「自尊心」と「自己肯定感」、よく耳にする言葉ですよね。どちらも「自分を大切にする感情」という意味で使われますが、違いはご存じですか?
自尊心と自己肯定感は、どちらも「ありのままの自分を受け入れる感覚」を意味するself-esteemの訳語。つまり意味は同じです。しかし、日本語の「自尊心」には「プライド」という意味もあるので、「自己肯定感」とは使い分けるのがおすすめ。
自尊心と自己肯定感の共通点・違いについては、少し長い話になります。興味のある方はぜひ、この先もお読みください。
自尊心については「自尊心とは? 自尊心が低い人の特徴&原因が明らかに!」で詳しく解説しています。自尊心を高めたい方はぜひお読みください。
自尊心の意味
自尊心と自己肯定感を比較するにあたり、まずは「自尊心」の意味を確認しましょう。自尊心には、ふたつの用法があります。
セルフ・エスティーム
ひとつめは、心理学用語「セルフ・エスティーム(self-esteem)」の訳語としての使われ方。日本セルフエスティーム普及協会代表理事の工藤紀子氏によると、「ありのままの自分をかけがえのない存在として肯定的、好意的に受け止めることができる感覚」です。
自分のダメな部分も受け入れ、自分自身の存在価値を認めてあげるのが、セルフ・エスティームだと言えます。「ダメな部分も受け入れる」というのが、一般的な意味での自信(自分の能力を信じる)と違う点です。
「ダメな自分を認める」と聞くと、だらしない印象を受けるかもしれません。しかし工藤氏によると、むしろセルフ・エスティームが高いほうが、困難を乗り越えたり幸福を感じたりしやすいそう。失敗しても自分を否定しすぎず、ミスを成長の糧にできるためです。
◆セルフ・エスティームが高い人
「私は英語を話せないけれど、それでもOK。でも、習得できたらもっとステキだな」
→楽しく努力を継続できるので、成功しやすい
◆セルフ・エスティームが低い人
「私は英語を話せないからダメだ。努力して弱点を克服しよう」
→努力が苦行でしかないため、挫折しやすい
プライド
小学館の「デジタル大辞泉」は、自尊心を以下のように説明しています。
自分の人格を大切にする気持ち。また、自分の思想や言動などに自信をもち、他からの干渉を排除する態度。プライド。
(引用元:コトバンク|自尊心 太字による強調は編集部が施した)
「プライド」だと、より積極的に自分を尊重するようなニュアンスですね。「自尊心」が以下のように使われるときは、セルフ・エスティームというよりプライドだと言えるでしょう。高慢・意固地といったネガティブなニュアンスの場合もあります。
◆「自尊心(プライド)」の例文
- 職人としての自尊心を守る
- あの人は自尊心が高すぎていけすかない
- 余計な自尊心なんか捨ててしまいなさい
このような自尊心の用法をふまえつつ、次は自己肯定感の意味を確認しましょう。
自己肯定感の意味
自己肯定感は、上でご紹介したセルフ・エスティームと同じです。工藤氏によると、セルフ・エスティームには、自尊心・自己肯定感・自尊感情・自己評価などさまざまな訳語があるそう。
bookという英単語が「本」と訳されたり「書物」と訳されたりするのと同じです。つまり、セルフ・エスティームを意味する場合、自己肯定感も自尊心もまったく同じ。
ただし、自尊心には「プライド」の用法もあるため、「ありのままの自分を認める」というセルフ・エスティームの意味合いが伝わらない恐れがあります。セルフ・エスティームの意味で使いたい場合、自尊心より自己肯定感が適切でしょう。
自己肯定感については、こちらの記事で詳しく解説しています。
>>自己肯定感が低い人の4大特徴×原因4つ×高め方4選
>>手遅れじゃない! 大人が自己肯定感を高める方法4選
自尊心と自己肯定感の違い
