上司に先輩、同僚に同級生、あるいは後輩に、どうもいまひとつ好かれていない気がする……。そう感じるときは、ちょっとした心理テクニックを活用してみましょう。あなたの働きかけで「認知的不協和」を起こした敵は、きっとあなたの支援者へと変化するはず。その心理効果とコツを紹介します。
認知的不協和とは
アメリカの心理学者レオン・フェスティンガー氏が提唱した「認知的不協和」とは、ひとりの人間が矛盾した複数の認知を同時に抱えたとき、不快感を覚え、なんらかの圧力を起こすこと。人は不協和があると、それを低減させるか除去するために、一方の要素を変化させたり、要素を追加したりします。たとえばこうです。
- 「わたしは痩せたいのでダイエットをしている」
- 「わたしはドーナツが大好きなので食べたい」
上記2つの認知には矛盾があるので、不快感が生まれます。2を「わたしはドーナツが大好きだが、食べない」に変えられたら矛盾はなくなり、不快感は消えますが、どうしてもドーナツを食べることが我慢できない場合、以下のように都合よく認知を追加してしまいます。
- 「わたしは痩せたいのでダイエットをしている」
- 「わたしはドーナツが大好きなので食べたい」
- 「ドーナツを食べても、運動すればいい」
- 「〇〇さんもドーナツ好きだが痩せている」
グロービス出版局長・グロービス電子出版編集長兼発行人の嶋田毅氏いわく、認知的不協和の状況に置かれること自体は別に悪いことではないそう。しかし、こうした認知の変更はバイアス(思考の偏り)と相まって、望ましくない方向に導く場合があるのだとか。さまざまな認知バイアスによって強化された意思決定は、なかなか修正がきかなくなるそうです。
もちろん、上記のような認知の追加や変更をしてばかりでは困りものですが、この心理は、あなたをあまり好意的に見てくれていない人にも活用できるのです。
ベンジャミン・フランクリン効果とは
ベンジャミン・フランクリンは、アメリカ独立に多大な貢献をした18世紀の政治家。外交官、著述家、物理学者、気象学者でもあった彼は、敵の心理操作に長けていたようです。
議会で激しくある人物から非難されたフランクリンは、その相手に媚びることも、敵意をむき出しにすることもせず、ただ「あなたの本を貸してくれないか」という手紙を送ったのだとか。その人物は、2度ほどフランクリンに本を貸したところで態度を変え、すっかり好意的になったそう。
その人物に起こったことこそが、先に述べた「認知的不協和」です。
- 「わたしはフランクリンに本を貸す」
- 「わたしはフランクリンに敵意がある」
上記では矛盾が生じて不快なので、変えやすいほう、つまり2を以下のように変えたわけです。
- 「わたしはフランクリンに本を貸す」
- 「わたしはフランクリンの友人」
この興味深い変化が起こったことから、「ベンジャミン・フランクリン効果」と呼ばれるようになりました。弁護士の荘司雅彦氏は、この心理的な効果を説明し、こう述べています。
相手に負担を与えない「親切な行動」を起こさせれば、相手のあなたに対する感情は(少なくとも)敵対的なものではなくなるだろう。
(引用元:アゴラ|好意を持たれたければ、相手に小さな親切を頼もう!)
小さな頼みごとで敵を支援者に!
「もしかして、わたしのことを嫌っているかも?」と感じさせる人物が近くにいるなら、ベンジャミン・フランクリン効果が生まれるように、ちょっとした頼みごとをしてみましょう。
荘司氏の助言どおり、相手が負担を感じない程度の、“小さな”頼みごとであることが重要です。おすすめは以下のように、その人物が詳しいことをアドバイスしてもらうこと。
- 本好きな人に→「おすすめの本を教えてほしい」
- 映画好きな人に→「おすすめの映画を教えてほしい」
- ファッション好きな人にに→「最近の流行を教えてほしい」
- 食通な人に→「〇〇駅周辺の美味しい店を教えてほしい」
- 料理好きな人に→「〇〇を上手に作るコツを教えてほしい」
ただし、たとえば本好な人に質問した際、「どんな本が読みたいの?」と聞かれ、実用書しか読まない人に対して「推理小説」と答えたら、そこで話が終わってしまいます。それどころか相手に不快感を与え、余計に状況を悪くしてしまうかも……!? アドバイスをもらうからには、その人物が好むものを先にリサーチしておくことが大切です。
また、英語を教えて収入を得ている人に「英語を教えて」と頼んだり、絵を教えて収入を得ている人に「絵の描き方を教えて」と頼んだりするのも、決して行ってはいけないこと。
こうした行為について、荘司氏は「有料商品をタダでくれといっているのと同じ」だといいます。マナーを守り、相手が負担に感じない程度の頼みごとに留めましょう。
頼みごとのあとは、必ず「報告」と「感謝」を
数多くの本を読んでいると自負する人物Aが、あなたというBを「少し苦手」だと感じ、距離を置いていたとします。しかし、そのBが何度か、「〇〇に関して、初心者でも分かりやすい本を教えてほしい」と頼んでくるものだから、自尊心をくすぐられたAはときおり言葉で、ときにはリストにして、おすすめの本を教えるようになります。そうしているうちに、
- 「わたしはBに本のことを教える」
- 「わたしはBが苦手なので友人ではない」
という矛盾した認知が不快になり、
- 「わたしはBに本のことを教える」
- 「わたしはBの友人である」
に変化していくでしょう。しかし、頼みっぱなしはマナー違反です。頼みごとのあとは、必ず報告を行い、感謝することが大切です。
「教えてくれた本、とても分かりやすかった。本当にありがとう!」
そんな風にいわれて、気を悪くする人はいないはず。このアフターフォローが、敵をより頼もしい支援者にしてくれるはずです。
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「認知的不協和」を生む「ベンジャミン・フランクリン効果」で、自分を嫌う人の意識を変えていく方法、コツなどについてお伝えしました。さりげなく、しつこくせず、効果を感じなければアッサリと引き上げるほどあいで、チャレンジしてみてくださいね。
(参考)
GLOBIS 知見録|その発想の方向でOK? -認知的不協和
アゴラ|好意を持たれたければ、相手に小さな親切を頼もう!
Wikipedia|認知的不協和
Wikipedia|ベンジャミン・フランクリン