あなたは “勉強する大人” ですか、それとも “勉強しない大人” ですか? 高校や大学を出て社会人になったあとも勉強や読書をしているでしょうか。授業や試験がないのに自分で勉強を続けるのは、なかなか難しいかもしれませんね。
仕事や家事、お金の心配などで忙しい生活のなかでも、知識を吸収し続ければ、自分が実際に経験した以上のことを学べます。“勉強しない大人” から “勉強する大人” に変わり、周囲から一歩抜きん出てみませんか?
今回は、日本人に “勉強しない大人” がどれくらいいるのか確認したあと、“勉強する大人” になる方法をご紹介します。
“勉強しない大人” は3人に1人
まず、日本にはどのくらいの “勉強しない大人” がいるのか確認してみましょう。下の円グラフをご覧ください。転職情報サイト「エン転職」の利用者を対象に行なわれた2019年のアンケート結果を、筆者が再集計したものです。
「仕事に関わる知識やスキル」の学習時間について、3割もの人が「これまで取り組んだことはない」と答えています。週に7時間(1日1時間)以上勉強している人は、全体のわずか4.9%でした。
この結果を見て、少しホッとした方もいるのではないでしょうか。「なんだ。不勉強な仲間は、こんなにたくさんいるんだ」と。
たしかに、社会人は仕事漬けで多忙ですし、貴重なプライベートの時間は遊びに使いたくなるのが人の常でしょう。学校を卒業したあとも勉強を続けるのは、よっぽどのやる気がないかぎり難しいものです。
しかし、「20人に1人は、週7時間以上も勉強している」とも解釈できますよね。週に7時間でも、月に30時間、年に360時間と、差はどんどん開いていきます。
けれど、焦る必要はありません。あなたが1日たった1時間ずつでも勉強に使えば、“勉強しない大人” たちを追い越せるということなのです。
“勉強しない大人” に伝えたい。私たちが学ぶべき3つの理由
“勉強しない大人” が “勉強する大人” に変わるには、動機づけが必要でしょう。受験や定期テストとは縁のなくなった社会人が学び続けるべき理由とはなんなのでしょうか?
答えは無数に考えられますが、ここでは京都大学の客員准教授を務めた投資家・瀧本哲史氏の解説を中心に、3つの解答をご紹介します。
勉強は「魔法」だから
瀧本氏は、勉強は自分の力を何百倍にも拡大してくれる「魔法」のようなものだと説きました。
たとえば、科学という “魔法” を勉強すると、日本を数時間で縦断できる新幹線や、地球上のどこにでも瞬時に連絡できるスマートフォンなど、あらゆるものをつくり出せます。勉強することによって、人類が何千年もかけて積み上げてきた知恵を借用し、自分の知恵だけでは不可能な大きい物事を成し遂げられるというわけです。
自分の経験から得られることや自分の力だけでできることの範囲は、たかが知れたもの。しかし勉強によって、過去の人々が苦心して導き出した答えを短期間で習得することができ、自分の可能性が大きく広がるのです。
反対に、勉強しない人は、「呪文をひとつも知らない魔法使い」のようなもの。問題解決能力や思考力、発想力などは低い水準に留まるでしょう。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」――ドイツ帝国の初代首相、オットー・フォン・ビスマルクの格言が示すとおりです。
客観的な視点が身につくから
勉強によって、客観的な判断力を養うこともできます。
勉強量の乏しい人は、自分が知っている狭い世界の基準でしか物事を判断できません。かつての人々が天動説を信じていたように、知識や情報が不足すると、独断や偏見に基づく誤解が生まれやすいと言えるでしょう。
瀧本氏が紹介した、明治の文豪にして軍医・森鴎外の失敗談があります。当時、食欲不振や手足のしびれが現れる “脚気” は、深刻な国民病だったそう。「ビタミンB1不足」という原因が判明するのはしばらく先なのですが、当時から「麦を食べると脚気にならない」と知られていたそう。しかし、鴎外は「脚気に食事は関係ない」と独断的な意見を述べ続け、結果として多くの兵士が命を落としてしまいます。学びを怠ったことが、大きな失敗につながったのです。
もちろん、世界中のすべての物事を知るのは不可能。しかし、なるべく多様な情報に触れ、謙虚に学び続ける姿勢をもつことはできます。新聞を読むにしても、1紙だけよりは2紙、2紙よりは3紙と読み比べる。先入観で決めつけず、必ず客観的なデータにあたって裏をとる。そのように地道な努力を積み重ねることで、客観的な判断力が育っていくでしょう。
年収・キャリアに直結するから
身も蓋もない話になりますが、勉強量は年収とも関係しています。下の図は、独立行政法人・情報処理推進機構がIT関連企業を対象に行なった2017年の調査結果です。
