日本の体操はかつてたくさんのメダルを量産し、表彰台を独占して「体操王国」と呼ばれていたのを知っていますか? そこから表彰台に立てない時代が長らく続きましたが、この数年は内村航平選手を初め、多くの選手が国内外で活躍しているおかげで、かなりお家芸が復活してきました。
実はこの競技には勉強といくつもの共通点があり、第一級の体操選手たちがやっていることが勉強や仕事にも応用できるのではないかと考えられます。今回は(一応)大学で体操をやっている筆者が、その共通点と勉強に生かせる教訓をご紹介します。
勉強との共通点は“本番で自分の力をミスなく発揮する”ということ
球技や格闘技などの対人スポーツ、陸上や水泳などの記録を追い求めるスポーツでは試合で実力以上の力を発揮することが求められます。一方で、体操を初めダンスやシンクロ、といった人に見せることを目的とするスポーツは普段の練習通り、あるいはそれ以下の力でいかにミスをしないかということが重要です。 そして受験や資格勉強もこれらのスポーツと同様で、一か八かで本番に挑む人はいないですよね。
また、日々コツコツと繰り返される筋トレや柔軟で身体を作り(公式や単語、文法といった基礎を覚え)技の練習を繰り返す(応用問題をたくさん解く)というサイクルも実に似ているのです。
「体操の教科書」が “練習でわざとミスを連発” する訳
最近では知っている方はほとんどいないと思いますが、かつて日本体操界には史上二人だけの五輪個人総合2連覇(その次の大会でも銀メダル)、五輪での獲得メダル数は全スポーツを通して日本一というレジェンド的存在がいました。それは、その技の美しさから「体操の教科書」という異名がついた日本のエース、加藤沢男選手。
しかし、その偉大な功績とは裏腹に練習では常に失敗続きで、直前の会場練習ですらボロボロな姿で周囲はいつもヒヤヒヤしていたとか。もちろん、加藤選手が本番に異常に強い選手ということはなく、この失敗続きには意味があります。
自らをプレッシャーにとても弱いと称する加藤選手は幾度となく「失敗する練習」を積むことにより、どうなったら、どうしたら失敗するかをひたすら研究し続けていたのです。こうすることにより緊張してしまう本番でも、自分がどうしたらよいか明確に理解でき高得点をうみだしていたのです。
これは受験本番でケアレスミスしがちな人や、プレゼンや面接などのここ一番で緊張してしまう人にも効果のある練習ではないでしょうか。 上手くいく練習を積むだけではなく、「どういう時に自分はミスをするのか。そしてそこからどうリカバーすれば良いか」を研究することで、本番での失敗を防ぎ、また、「失敗しても大丈夫」という安心材料にもなります。
37年ぶりの団体金を生み出した “セルフトーク”
つい先日の世界選手権で日本男子団体は37年ぶりに金メダルを獲得しました。その試合前の映像に彼らのメンタルコントロールを垣間見させる1シーンがありました。試合直前、円陣を組んだ代表選手たちは「日本は」「強い」と三度叫びました。 これは「セルフトーク」と呼ばれる自分自身への働きかけで、アニマル浜口さんや松岡修造さんといったパフォーマンスのイメージが強いかもしれませんが、非常に多くのスポーツ選手が行っています。 これはあえてポジティブな言葉を自分に発することで、不安を打ち消し、あらたな自信を身に付けるために行います。
ビジネスや受験では円陣を組むことはできませんが、鏡に向かって自分を鼓舞したり、紙などに書いておまもりとして持ち歩くなど、自分の力を発揮するためにぜひとも真似しておきたいことです。
*** いかがでしょうか。今回は体操についてお話ししましたが、スポーツやその他の分野のメンタル術や教訓の中にも勉強やビジネスに活かせるものはたくさんあります。漫然と有名なものを真似するだけでなくその競技の特性や共通点を理解して行えるとその効果はきっと何倍にもなるでしょう。
参考 新潮社|門田隆将『あの一瞬-アスリートはなぜ「奇跡」を起こすのか-』|書評/対談| No Love No Team|自己暗示で自信も緊張も不安も思い通り、セルフトークの効果的な方法