記憶のプロが絶賛する「感情入り」のノート術。やってみたら○○が増えて××が減った

感情を交えたノート術01

「自分が書いたノートを見返しても、内容を思い出せない。これってどういう話だったんだっけ……」

そう困りがちな人におすすめなのは、「感情入りのノート」を作成すること。記憶のプロたちもやっている覚えやすくて思い出しやすいノート作成術について、筆者の実践報告も交えながら解説します。

記憶は「感情」によって強化される

過去6度、記憶力日本選手権大会で優勝した池田義博氏は、記憶力の向上には次の3つの心がけが大事だと述べています。

  1. 「覚える意志」をもつこと
  2. 「回数」を重ねること
  3. 「感情」に絡めて記憶すること

池田氏いわく、「覚えよう」という意志をもつとプラセボ効果(偽の薬でも効くと信じることで効果が出ること)が働き、記憶に定着しやすくなるとのこと。また、繰り返すことで記憶が強固になるという性質が脳にはあるため、何度も復習することが大事なのだと言います。

今回特に注目したいのが、3の「感情」です。記憶をつかさどる脳の一部「海馬」のすぐ隣には、感情に反応する「扁桃体」という部分があります。感情が動いて扁桃体が強く働くと、すぐ隣にある海馬も同時に強く働くのだそう。つまり、感情をともなう物事は強く記憶されるのです。

こうした感情を含む記憶のことを「エピソード記憶」と言います。エピソード記憶とは、実際に経験した出来事についての記憶のこと。たとえば、「○○さんと××という店で、夕食に△△を食べた。そのとき□□について話をして、楽しかった」といったような記憶です。この例からわかるように、同時に起きた複数の出来事や感情を連続的に記憶できるのがエピソード記憶の強みなのです。

ここまでのことをまとめると、勉強にも感情を絡めたエピソード記憶を取り入れれば、学んだ内容をより強固に覚えられるということになります。勉強中は淡々と知識をなぞるだけよりも、「疑問に思った」「驚いた」などの感情を積極的に動かすほうがよいのです。

感情を交えたノート術02

記憶は「手書き」によっても強化される

池田氏は、強く記憶するためには手書きで勉強することも重要だと言います。その理由をひとことで言うと、手書きは脳にいいから。実際に池田氏も、覚えるときは手書きにこだわっているのだとか。

体全体をモニターする役割をもつ大脳皮質の各部位と、体の各部の皮膚感覚との関係性を表した図があります。カナダの脳神経外科医ワイルダー・ペンフィールド氏がつくったこの図では、手と指の感覚に対して広い面積が割り当てられています。脳はこれほどまでに広い範囲を割いて手と指をモニターしているのです。つまり、手や指を使えば使うほど、脳を強く刺激することができるということ。

感情を交えたノート術03

(画像引用元:Wikipedia|体性感覚

指先の動きが脳を刺激するのなら、キーボードでタイピングすることも脳に役立つのではないか、と考える方もいるかもしれません。じつは、プリンストン大学のPam A. Mueller氏らが行なった研究により、文字を打ち込むよりも手で文字を書くほうが、より脳を刺激することが明らかになっています。

バレットジャーナルという手書きの手帳術を考案したライダー・キャロル氏は、この研究結果をもとに、こうまとめています――授業のノートを手書きでとる場合、教師が話した言葉すべてを書きとることはできない。おのずと自分で情報を整理し、言葉を選ぶことになる。だから、情報を右から左に流しながらタイピングする作業とは違い、思考力や理解力が深まるのだ――。

以上のことをふまえると、手書きで勉強することは、手指を使って脳を刺激するという点でも、ノートを書きながら頭の中で情報を整理するという点でも、効果的だと言えるのです。

感情を交えたノート術04

東大生もやっている「感情入り」のノート術

勉強した内容をより強く記憶するには、「感情を交える」ことと「手書きする」ことが大切だとわかりました。実際、東大生たちの多くはこれを実践して勉強で成果を出しているようです。

『東大作文』などの著者として知られる現役東大生の西岡壱誠氏は、100人以上の東大生のノートを調べた結果、その共通点のひとつとして「自分が感じたことのメモを残している」という点を見いだしたそう。

