あなたが買い物に出かけると、足を踏み入れるほぼすべてのお店で音楽が流れているでしょう。これらはBGMとして「空間の質の向上」を狙いとしているというのは有名な話ですよね。 最近ではそういった人気BGMを収録したCDが販売されるなど、個人での作業空間にもBGMが取り入れられるようになってきました。
では、これらの音楽は具体的にはどのような効果をもたらしているのでしょうか? BGMの作用を知ることで、勉強や書類作成などのあらゆる作業を効率的に行うカギが見えてきます。
音楽を処理する特別な神経経路がある!?
MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究をもとに、New York Timesが次のような論旨の記事を書きました。
空気の振動として伝えられた音を、内耳で電気信号に変換します。その電気信号は脳の聴覚野で処理されます。そこでの処理の仕方は、会話などの「音」と、BGMなどの「音楽」では神経の経路が異なっているようです
(引用: NewYorkTimes, New Ways Into the Brain’s ‘Music Room’ , )
歌の入った音楽を聞くと歌詞に気を取られてしまい、今やっている勉強などの理解がおろそかになり集中力が低下した、という経験にも説明がつくかもしれません。 このようなことから、BGMには歌詞の無いインストゥルメンタルを用いるのが作業効率の向上に結び付くと考えられます。
単純作業の時に効果が大きい
脳が音を処理する際には「知覚」から「認知」という2つのステップを経ています。知覚は単に音を聞いている状態で、認知は音を聞き取り内容を想起している、いわゆる「聴いている状態」です。ここで脳の働き方を見てみると、以下のようになっています。
深い思考を要する知的作業を行っているときには、その思考に必要な脳の一部分のみが活性化されており、他の領域は働きが抑制されている。
(引用元: BGMの効果および問題点の研究)
つまり、BGMを認知すると知的作業に必要な領域以外も活性化させてしまうため、結果として作業効率は低下し、深い思考を伴う作業には向かないことが分かります。 逆に「いかに手を動かすか」が求められる単純作業では、認知を必要としない曲であれば音楽によるストレス軽減効果によって高い効率が期待できるかもしれませんね。
マスキング効果
マスキング効果とは、
高い周波数の音が低い周波数の音を掻き消すことをいいます。周波数が近いほどこの効果は大きく現れます。
(引用:BGM効果研究室)
喫茶店や、coworking spaceでBGMが使われているのは、マスキングによってほかの人の会話や物音の影響を小さくするためです。同じくしゃみをするにしても、図書館などの静かな空間と、飲食店のような音のある空間では全く聞こえ方が異なるのも同様の効果によると考えられます。
このように場所の雰囲気に合わせて、かける音楽を変えるというのも重要な戦略ですね。
BGMのテンポと効率の間には相関がみられない
筆者がアパレルショップでアルバイトをしていた時に、上司にBGMの選び方について尋ねると次の答えが返ってきました。「お客さんが少ない時間帯にはテンポの早いBGMを使用して、多くのアイテムを手に取ってもらい、多い時間帯にはテンポの遅いBGMを使用して、滞留時間を伸ばしている」
これらはいずれも対象者が、BGMのテンポによって商品を見る「効率」を制御できるという仮説に基づいています。しかし、実際にはこの仮説は成り立たないようです。
実際に実験を行った成城大学のグループによると、
音楽を聴きながら歩く「歩行課題」と、思考を要する「計算課題」、パソコンを用いた「入力作業」では効率の変化に大きな差がありました。歩行課題では効率の上昇が見られた一方で、計算課題では影響はありませんでした。それどころか、パソコン入力課題において作業の種類によって快適なテンポがあり,それを超えたテンポの速さではミスを誘発する可能性も示されました。
(引用元: BGM のテンポの違いが作業効率に与える影響)
この実験から、ある程度音楽の持つ効果はあるものの、テンポの早い曲が必ずしも高い効率につながるのではないということを心にとめておく必要があります。
*** 私たちの周りにあふれるBGMが少なからず行動に影響を与えていることがお分かりいただけたと思います。様々なBGMの長所と短所をよく理解して、最適なBGMと共に最も効率の良い環境を構築してください。
参考文献 NewYorkTimes|New Ways Into the Brain’s ‘Music Room’ BGM のテンポの違いが作業効率に与える影響, BGMの効果及び問題点の研究