過去に学んだ知識・習慣・価値観に固執していると、変化の激しいこの時代を生き抜くことは難しいと言われています。
しかし、自分がもつ知識や習慣を、有用なものに入れ替えたり修正したりする「アンラーニング」を継続的に取り入れていけば、柔軟に対応していけるかもしれません。
「自分は時代遅れになっていないだろうか?」などと少しでも不安なら、アンラーニングについて一緒に学んでいきましょう。
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。
PHP人材開発|「アンラーニング」とは~変化に対応するためのヒント
パーソル総合研究所|アンラーニングしなければ、人と組織は成長を続けられない
PR TIMES STORY|まずは「個人レベル」から。組織アンラーニング成功への極意とは
VIEW next ONLINE|連載:教育「大人たちのアンラーニング」のススメ 第1回『なぜ、教育にアンラーニングが求められているのか』
法政大学|【法政の研究ブランドvol.10】“越境”から“アンラーニング”へ続く学びから新たな視野を手に入れよう(経営学部経営学科 長岡 健 教授)
「私はこれができる」が通用しなくなる?
自分のスキルはもう役に立たないのか――じつのところ、筆者はこういった思いを過去にたくさん経験してきました。
たとえばレタリング(手書きのデザイン文字)、手書きのテキスタイルデザイン(柄を連続してつなぎ合わせたもの)、手書きの縫製仕様書や手づくりのプレゼン資料などの作成といったスキルは、パソコンの登場で必要がなくなった、筆者の古いスキルです。
また、最近は生成AIの登場で、デザインソフトを使って印刷物をデザインするスキルや、簡単なWEBサイトをつくるスキルなども、力を弱められた気がします。
一般的にはこういった例もあるでしょう――デジタル化の波が押し寄せ、長年にわたり伝統的な販売戦略(顧客と直接会う、電話をする、紙媒体を用いる、ダイレクトメールを活用するなど)で成功してきた企業が、オンラインマーケティングやEコマースへのシフトを余儀なくされている、といった状況です。
新しい技術の登場により、熟練のソフトウェア開発者が長年使用してきたプログラミング言語や開発手法が、ガラリと変わってしまう可能性だってあるわけです。つまり、「私はこれができる」が通用しなくなるということ。こんな事態になれば、誰だって落ち込んでしまいますよね。
とはいえ筆者は、過去に手で作業していた仕事をすべてパソコン作業に移行し、なんとか時代の変化に対応することができています。仕事へのこうした姿勢は、加速度的に進化し続けるこの先の時代にも、きっと通用するでしょう。
既存のスキルは維持・向上を心がけつつ、その一方で、たとえばAIを有能なアシスタントとして活用するべくプロンプト(AIへの指示)の習熟度を高めるといったように、新たな技術を実践しながら磨いていくということです。
昔ながらの販売戦略を行なってきた企業だって、販売方法や顧客との関わり方を見直して残すところは残し、同時に会社全体で、デジタル技術やオンラインコミュニケーションの新しいスキルを学んでいけばいいのです。
熟練のソフトウェア開発者も、既存の知識と技術を生かしながら、忘れていいものは忘れ、同時に現代の要求に合った知識と技術を更新していけばいいのではないでしょうか。こういった変化はまさに、今回のテーマであるアンラーニングと言えるはずです。
「アンラーニング(unlearning)」とは?