たとえば、教授が軽く出しただけの小話や、「これはテストには出ない」と言われたような話も、自分がおもしろいとか興味深いなどと感じたことであればノートに書く。そんな東大生が多くいるのだとか。

西岡氏は、こういう書き込みは一見無駄なように見えて、授業の内容を思い出すとっかかりとしては非常に有用だと述べています。東大生は再現性を重視するからこそ、勉強中におもしろいと思った点を書き込んだり、授業中に興味をもったことをあとで改めて追記したりしているわけなのです。

西岡氏いわく自分の感情を無視して、いいノートをつくることはできない。そう言われたら、感情を絡めたノートづくりをやらないわけにはいきませんよね。

感情を交えたノート術05

感情を交えたノートづくりをやってみた

というわけで、筆者も感情入りのノートを作成してみました。勉強中に感じたことを書き残すという点はもちろん気をつけましたが、加えて、どんなところでつまずいたかを記録するようにしました。見返したときに、前回どこで間違えたかすぐにわかるようにすれば、復習に役立つと考えたからです。

そうしてつくったノートがこちら。

感情を交えたノート術06

これは、『退屈なことはPythonにやらせよう ―ノンプログラマーにもできる自動化処理プログラミング』(2017/オライリージャパン)という本を使い、Pythonというプログラミング言語を学んだときのノートです。

蛍光ペンで囲った部分が、私の普段のノートを、感情入りのノートにステップアップするために新たに書き込んだ部分です。「ここが忘れやすい!」「エラーを何回か出した!」といったコメントを書き込んでいます。実際、復習の際にそこを重点的に見るようになったので、同じ間違いをする回数は減りました。なかなか間違いが減らないことで悩んでいる方にも、ぜひこのノート術をおすすめしたいです。

ほかにも、ノートに問題演習をするときに「この問題は解くのに苦労した」「この問題を解くためにこんな手段を使った」といった自分の苦心の跡を書き残しておくことは、勉強を進めていくうえで有用だと思いました。あのときは○○のポイントでつまずいたんだよな……というエピソードを覚えておけば、単元が進んだり問題のレベルが上がったりした際にも役に立つと思います。

じつは筆者はこれまで、ノートには「公式・グラフ・少しの説明」といった具合に、最小限のことしか書いていませんでした。というのも、ノートは情報を最短経路で思い出すための辞書のようなものだと考えていたから。つまり、再現性を重視してはいなかったのです。

そんな筆者の普段のノートに少し感情を書き足すだけで記憶のとっかかりが増え、上記のような効果が得られました。みなさんも、今日の授業で何を思ったとか、間違った箇所はここだといったことを書き込んで、ノート上に記憶の足がかりをたくさんつくってください。

***
前出の池田氏は、記憶には「感情」のほか、「覚える意志」と「回数」も重要だと言っていました。絶対覚えるぞという意志をもって、感情を書きこんだノートを何度も見直す。授業を受ける学生だけでなく、テキストを用いて自学する社会人の方も、ぜひこの勉強法を実践して成果を出してください。

(参考)
東洋経済オンライン|年を取っても記憶力がいい人と低下する人の差
Wikipedia|エピソード記憶
脳科学辞典|エピソード記憶
STUDY HACKER|記憶力日本一の男が「手書き」にこだわる理由。脳も鍛えられる最強メモ術があった!
Wikipedia|大脳皮質
Wikipedia|体性感覚
永野裕之 (2014), 『東大教授の父が教えてくれた頭がよくなる勉強法』, PHP研究所.
ダイヤモンド・オンライン|記憶、情報整理、精神の治癒……手書きが結局、いちばん効果的な理由
SAGE Journals|The Pen Is Mightier Than the Keyboard: Advantages of Longhand Over Laptop Note Takin
東洋経済オンライン|東大生の「ノートのとり方」が本質的で凄すぎた

【ライタープロフィール】
渡部泰弘
大阪桐蔭高校出身。テンプル大学で経済学を専攻。外出時は常にPodcastとradikoを愛用するヘビーリスナー。

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