はじめまして、アナウンサーの佐藤委子です。地方局での局アナを経験した後、フリーアナウンサーとなり、現在はニュースやインタビュー、リポートのほか、企業等の式典の司会も行っています。
アナウンサーのように話すことを仕事としていない方でも、プレゼンや結婚式のスピーチなど、人前で話す機会は実はたくさんあります。突然そのような状況になるとうまく話せなかったり、なかなか伝わらなかったりといった経験をしたこともあるでしょう。このコラムでは人前で話すにあたっての心構えや必要な準備、アナウンサーが使っている伝えるためのテクニックや練習方法についてご紹介します。これらを理解し、身につけることで、人前で話すときの不安をなくし、堂々と自分の伝えたいことを話すことができるようになるでしょう。
第1回は、「安定した発声」がテーマです。安定した発声は、聞きやすさにつながり、相手に話す内容を理解してもらいやすくなります。まずは、その前に人前で話すことと、日常会話との違いについてみていきましょう。
「プライベートスピーキング」と「パブリックスピーキング」
基本的な考え方ですが、家族や友人と話すときと、人前で話すときは全く違います。まずは、そこに違いがあることを認識することが必要です。
家族や友人と話すことを「プライベートスピーキング」、人前で話すことを「パブリックスピーキング」として違いを整理していきます。
【プライベートスピーキング】 聞き手:特定少数 内容:私的なもの 環境:リラックスできる雰囲気 時間:決まりがない 関係:双方向
【パブリックスピーキング】 聞き手:不特定多数 内容:改まった内容 環境:緊張感のある雰囲気 時間:決まりがある 関係:一方向
こういった違いがあります。プライベートの場合は、聞き手が少数で近い距離にいるので、うまく話せなくても、相槌や相手からの質問などでサポートされることにより、自然と話を進めることができます。
しかし、パブリックスピーキングでは自分一人が不特定多数に、改まった内容のものを一定の時間で話さなければいけません。これらのことから、人前で話すことを難しいと感じる人が多くなります。
それでは、伝えるプロであるアナウンサーは、パブリックスピーキングを極めるためにどんなことを訓練しているのか説明していきましょう。この訓練に必要な道具は時計と鏡のみ。簡単に始められますので、一緒に挑戦してみてください。
「聞き手に届きやすい」安定した声を手に入れる
いくら魅力的な内容のことを話していても、その声が聞き手に届かなかったら全く伝わりません。マイクを使うにしろ、安定した発声が大切になります。そのために、まず大切なのが呼吸です。
ご存知の方も多いと思いますが、呼吸の種類には胸式呼吸と腹式呼吸の二つがあります。肺が横に広がるのが胸式呼吸で、縦に広がるのが腹式呼吸です。肺の下にある横隔膜を上下することで大きく呼吸する腹式呼吸は、たくさんの空気をしっかりと吸うことができ、安定した発声へとつながっていきます。
また、体の下の方を起点として呼吸するので、肩や喉に無駄な力な入らないため、喉が開き、少ないストレスで発声することに繋がります。実際、腹式呼吸はどのように行うかというと、基本は空気を吸うときにお腹が膨らませ、吐くときにお腹をへこませます。
それでは、詳しく説明していきますので、やってみましょう。 (1)背筋を伸ばし、足を肩幅に広げて立つ (2)お腹に手を当てて肩の力を抜き、リラックスする (3)鼻から息を吸い、吸うときにお腹を膨らませる (4)吸いきったら、口からゆっくり息を吐き出し、その際にお腹をへこませる
この(1)~(4)を10回ほど繰り返してみてください。息を吸うときに肩が上がってしまうようであれば、それは胸式呼吸となりますので、しっかり腹式呼吸ができているかどうかはそこで判断してくださいね。
腹式呼吸ができるようになったら、息を吐くときにどれだけ長く吐き続けることができるか挑戦してみてください。まずは、「あーーーーーー」と声を出しながら30秒以上続けられるようになることを目指します。肺活量を上げることも安定した発声への大切な要素です。聞き手に届きやすい声は、パブリックスピーキングの際にとても重要となりますので、ぜひマスターしてくださいね。
「聞き取りやすい発音」は正しい口の形から
日本語は、「ん」を除いて全ての音に母音がついているため、母音がしっかり発音できていないと、子音もあいまいになってしまいます。母音の正しい口の形を練習することで、一気に良い発音に近づけていきましょう。
それでは、正しい母音の口の形の確認です。鏡を見ながら口の形を確認してみてくださいね。 「あ」・・・ 口を縦に大きく開く 「え」・・・「あ」の口からあごを少し閉じて、やや左右に開く 「い」・・・「え」よりも左右にひっぱるように、平たく開く 「う」・・・「い」の口から、唇を少し丸めて前に突き出す意識で 「お」・・・「う」の口を少し開き、唇を丸くする。舌をやや奥へ引っ込める
新人アナウンサーの研修では、まずこの正しい口の形をマスターすることから始まります。練習内容としては、お腹に手を当てて、発声と同時に空気をお腹から一気に空気を出すイメージで行います。
「あっ、えっ、いっ、うっ、えっ、おっ、あっ、おっ」
このように、一文字一文字切るように、はっきりと発声することを意識します。あ行(あえいうえおあお)から、わ行(わえいうえおわお)まで通して行い、正しい口の形を体に覚えさせます。これらを身につけることで、もごもごとした聞きづらい話し方の改善になるのです。
今回は、人前で話すという基本的な考え方と、安定した発声に必要な呼吸法、母音の正しい口の形について説明してきました。次回は、滑舌を改善するトレーニングについてご紹介していきます。