学びに対する関心が高い方なら、「アンラーニング」という言葉をすでに聞いたことがあるでしょう。なかには、「いまもっているスキルはいったん捨てなさい、ということでしょ? でも捨てろと言われてもな……」と感じている方がいるかもしれません。
ここでお伝えしたいのは、いまもっている知識やスキルを全否定しなくていい、ということです。
組織学習の提唱者であるボー・ヘドバーグ氏は、アンラーニングについて「時代遅れとなったり、妥当性を欠くようになった知識を捨て去り、それをより妥当性の高い新たなものへと置き換えていくこと」と説いたそうですが――
(参考およびカギカッコ内引用元:PHP人材開発|「アンラーニング」とは~変化に対応するためのヒント)
次に紹介する識者らの多種多様な表現を見ていくと、もう少しアンラーニングに対する理解が深まり、実践してみたくなるかもしれません。
- 青山学院大学経営学部教授の松尾睦氏(当時は北海道大学教授)の説明。
硬直した知識・スキルを「ほぐし」て、要らないパーツは捨てて、新たなパーツを仕入れる。そうやって組み替えていくことがアンラーニングです。
(引用元:パーソル総合研究所|アンラーニングしなければ、人と組織は成長を続けられない)
- 組織人事コンサルティングサービスなどを行なう株式会社ITSUDATSUの代表取締役・黒澤伶氏の説明。
アンラーニングとは「これまでに学習してきたことを『捨て去る』ことではなく、既存の価値観に『気づき』、今の古い習慣やスキルを軌道修正・アップデートしていくこと」
(カギカッコ内含む引用元:PR TIMES STORY|まずは「個人レベル」から。組織アンラーニング成功への極意とは)
- 教育ジャーナリストの後藤健夫氏による説明。
「古いものを一旦忘れて、新しい状況での思考や行動を試みる」ことがアンラーニングです。
(引用元:VIEW next ONLINE|連載:教育「大人たちのアンラーニング」のススメ 第1回『なぜ、教育にアンラーニングが求められているのか』)
つまりアンラーニングとは、これまで培ったものを否定するのではなく、凝り固まったものをほぐして、並べて、取捨選択して、組み替えた結果、新しい状況に合わせて考えや行動が更新されることを意味するのではないでしょうか。
「アンラーニング」はどう実践するのか?
では、アンラーニングを実践するための具体的な方法とはどのようなものでしょうか? そのキーワードとなるのは「越境」です。
『みんなのアンラーニング論 組織に縛られずに働く、生きる、学ぶ』(翔泳社)の著者で法政大学経営学部教授の長岡健氏によると、アンラーニングは「越境」という行為の結果、起きるのだそうです。
「越境」とは、たとえばいままで行かなかったようなセミナーに参加してみたり、これまで交流がなかったタイプの人々と交流してみたりなど、自分が安心するゾーンを離れ、あえて不安定な状況に身を置き――
- 当たり前だと思っていた考えを揺さぶる
- 自問自答する
- 将来の方向性・仕事のやり方などを見つめ直す
ことなのだとか。となると、いま筆者が実践するべきなのは、この「越境」ということになります。
そこで、初めて会うわけではないものの、普段あまり交流できない人々との接触を心がけてみました。すると、そのなかの国際機関で働く女性が、筆者の心を揺さぶってくれたのです。
多くの年月を開発途上国で過ごし、長期的な支援を行なう彼女の話やすすめてくれた本などは、いつも忙しく何かに追われ、時間が足りないと感じている筆者に、いったん立ち止まることを教えてくれました。
そして、それは長岡氏の言葉にも重なったのです。同氏によれば、凝り固まっている自分を解きほぐし、新しい学びと可能性のヒントを探る際に重要なのは、焦らず短期的な効果を期待しないことなのだとか。合理的な考えを取り除かないと、越境はできないとのこと(参考元:法政大学|【法政の研究ブランドvol.10】“越境”から“アンラーニング”へ続く学びから新たな視野を手に入れよう(経営学部経営学科 長岡 健 教授))。
そこから、なんとなく頭に浮かんだのは、これでした。
つまり、筆者が得たヒントは「若くないし時間もかかるので、いまさらやっても仕方がない」という発想をやめることでした。長期的な発想に変えていくことにしたのです。
そうなると、プログラミングや動画編集など、世の中で人気がある “自分はできないこと” を、習得したい気持ちが湧いてきました。方向性が少し変わるだけでも大きく影響されるものですね。
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よろしければいろんな人と交流し、「越境」してみてください。思わぬ結果(アンラーニング)が起こるかもしれません。