「本に線を引く」「図書館で本を読む」の意外すぎるデメリット【読書のアレコレ徹底比較】

読書は知識や語彙力はもちろんのこと、想像力を養い、集中力を高め、ストレスまでも軽減するといいます。今回は、そんな読書にまつわるアレコレを徹底比較いたします。

積読って悪? それとも放置しちゃってOK?

“積んでおく”と“読む”をかけた造語「積読(ツンドク)」は、買った本をそのまま読まずに置いておくこと。この言葉の考案者は、明治・大正期の経済学者で、政治家、官僚、そして第6代目東京市長の田尻稲次郎氏だといわれています。

――【積読の悪いところ】

「積読」は読書家に多いといいます。なぜならば、本好きな人は、本を読む以上にせっせと書店に足を運び、どんどん本を購入してしまうから。人によっては数千冊もため込み、消化に頭を悩ませているそうです。

つまり、「積読」のデメリットはスペースを占拠してしまうこと。そして、「買ったのに読んでいない」という後ろめたさが生じてしまうことです。スペースを確保できなくなったり、「積読」本からの圧力がストレスになったりすると、結局は読まずに売ってしまうこともあるのだとか。

――【積読のいいところ】

しかし、テレビでもおなじみの精神科医・名越康文氏は、「積読」には読み終わったあとの「成長した自分=なりたい自分」が投影されているといいます。

同氏いわく、「成長への動機づけという点で言えば、本代だけならコストパフォーマンスが高い」とのこと。また、東京大学文学部の教授もこう述べたそう。

「読みきれるか心配して本を買うのをためらうとき、君は大きな損失をしている。買わない時点で読む選択肢は消えるのだし、その本に二度と出会えなくなるかもしれない。だからとりあえず買っておく。手元にあればいつでも読めるし、本は腐ったりしないのだから」

(引用元:Study Hacker|“積読” は解消の必要なし! 東大教授に学ぶ、”積読” ほんとうの価値。

「積読」が、“すぐそこ” にある知識と情報の山であることは確かであり、“成長への動機づけ” と考えれば決してムダではないはず。極端に本が増殖しないよう、大量の買い込みに注意していくといいかもしれませんね。

本は真っ白のままがいい? それとも線を引くべき?

読み進めている本の大事なところに線を引いたり、余白に書き込んだりしますか? それとも、何も書き込まず真っ白のままでしょうか。さまざまな見解があるので、そこからメリット・デメリットを探りましょう。

――【本には線を引かず真っ白のままがいい理由】

本に線を引くデメリットのひとつは、「本が汚れてしまうこと」です。また、書評家・フリーランスライターの印南敦史氏は、本に線を引いたという事実に安心し、その瞬間から内容を忘れる可能性についても言及しています。

たとえば、早稲田大学准教授で精神科医の西多昌規氏は、こまめにメモをとることがワーキングメモリ不足の効果的な方法だと著書のなかで述べています。情報を外に出してしまえば、脳のメモリに余裕が生まれるからです。

つまり、本に線を引かないほうがいい理由は、本を汚してしまうから、そして、線を引いた部分が頭から切り離されてしまう可能性があるからです。

――【本にはどんどん書き込んだほうがいい理由】

しかし、一方で、線を引いたほうが覚えやすいという意見もあります。

教育学者、作家、そして明治大学文学部教授の斎藤孝氏は、著書『三色ボールペンで読む日本語』のなかで、本に線を引くことをすすめています。三色ボールペンを使い、大事なところや興味深いところに線を引いていくと、読み終わるころにはその本が「自分だけのノート」になるとのこと。

また、民俗学者の梅棹忠夫氏や、以前あった五千円札の肖像として知られる思想家の新渡戸稲造氏、建築評論家の川添登氏、著述家の松岡正剛氏らも、本をノートがわりにして気になったことや、浮かんだ発想、考えなどを書き込み、マーキングしていたそう。マイクロソフトの共同創業者・元会長兼顧問のビル・ゲイツ氏も「本の余白にメモすることは、本の内容について熟考するのに役立つ」と語っています。

本を読み返す際、ポイントを見つけやすいのも利点ですね。アウトプットを同時に行っていることになるので、記憶の定着にも役立つと考えられます。

たくさんの本を高速で読むべき? それとも1冊を熟読?