おおむね、年収の高い人ほど勉強時間が長い傾向にありますね。特に、年収が1,000万円を超える人の勉強時間の長さは突出しています。
また、株式会社リクルートキャリアが転職サービス利用者を対象に行なった2018年のアンケートでは、仕事ですぐに使うわけではない知識・スキルを学びたい理由として、回答者の67.3%が「自らの市場価値を高めたい」、46.7%が「年収を上げたい」と答えました。やはり、収入アップやキャリアのために勉強しているビジネスパーソンは多いようです。
近年は、AIなどの技術革新も目覚ましく、社会の変化が特に激しくなりました。近い将来、多くの仕事がAIに代替されてしまうと言われています。真っ先に奪われそうなのが、明確なマニュアルや答えのある事務作業です。
事務仕事だけではありません。AI研究者のマイケル・A・オズボーン氏は、2030年~40年頃までになくなるかもしれない職業として、「銀行の融資担当者」「不動産ブローカー」「保険の審査担当者」など、いわゆるホワイトカラーの仕事も数多く挙げています。
「AIにもできる業務」しかできない人材のままだと、これからの時代を生き抜くにはかなり難しいのではないでしょうか。だからこそ、“勉強しない大人” から脱却するべきなのです。
“勉強しない大人” たちが学ぶべき3項目
では、“勉強しない大人” たちが生き残るには、何を勉強すればいいのでしょうか? 大まかに3つの案をご紹介しましょう。
仕事に関する知識・スキル
まず必要なのは、いまの仕事や今後やりたい仕事に関する知識を学ぶことです。冒頭で紹介した「エン転職」のアンケートでも、「資格取得に必要な専門知識・スキル」の勉強に取り組んだ人が43%、「職務にひもづく専門知識・スキル」では42%と、職務に直接関わる勉強をする人が多いようです。
特に、資格試験に向けた勉強はおすすめ。資格・勉強コンサルタントの鈴木秀明氏による『10年後に生き残る最強の勉強術』(クロスメディア・パブリッシング、2016年)でも、スキルを身につける手段として「資格・検定試験」を積極的に活用することが推奨されていますよ。
資格の取得という具体的な目標があると、学ぶ内容や到達すべきレベルが明確なので、勉強が効率的に進むのです。ただ漠然と「英語が得意になろう」と考えるよりは、「12月のTOEICで800点をとる」などの明確な目標があるほうがやる気になれますよね。試験対策用の問題集や参考書も、学習の明確な指針を示してくれます。
参考までに、資格・検定の例をジャンル別にご紹介しましょう。
◆仕事・人生に役立つ系
- マイクロソフト オフィス スペシャリスト:Officeアプリを使いこなす能力を示せる
- マーケティング・ビジネス実務検定:マーケティングの実務能力を示せる
- ファイナンシャルプランナー:貯蓄や投資、相続などの知識・アドバイス能力を示せる
◆転職に役立つ系
◆語学系
- TOEIC L&R :英語を「読む」「聞く」能力を示せる
- 中国語検定:中国語を読み、聞き、訳す能力を示せる
- 実用フランス語技能検定:フランス語の「読む」「聞く」「書く」「話す」能力を示せる
勉強を始める前に、その資格が「自分のキャリアに関わるかどうか」を見極めましょう。宅地建物取引士(宅建)の資格を取得できたとしても、不動産取引とはまったく関係ない業界で働いていて、転職もしないのであれば、宝のもち腐れになってしまいます(もちろん、趣味や教養として取得するぶんにはかまいません)。
「自分はどんなキャリアを築きたいのか」「何を目標としているのか」を明確にしたうえで、必要な知識・スキルを逆算しましょう。以下に挙げる3つのポイントを意識して、目標とする資格を決めてみてください。
- キャリア上の目標を設定する
例:社内で○○の成績を達成する、□□に転職する - 目標達成に必要なスキルをリサーチする
例:関係者に話を聞く、募集要項を読む、企業情報を調べる - 必要なスキルに合った資格・検定試験を探す
例:不動産業界に転職したい→「宅地建物取引士」合格を目指す
(参照:鈴木秀明『10年後に生き残る最強の勉強術』)
このように「目的→手段」の順で考えれば、勉強の方向性を誤ることはないはずです。
教養
教養を身につけるための勉強もおすすめです。「教養」という言葉を、本記事では「直接的には仕事に役立たない雑学」とでも定義しておきましょう。歴史や文学、芸術、宗教などの知識を指すものとします。
なぜ教養を身につけることが大事なのでしょう? ジャーナリストの池上彰氏は、教養を「生きるためのインフラ」に例えています。教養は、ビジネスパーソンとして、人間としてどう行動すべきかの指針なのです。
