行動経済学で明らかになった「先延ばし」のメカニズム。どうすれば “すぐやる人” になれるのか?

やるべきことはたくさんあるのに、いつも先延ばしして後で苦しい思いをする。そういった経験を、誰もが持っているものと思います。

子どものころ、夏休みの宿題に最後の最後まで手をつけず、提出が遅れて先生に怒られたことがある方であれば、「自分はそういう性格だから仕方ないのかも」というふうに思っているかもしれません。とはいえ、だらだら先延ばしにする癖、直したいですよね。

そんな皆さんに朗報です。2017年のノーベル経済学賞(シカゴ大学リチャード・セイラー教授)を受賞したことでも話題になった「行動経済学」の分野の研究で、人間はなぜ先延ばしにしてしまうのかということが少しづつ解明されてきたのです。今回の記事では、行動経済学の考えから先延ばしの原因を分析し、すぐやる人になる方法を伝授していきます

行動経済学って何?

まず初めに、行動経済学とは何かを簡単に説明します。

経済学とは、人間や企業、政府などの経済主体と、コストやインセンティブといったものが相互にどう影響しあうか、といったものを解明する学問です。その経済学の議論の前提となっているのは、「合理的な」人間像。ここでいう「合理的な」人間とは、自分の利益が最大となることを行動の基準とする人間を指します。

しかしながら、皆さんもご存じの通り、人間とは必ずしも一貫して合理的であり続けることはありません。合理的であれば、ダイエット中にケーキを食べてしまうことはないですよね。合理的であれば、医者に止められているにもかかわらず居酒屋に立ち寄ることはありません。そして、合理的であれば重要な課題を後回しにすることはないはずです。

こうした人間の気まぐれや不合理な行動をモデル化し分析した学問が、行動経済学なのです。

「現在バイアス」―人間は今しか見られない―

現在バイアスという聞きなれない言葉。これは、2002年に行動経済学でノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマン氏が提唱した概念です。私たち人間は、この現在バイアスが原因で、将来の出来事に対する適切な評価ができなくなってしまいます。

ここで質問です。今すぐに1,000円もらうのと一年後に1,500円もらうのなら、あなたはどちらを選びますか。合理的な人間なら、本来この問いをどう考えるでしょうか。

妥当な考え方としては、「投資の世界ではプロでも年間30%の運用益を上げるのがやっとだ。そう考えると、一年間で1.5倍になるなんてすごいお得じゃないか。ここは我慢しよう」というものが考えられます。

しかしながら私たちは、たとえ投資の理論について知っていても、目先の1,000円に飛びついてしまうのではないでしょうか。このように、私たちは今を過剰に優先してしまいます。現在バイアスとは、将来の利益よりも現在の利益を重視する心の働きのことなのです。

先延ばし癖と関わりの深い「意志力」の問題

現在バイアスを説明するうえで重要になるのが、「意志力」という考えです。意志力とはなんともつかみどころのない印象をあたえる言葉ですが、脳科学の分野で実証されているもの。「やる気」として言い換えてもいいかもしれません。

私たちが何か行動を起こす際には、必ず意志力を消耗しています。

気が進まないことをするときほど意志力を多く消費し、ルーティーンワークは意志力をあまり消費せずにこなせます。また、重要でないことをするときには意志力をさほど必要としませんが、重大なことをするには意志力が要ります。わかりやすい例でいうと、警備員のおじさんに「お疲れさま」と声をかけるのと、気になっている女性に声をかけるのでは、後者の方が重大なことであるため大きな意志力を消費するということ。

未来のことは、現在バイアスがかかってどうしても優先順位が低く感じられるもの。そして、重要な作業は取り掛かるだけでも意志力を消費します。だから私たちは、「〇〇日までに課題を終わらせる」といったような重大ではあるものの未来のことに関しては、意志力を消費しまいと、先送りにしてしまうのです。これが、現在バイアスと先延ばしの関係なのです。

先延ばし癖はこう直せ!

ここまで見てきた通り、先延ばし癖は行動経済学によって説明できます。この仕組みを理解していれば、先延ばし癖は直せるはず。そのための2つの方法を紹介します。

・先延ばししたときの罰をもうける ひとつの方法は、何かを先延ばししてしまった際の罰を大きくし、やらざるを得ない状況をつくることです。イェール大学のイアン・エアーズ氏らがあるサイトを立ち上げました。それは、「自分が決めた約束を守れなかったら、あらかじめ預けておいたお金を自分の嫌いな団体に寄付する」というもの。意志力と現在バイアスの関係をうまく利用したコントロール方法であると言えます。「○○を□□までにやらなかったら、友人に何かをおごる」といったふうにも応用可能です。

・意志力を必要とするレベルを引き上げる 意志力がなくても行動を起こせるように、意志力を必要とするレベルを引き上げましょう。そのために必要なのは、無理矢理にでも何かを習慣化すること。これもまた、友人などの協力を借りて、一定以上の期間継続する習慣をつけるのです。例えば「夕方の1時間を必ず課題学習にあてる」ことを習慣にして、課題に取り組むのに必要な意志力を少なくします。最初はつらく思えたとしても、気がつかぬ間に当たり前になり、先延ばしをすることも減っていくはずです。

*** 先延ばしをして失敗してばかり、ということもきっと卒業できます。まずは、現在バイアスの正体をきちんと把握することから始めてみましょう。

(参考) SHIMADZU|ぶーめらん バックナンバー あしたのヒント 大阪大学 行動経済学からみた後回し癖を解消する方法 DIAMOND online|「罰ゲーム」の経済学――コミットメント・メカニズムで「不合理な自分」を変える!第2回 大阪大学教授 大竹文雄【中編】 DIAMOND online|5分でわかる!ノーベル賞受賞の「行動経済学」とは人を幸せにする学問だ

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