「張りきって仕事をしていても、上司に注意されると途端にやる気をなくしてしまう」
「メンバーの発言に納得がいかないと、不満で仕事が手につかなくなる」
このように、感情の起伏に流されやすい人は、パフォーマンスが安定せず、仕事で結果が出にくいものです。感情に振り回されるととても疲れますよね。
そこで、感情の起伏とうまく付き合うための「10のしないこと」をリストアップしてみました。「すべきこと」に縛られないので、きっと気軽に始められますよ。
感情が “とっさに” 湧き上がるワケ
「感情的」という言葉には否定的なイメージがあり、特にビジネスシーンでは感情を抑えた振る舞いが求められます。しかし本来、感情は自然な現象であり、とても重要な存在です。
感情心理学の専門家で名古屋大学教授の大平英樹氏によると、感情の形成において中心的な働きをするのは脳の扁桃体。扁桃体には、何かを見たり聞いたりしたとき、それが生存に関わる重大なものかどうかを判断する働きがあります。この “命にかかわる判断” こそが感情の正体です。扁桃体には「瞬時に」判断する性質があり、これが感情の起伏の原因にもなっています。ついカッとなったり急激に嫌悪感が増したりすることがあるのもこのため。
とはいえ、私たちがいつも本能のまま感情を表に出すわけにはいきません。多分野の識者らが、感情の起伏とうまく付き合える可能性を説いています。そこから今回の「10のしないこと」を作成してみました。
感情の起伏とうまく付き合うための「10のしないこと」
1. ストレスをためない
スピード重視の扁桃体にブレーキをかけるのが、理性や論理的思考を担う前頭前野だと大平氏は言います。しかし、ストレスは前頭前野の機能を低下させてしまうとのこと。適度な休憩を設けたり、趣味の時間でリフレッシュしたりと、ストレスをためない工夫をしてみましょう。
2. 無理な仕事は引き受けない
過剰なストレスを抱えないためには無理な仕事を頼まれたら断ることも大切だと、心理学ジャーナリストの佐々木正悟氏は言います。
うまく断るには、「急ぎの打ち合わせが入っているので」などと、スケジュールが厳しいことを伝えるのが効果的とのこと。やむを得ず引き受ける場合も、即答で承諾せず、返事を渋って余裕があるわけではないとわかってもらうことが大事だそうですよ。
3. 黙っていても評価はついてくると思わない
「一生懸命やっているのに認めてもらえない。同僚は評価されているのに……」こうした嫉妬や焦りに振り回されると、モチベーションは下がってしまうもの。
しかし、佐々木氏は「やるべきことをやっていれば評価は黙っていてもついてくる、とは思わないほうがよい」と言います。必要なのは、資格取得に励んでいることを日頃からアピールしたり、チーム業績への貢献具合を面談で説明したりして、自分の頑張りを理解してもらうこと。正当な評価が得られれば、余計な感情に振り回されなくなるでしょう。
4. 結果を出すことに執着しない
ビジネスでは目標の達成が重視されるが、それにばかり縛られると、自己嫌悪に陥ったり無茶な目標を与えた上司に怒りを感じたりと、負の感情に振り回される。多くの著書でビジネスパーソン向けに禅の教えを説いている禅僧の枡野俊明氏は、そう述べます。
結果への執着で感情を乱す人は、目の前の仕事に集中するように心がけましょう。禅の世界では、「いまできること」をそのつど一心に行なっていけば、結果はおのずとついてくるという考え方があるそうです。先のことばかり考えては、不安が募り、本来の力が出せなくなってしまいますよ。
怒りがこみ上げたら、ワンクッション置いて伝える
5. 周囲に過度な期待をもたない
急に表れやすくコントロールしにくい「怒り」の感情。精神科医の西多昌規氏によると、人は自分の思うようにならないことに怒りを抱きやすいので、周囲への期待値を下げると感情の起伏が落ち着くそうです。
たとえば、指示を出すだけで自分は動かない上司に、動いてもらうことを期待するよりも、「おかげで私はたくさんの経験が積める」と気持ちを切り替えるほうが得策でしょう。
6. 自分の価値観だけが正しいと思わない
精神科医の和田秀樹氏は、「感情的にならないための第一歩は、自分の性格の偏りを自覚すること」だと言います。
