ネット社会になり誰もが情報発信できるこの時代。情報を容易に拡散できるSNSの利用が一般的になったこととも相まって、“フェイクな情報” も蔓延しやすくなりました。これはジャーナリズムのみならず、英語教育の世界でも起こっている問題のようです。

嘘に踊らされず、本当に正しい情報を見極める鑑識眼を身につけるにはどうすればいいのか。1889年の創刊から120年以上の歴史を誇るアメリカの経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」(以下、WSJ)の日本版編集長を務める西山誠慈(にしやま・じょうじ)氏と、英語学習のパーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」などを運営する株式会社恵学社のコンテンツ開発室シニアリサーチャー・谷原英利(たにはら・ひでとし)氏に聞きました。

【WSJ日本版編集長 西山誠慈氏 × 株式会社恵学社 谷原英利氏 対談コンテンツ】
なぜ「フェイクな情報」はなくならないのか。
日本人がいつまでも英語を使いこなせない根本原因

誰もがフェイクニュース拡散の加担者になりえる今の時代

——2016年のアメリカ大統領選の前後で広く一般に浸透することになった「フェイクニュース」という言葉。嘘に惑わされないために、私たち受け手は、流れてくる情報にどう向き合えばよいのでしょうか。

西山誠慈氏(以下、西山氏):
難しい問題ですが、全ての情報を鵜呑みにせず疑ってかかるのが大事です。昔は情報発信者といえば、新聞社やテレビ局といったマスメディアに限定されていた。それが今では誰もが情報発信できる時代になったので、出てきたものは最初からすぐに疑うという姿勢で挑まなければなりません。

同時に、安易に拡散しないことも大切です。おもしろいと感じた途端、すぐにシェアやリツイートをしてしまう方もいるかと思いますが……知らず知らずのうちに自分がフェイクニュースの拡散に加担してしまっているかもしれないという可能性を自覚するべきだと思います。

ただ逆に、特にインターネットには、流れてきた情報の正誤をその場ですぐに調べられるという長所もありますよね。すぐに信じ込もうとせず、それが本当に正しい情報なのかどうか自分の目で確かめに行く習慣を持つのも大切だと思います。


WSJ日本版編集長 西山誠慈氏

平日1日1時間でも、英語力大幅アップでTOEIC830に。無駄をそぎ落とした科学的トレーニング。
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正しい英語学習を考えるうえで大切な “第二言語習得研究” という学問

——英語学習に関しては、「科学的根拠に乏しい個人の経験談ベースの学習方法が流布されてしまっている」「効率性よりも気合い根性を是としている風潮がいまだにある」といった問題点を、谷原さんは指摘されています。正しい英語学習法とは何なのでしょうか?

谷原英利氏(以下、谷原氏):
私はアメリカの大学院で “第二言語習得研究” について専門的に学びました。これは、人間が母語以外の言語を習得していくプロセスないしはメカニズムを研究する学問領域のことで、日本語話者が英語を習得していくケースにも適用できる内容となっています。語学習において、学問的に裏打ちされた知見が確かに存在するという事実は、英語学習者には特に知っておいていただきたいことですね

ただし、“第二言語習得研究”という言葉は、最近バズワード的に用いられることもあるのですが……そもそもその本質を正しく理解していない人が、あたかも専門家のごとく語る現状を、個人的に憂慮しています。大学・研究機関で “第二言語習得研究” を専門的に学んだ人間からの確かな情報を収集して、日々の学習に活かしていただきたいと思います

西山氏:
私はアメリカ生まれなのですが、生後まもなくして日本へ渡り、9歳のときに再びアメリカへ戻りました。それまでは日本の小学校に通っていたので、当然英語なんてできなかった。そのため、英語以外を母語とする生徒のための「ESL(=English as a Second Language」という教室で英語を学んでいきました。

第二言語習得研究については詳しく存じ上げていないのですが、私自身が、そこで研究されているような学習プロセスを通ってきた人間なのかなと思います。

谷原氏:
まさにその通りです。一方で日本国内のように、日本語が母語とされている環境は「EFL(=English as a Foreign Language)環境」と呼ばれており、学習においてプラスアルファの工夫を施す必要があるのです。