自尊心と自己肯定感は、どちらも「ありのままの自分をポジティブに受け止める感覚」(セルフ・エスティーム)です。ただし、自尊心は「他人に干渉されることなく自分に自信をもつ感覚」(プライド)も意味します。誤解を生まないため、セルフ・エスティームを表すときは「自己肯定感」、プライドを表すときは「自尊心」、と使い分けるのがおすすめです。
- 自尊心:セルフ・エスティーム&プライド
- 自己肯定感:セルフ・エスティーム
→セルフ・エスティームを意味するときは「自己肯定感」、「プライド」を意味するときは「自尊心」と使い分けるのが無難
自尊心・自己肯定感の類語
自尊心や自己肯定感と似ている言葉も解説しておきます。それぞれの違いを理解し、ニュアンスに応じて使い分けましょう。
自尊感情
自尊感情も、セルフ・エスティームの訳語に含まれます。そのため、自己肯定感とまったく同じ意味です。
字面こそ自尊心と似ているものの、自尊感情がプライドの意味で使われることは、基本的にありません。自尊感情の意味は、自尊心に比べ限定されているのです。
自信
「デジタル大辞泉」によると、自信とは「自分で自分の能力や価値などを信じること」。自尊心のふたつめの用法(プライド)に近いですが、「他者からの干渉を拒む」というニュアンスがない点で異なりますね。
一方、自信と自己肯定感は明確に違います。自信は自分の能力を信じるのに対し、自己肯定感は能力にかかわらず信じるためです。
◆「自信」がある人の考え方
- 高学歴だから、私は価値ある存在だ
- 優秀だから、私は価値ある存在だ
- 高年収だから、私は価値ある存在だ
→根拠に基づいて自分を信じる
◆「自己肯定感」がある人の考え方
- 学歴にかかわらず、私は価値ある存在だ
- 優秀でないけれど、それでも私は価値ある存在だ
- 年収が高かろうと低かろうと、私は価値ある存在だ
→根拠なしに自分を信じる
ただ、自尊心や自己肯定感は自信の一種だととらえることもできます。自尊心・自己肯定感・自信の意味は部分的に重なっていると言えるでしょう。
自信という概念や、自信がない人の特徴について、詳しくは「自分に自信がない人の5大特徴×原因4つ×改善策5選」をお読みください。
自己愛
『精選版 日本国語大辞典』によると、自己愛とは「自分自身を愛すること」。自分を愛する感情はすべて「自己愛」なので、自尊心・自己肯定感・自尊心の3つとも含められるでしょう。かなり意味の広い言葉です。
自己愛は、ナルシシズム(自己陶酔・うぬぼれ)の同義語となるケースもあります。「あの人って自己愛が強くて嫌だよね」のように批判的な文脈なら、ナルシシズムの意味だと考えられるでしょう。
自己評価
心理学者・内藤誼人氏によると、自己評価は「自分自身に対して抱く評価」。能力・ステータス・容姿・幸福度など、自分についての評価全般を指すため、自己愛よりもさらに広い意味です。ただ、以下のように「高い」「低い」という形容詞をともなう場合、セルフ・エスティームや自信に近いと考えられるでしょう。
- 自己評価が低いのが悩みだ
- 自己評価が高い人に憧れる
6つの言葉の意味をまとめると、以下の図のようになります。
この図を参考に、自尊心・自己肯定感・自尊感情・自己愛・自信・自己評価を正しく使い分けてみてください。
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自尊心は「プライド」、自己肯定感は「セルフ・エスティーム」と使い分けるのがベターです。自尊心と自己肯定感の意味や使い分けを、ぜひマスターしましょう。
一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会|自己肯定感とは?
コトバンク|自尊心
コトバンク|自尊感情
コトバンク|自信
コトバンク|自己愛
コトバンク|ナルシシズム
内藤誼人(2013),「社会的スキルの自己評価と他者評価の一致について」, 立正大学心理学研究年報, 4号, pp.39-43.
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。