たとえば、デスクは常にきれいにしておきたい人が、使ったものをすぐにしまわない同僚を見たら、きっとイライラしますよね。ですが同僚は、作業がひと段落してからまとめて片づけたいタイプなのかもしれません。この場合、「自分は神経質ゆえのきれい好きなのだ」と自身の性格の偏りを理解すれば、考え方が違う同僚を見てもイライラしにくくなるのです。
自分も他人もみなそれぞれ自分なりの価値観をもっていることを、心に刻んでおきましょう。
7. 怒りに任せて相手を叱らない
イライラしない工夫をしても、相手を腹立たしく思うことはあるもの。そんなときは、怒りに任せて叱らず、相手に注意を与えるスタンスで考えを述べるとよいと、アドラー心理学カウンセリング指導者の岩井俊憲氏は言います。具体的には、相手主体ではなく自分主体で気持ちを伝えるのです。
たとえば、部下の仕事の遅さにいらだちを感じて「どうしてそんなに時間がかかるの?」と部下に答えを求めるのは、相手主体の伝え方。それを自分主体に変えます。「きみにはもっとステップアップしてほしいから、あらためて作業の流れを把握したらどうか」といったように、「私はこう思う」と心配や期待を込めた言葉を伝えるのです。
ワンクッション置いて自分主体の言葉に置き換えれば、カッとなった感情も落ち着くことでしょう。
活力が湧かないときは、無理して頑張らない
8. 漠然とした不安をそのままにしない
「明日会社に行くの嫌だな」「なかなか寝つけない」と不安になることはあっても、なぜ不安なのかをはっきりと言えない人は少なくありません。先述の西多氏は、不安の原因を明確にするだけでも、感情に振り回されることはなくなると言います。方法は簡単。心配事を箇条書きでリストアップするだけで、漠然とした不安の中身がはっきりします。
書き出しているうちに「プレゼンが不安」だと気づいたのなら、上司に相談したり、話し方のシミュレーションをしてみたりすると、気持ちが和らぐかもしれません。書いたものを目で見るだけでも、効果てきめんだそうですよ。
9. なんでも自分のせいにしない
西多氏いわく、落ち込みやすい人はまじめで責任感が強いために、なんでも自分のせいにしがちだとのこと。そして、「少しくらいまわりのせいにしてもいい」とアドバイスを送っています。
チームの成績が思わしくないときは、「自分の頑張りが足りないから」と自責するのではなく、運のせいにしたり、「部長の指示が悪い」と他人のせいにしたりしていいのです。心のなかで何かのせいにしてスッキリ立ち直ったほうが、前向きに仕事に取り組めるはず。自分にもまわりにもプラスになるのではないでしょうか。
10. 活力が湧かないときは無理に頑張らない
憂うつで活力が湧かないときは、無理にエネルギーを引き出そうとせず、将来に向けての充電期間ととらえるとよい……。先述の岩井氏は、そう言います。
岩井氏によると、つらいときに無理をしがちな人は、周囲の評価や「○○歳までに○○をすべき」という発想にとらわれているとのこと。しかし、アドラーが「人間は自分自身の人生を描く画家である」と説いているように、自分のペースで筆を進めたり休めたりしていいのだと岩井氏は述べます。
誰より早く出勤して、休日もセミナーで勉強して……という生活に疲れたら、「こんなときに頑張っても仕方がない」と割りきるのも、感情をコントロールするコツかもしれません。
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感情を完全にコントロールすることは難しいものですが、工夫次第で上手に付き合うことはできます。リスト内で「これならできそう」というものから始めてみてくださいね。
(参考)
NIKKEI STYLE|感情はどこから? 実は生存をかけて脳が下した判断
佐々木正悟(2014),『できる人は感情の整理がうまい! ラクに成果が出るビジネス心理学』, 三笠書房.
THE21オンライン|なぜ、「負の感情」に振り回されるのか?
西多昌規(2015),『感情に振り回されない技術』, 大和書房.
まいにちdoda|いっときの感情に流されない! 即席・感情コントロール術で人間関係を円滑にする
岩井俊憲(2016),『感情を整えるアドラーの教え』, 大和書房.
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。