なぜならば、EFL環境の場合は、英語が周囲で飛び交っていないぶん、圧倒的に「読む」や「聞く」といったインプットが不足しがちだから。第二言語習得研究においては、EFL環境にいる英語学習者のインプットとアウトプットに関して、「大量のインプットと少量のアウトプット」という比率が、多くの研究者によって推奨されています。

にもかかわらず、インプット量が不充分なまま、一足飛びに英会話やライティングといった “アウトプット優先” の学習をすると、かえって悲劇になってしまう。専門用語で「化石化」と言いますが、発音も含めて間違った英語スキルが定着してしまうのです。そこから直そうとしても、多大な時間と労力がかかります。


株式会社恵学社 谷原英利氏

英語学習者が陥る “ネイティブ信仰” が危険なワケ

西山氏:
インプットとアウトプットの比率、非常に興味深いですね。私はアメリカで暮らしたため結果的に英語を話せるようになりましたが、それはインプットが豊富な環境にいたからなのですね。家では日本語を使っていましたが、それ以外は基本的に英語だけでしたから。

一方で日本のビジネスパーソンとなると、日中は日本語の環境で仕事をし、仕事以外の残り時間で英語を勉強しなければならない。インプットとアウトプットのバランスを考える必要があるという話、初めて耳にしましたがとても理に適っていると感じました。

谷原氏:
「ネイティブと積極的に話せば英語を話せるようになる」という発想も出てきがちですが、それも結局は、前段階のインプットが充分でないと全く生きてこないトレーニング方法なのです。いきなりアウトプットに飛びつくのではなく、単語や文法といったインプットを確実に積み上げておく必要があるのですね。

第二言語習得研究において、アウトプットは “インプットの検証作業” に過ぎないと言われています。自分がインプットで仕入れた知識やスキルを実際に使ってみて、「あ、これは通じる」「これだと通じない」と気づきを得るために行なうものであり、決して、そこから新しい学びを得るという性質のものではないという論調が主流です。

インプットもままならない状態でアウトプットに走っても、学習効果はそれほど得られません。これは科学的学問的にすでに立証されている事実。特に、日本にいながら英語スキルを効率よく習得していきたいのであれば、こういった学習の順序は絶対に無視してはいけないのです。

世界を大きく広げる “英語” というツール

——最後に、これから英語を身につけグローバルな世界で戦おうとしている日本のビジネスパーソンへ向けて、メッセージをお願いします。

西山氏:
私は記者として海外向けに英語で情報を発信したり、逆にここ数年はWSJ日本版編集長として海外ニュースを日本の読者に届けたりといった仕事をしてきました。谷原さんの前で申し上げていいことなのかわかりませんが(笑)、そういった経験を通して私が思うのは、英語ができること自体が偉いのではなく、英語はあくまでツールだということです。

今や英語は、世界中で最もよく使われている言語です。そういったグローバルなツールを身につけると、やはり世界も大きく広がっていくのですね。

しかし、日本という国は非常に損をしている。なぜならば、優れたアイデアを思いついたとしても、英語の壁があるせいで、それをうまく発信できていないケースが多々あるから。英語さえできればいいというわけではないのでしょうが、基本的なツールとして、英語力を身につけるのは大切なことだと思いますね

谷原氏:
私は新卒で総合商社に入社し、かつては海外ビジネスに携わっていました。そこで身をもって実感したのは、英語がボトルネックになって外国人とのコミュニケーションに壁を感じているビジネスパーソンが非常に多かったこと。だからこそ私は、留学して言語学を学んでまで、その問題を専門的な見地から変えていきたいと考えたのです。

英語を通してひろがっていく知見やネットワークは、その人の財産です。英語は、たかがツール、されどツールです。そのツールを効率よく身につけるにはどうすればいいのか、学習方法の取捨選択を大事にしてほしいですね

【WSJ日本版編集長 西山誠慈氏 × 株式会社恵学社 谷原英利氏 対談コンテンツ】
なぜ「フェイクな情報」はなくならないのか。
日本人がいつまでも英語を使いこなせない根本原因