たとえば、歴史を詳しく学ぶと、過去の出来事や偉人の生き様から教えを得られます。文学や哲学、宗教は、よりよい人生を送るためのヒントを与えてくれるでしょう。教養を学ぶことで、ものの見方が豊かになり、仕事や人生をより充実させられるのです。
もう少し実際的なメリットには、「人間的な魅力が磨かれる」もあります。人材育成コンサルタント・能町光香氏によると、言葉の端々に教養がにじむ人は、話していておもしろく、知的に見えるため、仕事相手から一目置かれやすいそう。逆に、あまりにものを知らないと、「教養のない人」「退屈な人」という不名誉なレッテルを貼られてしまうかもしれません。
能町氏は、教養を身につける方法として、まず興味があることを楽しんで学ぼうとすすめています。映画に興味があるなら、映画に関する書籍やWebサイトを手あたり次第に調べてみましょう。映画に関連した歴史や文学、宗教なども調べたくなり、教養の幅がどんどん広がっていくはず。
歴史小説を読んだり、実在した人物の伝記映画を見たりすることも、有効な手段です。「教養を学ぶぞ」と力まず、自分なりに楽しめる手段で教養を身につけましょう。
◆教養を身につける手段の例
- 興味がある本を手あたり次第に読む
- 歴史小説を読んだり、歴史的な場所を訪れたりする
- 偉人や成功者についての映画を見る
◆教養として押さえておきたい学問分野
- 歴史学
- 文学
- 芸術
- 宗教
- 哲学
- 科学
知識を使いこなす力
抽象的ですが、「知識を使いこなす力」も必要です。知識は、身につけて終わりにするのではなく、使いこなしてこそ意味をもちます。いくらマーケティング知識を習得しても、現実の具体的な課題を解決できないなら、まったく意味がありません。
「情報を選別し、情報を結びつけて活用し、情報をもとに考える力」を身につけるためのポイントとして、東京大学教授で科学論研究者の藤垣裕子氏は、以下の3つを挙げています。
ひとつの専門分野を究める
まずは、「自分の専門分野はこれだ」と胸を張れるようなものを、何かひとつ身につけてください。ひとつの分野を究めれば、その領域における「思考法」が身につきます。ひとつの思考法が身につくと、その思考法を土台としつつ、ほかの分野に関しても仮説を立てて考えやすくなるはずです。
たとえば、マーケティングの「3C分析」「SWOT分析」といった分析手法を、他分野にそのまま転用するのは困難かもしれません。しかし、「データを分析して戦略を立てる」という思考法自体は、どんな分野でも応用できそうですよね。
マーケティングの専門家が人事について考えるなら、
- マーケティングの考え方を人事に活かせないか?
- マーケティングの考え方は人事とどう異なるか?
などと検討できるでしょう。自分の専門を軸としつつ、思考の幅をどんどん広げていけるのです。最終的には、どんな課題にぶつかっても、自分なりの土台に基づいて仮説を立てられるようになれば理想的ですね。
思考習慣をもつ
次に、物事について深く考える習慣をもつこと。日々の生活で何かを目にしたとき、少し立ち止まって一考するクセをつけてみましょう。「知識を使う力」を養うトレーニングになるだけでなく、好奇心を広げるキッカケにもなります。
コツは、あらゆる物事について「なぜそうなるんだろう?」と原因を追及してみることです。「なぜA部長は、いつもイライラしてるんだろう?」「台風の進路って、どうやって決まるんだろう?」など、些細なことでOK。自分なりに考えて仮説を立てたら、調べられるものは調べて答え合わせしてみてください。
異なる考えの人と議論する
3つめのポイントは、さまざまな人たちと議論を交わす習慣をもつこと。いわば、知識を使いこなすための実戦練習です。
藤垣氏によると、なるべく「自分と考え方が異なる人」を相手に選ぶのがいいそう。自分と違う意見に向き合うことで、自分の思考をはっきり認識できますし、相手の意見を聞き入れつつ建設的に議論する練習になります。
このように、ただ机の前に座って知識を覚えるだけでなく、覚えた知識を積極的に実践・応用してみることも、社会人にとって大事な勉強なのです。“勉強しない大人” になりつつあると感じる方は、ぜひ試してみてください。
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これからの時代、“勉強しない大人” が社会で生き残るのはますます困難になっていきます。毎日少しずつでもいいので、仕事に必要なスキルや教養を磨くための時間を設けてみてはいかがでしょうか。
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佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。