2016年のアメリカ大統領選の結果に大きな影響を与えたとされる『フェイクニュース』。2017年の「ユーキャン 新語・流行語大賞」でも、「忖度」「インスタ映え」に続き、この『フェイクニュース』がトップテンに選出されました。言葉自体はすっかり市民権を得たものの、決して無視できない社会問題として露呈したことの裏返しとも言えるでしょう。

ひと昔前であれば “ただのデマ” で終わるはずのものが、“いかにも信憑性の高い情報” として世の中に拡散していく――なぜ、私たちは「フェイク」に踊らされてしまうのでしょうか?

アメリカの経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」(以下、WSJ)の日本版編集長を務める西山誠慈(にしやま・じょうじ)氏と、社会人向け英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を運営する株式会社恵学社のコンテンツ開発室シニアリサーチャー・谷原英利(たにはら・ひでとし)氏に聞きました。

WSJの強みは「ロングフォーム」

——WSJは、1889年の創刊以来120年以上の歴史を持つ経済紙です。他紙や他メディアにはない強みは何なのでしょうか?

西山誠慈氏(以下、西山氏):
WSJは新聞ですので、前日や当日に起きた出来事を伝える「ストレートニュース」も当然扱っています。しかし、一番の強みとして挙げられるのは、やはり「分析記事」や「論説記事」の存在です

WSJの一面には必ず、英語で約2,000wordsにも及ぶ長い記事があります。これを「ロングフォーム」と言いますが、ある出来事を深く掘り下げて分析したり、長い時間をかけて丁寧に取材したりして、一般的なストレートニュースよりも “付加価値の高い情報” として発信しているのですね。そういう「長くてしっかりした記事」が多いことが、我々の特徴であり強みでもあります。

谷原英利氏(以下、谷原氏):
私も過去にアメリカに留学していた時期がありましたが、当時からWSJには目を通していました。現地の学生たちもよく読んでいましたね。アメリカ最大の発行部数を誇る経済紙として、一般に広く浸透している新聞だなと感じていました。

——一方で、特にここ十数年でデジタル化も進み、いつでもどこでも情報を入手できる社会に変わりました。まさに “速報性の高い情報” が重視される時代になったと言えますが、伝統としてロングフォームを強みとしてきたWSJとしては、両者のバランスをどう工夫しているのでしょう?

西山氏:
WSJに限らず、多くのメディアが方針を模索している課題ですね。WSJに関して言えば、やはりロングフォームが他メディアと差別化を図れる最大の強みであるため、そこは絶対に譲れません。とはいえ、ネット社会となり、場所や時刻を問わず情報を手に入れられる忙しい時代に変わったのも事実。我々としても、“情報の速報性” という観点は決して無視できないものとなりました。

したがって、例えばFacebookやTwitterやLINEといったSNSを使って記事を配信したり、スマートフォンのプッシュアラート機能で速報を届けたりなど、さまざまなツールを活用しています。ロングフォームという強みはしっかり残しつつ、社会のトレンドにも対応していく、ということですね。


WSJ日本版編集長 西山誠慈氏

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なぜフェイクニュースは拡散していくのか?

——「フェイクニュース」という言葉が取り沙汰されるようになったのも、本当にここ最近の話ですね。

西山氏:
一般の人がインターネットを使うようになってから20年が経ち、情報量が爆発的に増えました。さらに、約10年前からスマートフォンが流通し始めてからというもの、世の中の情報を誰でも簡単に入手して簡単に拡散できるようになった。そこにひとつの大きな問題があると思います。

情報が流れてきて、おもしろいなと感じたらすぐにSNS等で拡散してしまう。あるいは、「多くの人がリツイートしているから正しい情報なんだろう」「バズっているから本物なんだろう」というように、拡散しているという事実そのものが、その情報に高い信憑性を持たせてしまうケースも多々ありますよね。

また、それこそ昔であれば、輪転機がなければ新聞も刷れなかったし、電波塔がなければテレビも放映できなかったし、テレビ番組の制作自体も莫大な費用や専用の機材が必要不可欠でした。情報発信そのものが、新聞社やテレビ局といったマスメディアの特権だった。一個人が発信したくてもできない社会だったのですね。ところが、今はそれが完全に崩れてしまった。ブログやSNSを使えばスマートフォンひとつで誰でも情報発信者になれますし、見た目だけであれば本物と見間違えるようなコンテンツも簡単に作れてしまいます

もちろん、怪文書の類いや根拠のない噂、いわゆる “デマ” が流布するケースは、昔からあったと思うのです。しかし、インターネットやスマートフォンの登場によって、情報を個人レベルで簡単に発信・拡散できる社会に変わった。そこが昔との決定的な違いであり、フェイクニュースの問題がここまで取り沙汰される原因にもなっているのかなと考えます。

じつは英語教育の世界でも蔓延しているフェイク

——英語教育の世界にも、「フェイク」な情報は存在しているのでしょうか?

谷原氏:
「フェイクニュース」ほどバズワード的には取り上げられていませんが、教育業界に身を置いている立場としては、やはり誤った学習法が巷にあふれ返っていると感じますね。

その原因のひとつとして指摘したいのが、起業家やスポーツ選手など、英語教育とは全く関係のない別分野で成功を収めた知名度の高い人が、英語教育に関する専門的知見を持っていないにもかかわらず、英語教育の方法について評価をしたり、「自分はこうやってきた」という個人的経験だけをベースに英語学習法を広めてしまったりしているということです。

先ほどのフェイクニュースの話とも関連しますが、そういう方法って、どこか本物な気がして信じたくなりますよね。でも、科学的根拠に裏打ちされていないという意味では、その学習効果には何の保証もないはず。それなのに、そういった学習法を広めてしまう人がいて、さらにそれを信じてしまう人が大勢いるという実態があるのは事実です。


株式会社恵学社 谷原英利氏

西山氏:
私が好きな野球の話になってしまうのですが、特に日本の少年野球の場合、子どもの父親がコーチをやるケースが多いですよね。それは決して悪いことではないと思うのですが、指導法を科学的あるいは専門的に学んでいない人が、他人の小さな子どもを預かって、はたして本当に正しく指導できるのかというと、疑問が生じます。

仮に選手としては優れていたとしても、きちんと指導できるかどうかはまた別の話です。「名選手は必ずしも名監督にならない」という言葉も、野球界にはありますからね。そういった話に通じてくる問題なのかなと感じました。

谷原氏:
また、最近は「働き方改革」が叫ばれていることもあり、特に仕事に関しては、“時短で” “効率よく” というスマートな働き方が注目されるようになってきています。ところが、こと学習となると、“多くの時間を確保して” “とにかく量をこなして” という気合い根性論が、世の中ではいまだに是とされてしまっています

しかし、働き方において生産性や効率性を求めるのと同様に、学習においても、“どれだけ効率よく” 成果をあげられるかを本来は追求するべきなのです。その点が完全に見過ごされ、気合い根性でがむしゃらに取り組めばいいという風潮が、今の教育の世界には残ってしまっている。その点も、非常に大きな危惧を感じますね。

【WSJ日本版編集長 西山誠慈氏 × 株式会社恵学社 谷原英利氏 対談コンテンツ】
なぜ「フェイクな情報」はなくならないのか。
日本人がいつまでも英語を使いこなせない根本原因