向上心があるビジネスパーソンならば、集中力を維持・強化するために、日々さまざまな取り組みを行なっていることでしょう。なおかつ、著名人や世界的な大企業も取り入れているマインドフルネス・瞑想などを習慣的に行ない、いま現在起こっていることに注意を向けているかもしれません。
しかし、常に集中してばかりでは、さすがの脳も疲れてしまいます。最近の研究では、「集中」と「分散」、いずれも重要だとされているのだとか。集中することばかりにとらわれず、集中を “解く” 活動にも目を向けてみましょう。
今回は、クリエイティビティを鍛えてくれるという「計画的な白昼夢」を紹介します。
FPNとDMNネットワークについて
「集中」と「分散」を交互に行うと、脳が最適に機能することをご存知でしょうか。 2016年12月13日に『Scientific Reports』で公開された研究では、前頭−頭頂ネットワーク(FPN)と、デフォルトモードネットワーク(DMN)間に、明確な相互作用があると示唆されました。
●【前頭−頭頂ネットワーク(FPN)】とは
ワーキングメモリ(情報を保持しながら操作を同時に行う)や、プランニング、注意の配分といった実行系機能に関わる神経活動です。脳の外側前頭前野(LPFC) および後部頭頂葉( PPC)を中心に働きます。ワーキングメモリネットワー ク(WMN) とも呼ばれる、いわゆる「集中」の状態です。
●【デフォルトモードネットワーク(DMN)】とは
ボーっとしているときに脳が示す神経活動のことです。脳の内側前頭前野(MPFC)および後部帯状回(PCC)などを中心に活動を示す、いわゆる「分散」の状態です。
意識的に何かを行なう際に脳が消費するエネルギーは、身体エネルギーのわずか5%。しかし、DMN状態のときは、身体エネルギーの20%を使用しているといいます。
その理由は、脳が水面下で活発に働いて、古い記憶を掘り起こし、さまざまなアイデアを再結合させ、創造的なソリューションを考え出し、未来を予測して、最適な意思決定につなげているから。
マサチューセッツ総合病院・バイオメディカルイメージングセンターが、『Neuroscience』に2016年12月17日付で発表した研究では、FPNとDMNの接続的な変動とその影響が、最適な機能にとって重要だと示唆されました。また、集中状態と分散状態(安静状態)のメリハリが激しいほど、より良い認知パフォーマンスに関連していたそうです。
小まめに休憩を入れると仕事が捗るのは、体および脳の血流を改善し、脳の疲れを緩和するからというだけではなく、ネットワーク間における力の相互作用が、正の影響を及ぼしているからかもしれません。
計画的な白昼夢でクリエイティビティを鍛える
ハーバード・メディカル・スクールで教鞭を執るスリニ・ピレイ博士は、 「集中」と「分散」を交互に行なうことで、回復力が向上し、創造性が高まり、より優れた判断を下すことができると説明します。
しかし、集中する方法についての情報は数多くあれど、意図的に集中を解く方法は、あまり示されていません。そこでピレイ氏が紹介する、簡単かつ効果的にDMN回路を働かせる方法が役立ちます。
その方法のひとつが、肯定的・建設的空想(PCD:positive constructive daydreaming)と呼ばれるもの。アメリカの心理学者であるジェローム・シンガー氏は、この空想について何十年も研究しているそうです。いつの間にか白昼夢に陥るというよりは、むしろ意識的かつ計画的に白昼夢を見る活動です。
肯定的・建設的空想(計画的な白昼夢)の習慣は、脳に活力を取り戻し、創造性を高めるだけではなく、リーダーシップを強化してくれるといいます。
計画的な白昼夢のやり方
いつの間にか白昼夢に陥るわけではないとはいえ、計画的な白昼夢は、机の前に座り、「よし、白昼夢を見るぞ!」と言って見るようなものではありません。「“静かでささやかな活動” を選択し、自分の心の奥底へとさまよう……」が正しいやり方なのだそうです。
“静かでささやかな活動” とは、たとえば編み物、ガーデニング、気楽な読書など。洗濯物を干しながら、たたみながら、食器を洗いながら、シャワーを浴びながら行なうのもおすすめです。電車の移動時にも、思う存分空想できるはず。
ただし、その内容は、肯定的で建設的な、楽しいことや望んでいることが限定です。皆から注目されたい、評価されたい、モテたい、最高に気持ちいいリゾートで羽を伸ばしたい! といった願望を、ストーリー仕立てで妄想するだけでいいのです。
好きな映画やドラマに登場するキャラクターになりきり、映画やドラマの内容を発展させ、自分が楽しくなるように物語を想像するのもいいでしょう。不思議な世界観を、自由自在に楽しむこともできます。
肯定的で建設的な白昼夢を見たあとは、心身が活力に満ちているはず。脳が元気になった証拠です。ぜひ実感してください。
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スリニ・ピレイ氏は、「集中」しているときと、「分散」しているときの状態を、こうたとえています。
- 集中時の注意力――「フォーク」
- 分散時の状況――「その他のカトラリー」
なぜならば、集中時は、脳内の明瞭な意識をひとつずつ、その1本の「フォーク」で拾い上げるから。
分散時は、たとえば「スプーン」で大切な経験をすくい、たとえば「箸」で脳全体に散らばるアイデアをつなぎ合わせ、たとえば「細くて長いスプーン」で、すっかり忘れていた記憶を隅っこから引っ張り出してくるからです。
つまり、「集中」は物事を進ませ、「分散」はイノベーション力や自己感覚を強化し、変革・改革を効果的に行なう、思考の筋肉を鍛えてくれるというわけです。
ぜひ、計画的な白昼夢を楽しみつつ、「集中」と「分散」を交互に繰り返し、脳を最適に機能させてくださいね。
(参考)
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|HBR.ORG翻訳マネジメント記事|集中力をコントロールして、創造力を発揮する3つの方法
Scientific Reports|Distinct Interactions between Fronto-Parietal and Default Mode Networks in Impaired Consciousness
PubMed - NCBI|State-dependent variability of dynamic functional connectivity between frontoparietal and default networks relates to cognitive flexibility.
越野英哉,苧阪満里子,苧阪直行(2013),「脳内ネットワークの競合と協調―― デフォルトモードネットワークとワーキングメモリネットワークの相互作 ――」,Japanese Psychological Review,Vol.56,No.3,pp.376-391.
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