人の悩みの多くは人間関係に起因している――。そう聞いて納得する人も多いのではないでしょうか。思えば、プライベートでも仕事でも、ほとんどの悩みにはコミュニケーションの問題が横たわっています。Study Hackerでも記事になることが多いアドラー心理学にいたっては、「人間の悩みはすべて対人関係の悩みである」といい切っているほどです。
では、人間関係は広ければいいのでしょうか、それとも深いほうがいいのでしょうか。 今回は、齋藤孝さんが考える「長続きする大人の人間関係の在り方」をご紹介します。
【格言】 人間関係は「濃ければいい」のではありません。 福沢諭吉も「親友はいない」といっているではありませんか
「君子の交わりは淡きこと水の如し 小人の交わりは甘きこと醴の如し」。『荘子』の山木篇に記された言葉です。 「醴」とは甘酒のこと。つまり、君子はさらっとした水のようなつき合いをするけれど、小人はべたべたした甘酒のようなつき合いをするということです。そして、小人の濃いつき合いは長続きしないとも教えています。
福沢諭吉も『福翁自伝』で「莫逆の友(親友)はいない」と述べています。これは「親友をつくるな」という意味ではなく、必要以上に深入りしすぎるなという戒めだと思われます。
たしかに、わたしの周囲を見渡しても、人に対する思い入れが強い人ほど、その人が自分の望みどおりに動いてくれなかったときに「裏切られた」とか「冷たい」などと恨み言を口にします。
しかし、人間とはそういうもの。勝手な期待はせずに、もっと淡々とつき合ったほうが、結局は長くいい関係でいられるのです。 いわば、「淡交力」ですね。
【プロフィール】 齋藤孝(さいとう・たかし) 明治大学文学部教授。1960年、静岡県に生まれる。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士過程を経て、現職に至る。『身体感覚を取り戻す』(NHK出版)で新潮学芸賞受賞。『声に出して読みたい日本語』(毎日出版文化賞特別賞、2002年新語・流行語大賞ベスト10、草思社)がシリーズ260万部のベストセラーになり日本語ブームをつくった。著書には『読書力』『コミュニケーション力』『新しい学力』(岩波新書)、『理想の国語教科書』(文藝春秋)、『質問力』『現代語訳学問のすすめ』(筑摩書房)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、『語彙力こそが教養である』『文脈力こそが知性である』(角川新書)などがある。TBSテレビ「情報7daysニュースキャスター」など、テレビ出演も多数。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」の総合指導を行っている。著書累計出版部数は1000万部を超える。
Photo◎佐藤克秋
*** 複雑な人間関係も一歩引いた地点からアプローチしてみると、からまっていた糸がほどけるように問題が解決していくことがあります。なによりも、必要以上に人間関係に関わらないことで、自分の心がふっと軽くなる瞬間を感じられるようになるかもしれません。
お互いの思いを押しつけて傷つけ合わない、そんなシンプルで爽やかな大人の人間関係を心がけたいものですよね。