「わたしは体力には自信があります!」。
学生時代のアルバイトの面接時や、まだ社会人になって間もない20代のころ、そうやってあり余る体力をアピールした人も多いでしょう。ただ、残念ながら……年齢を重ねると体力が落ちてしまうのが生身の人間です。30代以上の人なら、何気ない日常のなかで肉体的な衰えを感じることもあるはずです。
大人になることは、あきらめること――。そんな言葉もよく聞かれます。しかし、この「あきらめる」には、わたしたちが普段使うものとはまったくちがった意味も込められているようです。
【格言】 あきらめるは、「明らめる」こと
人間は30歳を超えたころから、自律神経をはじめ体が変化していくので、どうしても体調の悪い日は思うように作業がはかどらないことが増えていきます。もう20代のころのように、すべて体力や気合では乗り切れないのです。
そんなときは、ある程度「あきらめる」ことも必要です。たとえば、質の良い睡眠をとったあと、午前中に集中を必要とする仕事に没頭し、午後は打ち合わせなどを入れて少しずつ流していくなど、体力が低下したぶん工夫が必要になるのです。
「あきらめる」というと、なんだか負けたような否定的な意味に聞こえますが、本来は「明らめる」(物事の事情・理由をあきらかにする『大辞林』)という意味で使われていました。つまり、調子が悪いならその原因をしっかり特定し、最善の対処をしようというわけです。
体力や気合で乗り切れないのに、「仕事が多くて終わらない」「休めるわけがない」と嘆いて問題を先送りしていると、いつまでも問題が解決しないどころか、大切な体と心に悪い影響を与え続けてしまいます。
あきらめるは、「明らめる」。そのように考え方と行動を変えていくことで、次第に外部の力にも動じない覚悟が身についていきます。自分を守るためにも、30歳を超えたら知恵と工夫で乗り切っていきましょう。
【プロフィール】 小林弘幸(こばやし・ひろゆき) 1960年、埼玉県に生まれる。順天堂大学医学部教授。日本体育協会公認スポーツドクター。順天堂大学医学部卒業後、1992年に同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任。国内における自律神経研究の第一人者として、アーティスト、プロスポーツ選手、文化人へのコンディショニングやパフォーマンス向上指導を行う。著書には、『自律神経を整える「あきらめる」健康法』(KADOKAWA)、『自律神経が整う時間コントロール術』(小学館)、『自律神経が整えば休まなくても絶好調』(ベストセラーズ)などがある。
Photo◎川しまゆうこ
*** あきらめる=明らめる。つまり、大人になることは明らめること、だったのです。そう発想を変えるだけで、日常的に感じていた体の衰えもちがったものに感じられるのではないでしょうか。
この発想の転換を生かせる場面はほかにもいくらでもあります。仕事上の大きなトラブルが発生したとしましょう。経験に乏しい若者であればあたふたするしかないかもしれません。しかし、明らめることができる大人であれば、トラブルの原因を究明しきっちり対処できるはずです。「わたしは明らめることができる大人なんだ」。日ごろからそう自分に言い聞かせておくのもいいかもしれませんね。