる」
「100%の力を出しきっても仕事の結果が出ず、報われない」
このように全力を出して頑張ることに疲れてしまった人は、「8割行動」の状態を目指してみるとよいかもしれません。では具体的にどうすればよいのか、脳科学的観点から解説していきましょう。
「8割行動」を目指すべき脳科学的理由
神経内科医の米山公啓氏は、全力で頑張りすぎる人の問題点として、彼らの脳がアクセルを踏みっぱなしの状態になっていることを挙げています。というのも、ドーパミンが必要以上に分泌されてしまうことによって、ストレスの原因になる副腎皮質ホルモンの分泌も促されるからです。ドーパミンは、「こうなったらいいな」という欲求が具現化すると分泌される、「幸福感」に関わる脳内物質。ですが、過剰な分泌はストレスを誘引してしまうのだそう。
米山氏いわく、脳の理想的な状態とは、アクセルの役割を担うドーパミンと、ブレーキの役割を担うセロトニンの分泌バランスがとれていること。セロトニンは、いまに幸福を見いだす「満足感」に関わる脳内物質で、ドーパミンの働きをコントロールします。
米山氏は、セロトニンが心のブレーキとしてきちんと働くと、そこそこの状態で満足できるようになると伝えています。必要以上に全力を出さなくてもすむようになり、頑張ったのに報われないと感じることによるストレスや、精神的な疲労が軽減されるとのこと。全力で頑張りすぎる人に足りないのは、いまあるものに満足できるセロトニンの役割なのです。
そこで目安にしたいのが、米山氏が提唱する「8割行動」。8割行動とは、「100点を目指さなくていい、80点とれれば充分だ」という考えをベースにした行動を指します。米山氏によれば、8割行動ができている状態=ドーパミンとセロトニンの分泌バランスがとれている状態だと言えるそうです。
ちなみに、「8割」というのはあくまで象徴的な数字と考えてよく、これまでフルスロットルで行動していたのを、だいたい8割ぐらいに抑えるような気持ちでいればよいとのこと。以下では、「8割行動」に必須のセロトニン分泌を促す方法を3つご紹介しましょう。
【1】クイック瞑想
いつも全力で頑張る人は、仕事がある平日はドーパミンでアクセルを重視しがち。そこで、休日にセロトニンを分泌させブレーキを重視して、8割行動の状態を目指すとよいと米山氏は説きます。
セロトニンは落ち着いた状態のときに分泌されやすいため、具体的には瞑想を行なうのがおすすめだそう。瞑想と言っても難しく考えることはありません。精神科医の西多昌規氏によると、たった5分静かなところに座って、周囲の人や物をなんとなく眺めてボーっとするだけの「クイック瞑想」でも、セロトニンを分泌させるには充分とのこと。怒りや不安につながることを思い浮かべず、心を空っぽにすることを意識するとよいそうですよ。
たとえば休日の、家事や勉強がひと段落したタイミングにひとりになる時間をつくって、5分間だけ窓からボーっと景色を眺める……。これなら簡単に取り入れられるのではないでしょうか?
どうしても仕事や勉強のことが頭に浮かんでくる人は、「こんな考えが浮かんできた、次はあんな考えが浮かんできた」というように、考えが浮かぶ自分を客観的に観察するとよいと、同志社大学大学院・脳科学研究科教授の貫名信行氏は説きます。無心になろうと努力すると瞑想の効果がむしろ薄れてしまうので、注意してください。瞑想の習慣を身につけて、自分でブレーキを意識的にかけられるようになると、自然と8割行動ができるようになっているはずですよ。
【2】ウォーキング
セロトニンには一定のリズムを刻む「リズム運動」によって分泌を促される性質もあることから、西多氏は、1日15分程度のウォーキングをすすめています。これなら、通勤や買い物のタイミングで実践できる人もいるのではないでしょうか。
また時間に余裕がある休日には、1回15分のウォーキングを3~5セット行なうことも西多氏は推奨しています。たとえば起床後15分歩き、午前中に50ページ本を読んだら15分歩く、そして午後は勉強を終えたあとに15分歩く……というような感じです。
さらに精神科医の樺沢紫苑氏によれば、ウォーキングでセロトニンを効果的に分泌させるコツは、心のなかで「ワンツー、ワンツー」とリズムを刻んだり、音楽を聴きながら曲のリズムに合わせたりすることだそう。加えて、メンタルが弱ってしまっているときは歩行時間を少し増やすとよいとのこと。ただし、1回あたりのウォーキングは30分までにしてください。長くても30分以内で終えないと、セロトニン神経が疲れてむしろ逆効果になってしまうので注意しましょう。
全力で頑張りすぎていると気づいたら、気分転換にでもウォーキングをしてみてはいかがでしょうか。そうすれば自然と、ほどほどの「8割行動」ができるようになりますよ。
【3】3行ポジティブ日記
早稲田大学理工学術院教授の枝川義邦氏いわく、脳はマインドセット(=心のもちよう)に影響を受けるとのこと。逆に言えば、いまある幸せを意識的に見つけて満足感を得ようとすることが、セロトニンの分泌につながるはず。
前出の樺沢氏は、いまある幸せを意識的に見つけて満足感を得るための日々の習慣として「3行ポジティブ日記」をすすめています。3行ポジティブ日記の書き方は簡単。その日あった楽しかったこと、ポジティブな出来事を3つ書くだけです。
日記の内容は必ずしも仕事や勉強に関わることである必要はなく、プライベートの出来事でもかまいません。書くタイミングは、記憶が定着しやすい就寝15分前にするとよいとのこと。たとえば、次のような感じで書いてみましょう。
- 近所のカフェでテイクアウトしたらおいしかった。
- 取引先とゆっくり話す時間ができて、距離が縮まった。
- 今週4冊目の本を読み終えた。すごくいい内容で勇気をもらえた。
樺沢氏いわく、書き出したものはあとで読み返すとよいとのこと。「自分はこれだけ満たされている」「今日はこれだけのことができたんだ」と自分のポジティブな面に気づくことができるので、日々の満足感が高まり、全力で頑張りすぎることなく8割行動でいられるようになるはずです。
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全力で頑張ることに疲れた人は、少し気持ちをセーブして8割行動をとれるよう、ドーパミンとセロトニンの分泌バランスを整えることを心がけてみましょう。ほどよく肩の力が抜けて、ストレスなく仕事や勉強に専念できますよ。
(参考)
米山公啓 (2006), 『すべてがうまくいく8割行動術』, ソフトバンククリエイティブ.
西多昌規 (2016), 『めんどくさくて、「なんだかやる気が出ない」がなくなる本』, ソフトバンククリエイティブ.
イミダス|瞑想の効果を脳科学からみてみる
ダイヤモンド・オンライン|精神科医が「絶対にやるべきだ」と断言する朝のベスト習慣
樺沢紫苑 (2021), 『精神科医が見つけた 3つの幸福 最新科学から最高の人生をつくる方法』, 飛鳥新社.
日本の人事部|人事に活かす脳科学
東洋経済オンライン|自己肯定感が低すぎてつらい人のための処方箋
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。