より多くの本を速読するのがベストでしょうか。それとも、1冊の本を熟読するほうがいいのでしょうか。3人の識者がくれた言葉から、いい面・悪い面、新たな側面を掘り下げます。

――【多読・速読のメリット・デメリット】

警察署にて防犯のコミュニケーションデザインを担当した経験を持つ、株式会社アップウェブ代表取締役の藤田尚弓氏は、多読・速読のメリットを以下のとおり伝えています。

1.短時間で読めるから挫折しない 2.読書から学んだことを実践する時間ができる 3.時間をかけず情報収集できるので問題解決の選択肢が増える 4.しっかり読む部分・読まない部分の選択で決断力がアップ

その反面、以下デメリットがあるとのこと。

1.本代がかかる 2.本の保管場所に困る

――【熟読のメリット・デメリット】

東京大学社会科学研究所助教授の玄田有史氏は、大学院生を指導するとき、参考文献は最近のものだけでなく、過去の重要な研究にまでさかのぼり、出来るかぎり熟読することをすすめるそう。そのほうが、わかりやすくなるのはもちろんのこと、意義も、より明確になるからです。

この指導は論文に対するものですが、「熟読」が「熟考」につながるのは明白です。そうして熟読するうち、著者の意見に自分なりの意見が付加されて、新しい思考パターンが生まれるはず。

しかし、そのぶん、より多くの本に出会い、吸収していくための時間が減るのも確かです。

――【「速読」と「熟読」は使いこなすべし?】

作家で、元外務省主任分析官の佐藤優氏は「速読」と「熟読」を使いこなすことで、大量の本を読みこなせるようになったと話しています。まず、「速読で済ませる本」と「時間をかけて熟読する本」に仕分けるのだそう。

たとえば、「速読:趣味や娯楽で読む本」と「熟読:仕事や勉強で読む本」「速読:ちょっと気になる本」と「熟読:ものすごく興味があることの本」など。仕分け方はさまざまですが、佐藤氏の場合は、基礎的な知識を身につけるための本や、書評を書く必要がある本、近いうち仕事に直結する内容の本は、時間をかけてじっくり熟読するそう。

それら以外は「速読」ということになりますが、「基礎知識のない本は速読できない」とのこと。そう説明しつつ、同氏は「自分なりの読書法」を磨くようアドバイスしています。

本を読むなら自宅? 電車? 図書館?

最後に、読書をする場所のメリット・デメリットを探ります。書店・出版業界のプラットホーム「コトビー」によると、読書に快適な場所ランキングのトップ3は「1位:自宅の机」「2位:電車のなか」「3位:図書館」とのこと。この3つを掘り下げましょう。

――【自宅は最高のプライベート空間だけど……】

自宅は、どんな格好でも、どんな態勢でも、何時間でも思う存分読書することができる、最高に自由な読書空間だといえるでしょう。

しかし、家族と同居の場合は落ち着いて読書ができなかったり、ほかにやること(掃除や洗濯など)が気になったりして、集中できない可能性もあります。

――【程よい雑音と揺れがある電車の中だけど……】

電車は静かすぎず、かといって極端に騒々しくない場所なので、運よく座れたら、そこは快適な読書空間になります。乗車駅から下車駅までという区切りがあるので、集中しやすい環境ともいえます。

しかし、東京工業大学の伊能教夫教授によれば、電車は「眠りやすくなる1Hz程度の振動」を含んでいることが多いそう。「よーし座れた、じっくり読むぞ!」と本を開いたはいいものの、眠気との戦いが勃発する可能性があるわけです。

――【本を読む人のための図書館だけど……】

本を読むなら図書館という人が多いのは当然のこと。無料で読める、あらゆる種類の本があり、静かな環境で読書に集中できるからです。もちろん、勉強にも最適な場所であり、そのメリットは読書とほぼ同じだといえます。

1、静粛である 2、長時間滞在することができる 3、訪れる人の目的が限られている

ただし、静寂な場所は、刺激が少なすぎて集中できないことがあるそう。また、Journal of Consumer Research の2012年12月号に掲載された研究では、適度な雑音があるほうが、創造性を高めると示されています。

*** 読書にまつわるアレコレを徹底比較いたしました。それぞれの見方・考え方によって、いい面も悪い面もあることがわかります。大切なのは、自分の目的やスタイルにフィットしているかどうか。これまでの内容を参考にしつつ、自分にあった読書スタイル、読書術、読書空間を見つけてくださいね。

なお、こちらの記事『“積読” は解消の必要なし! 東大教授に学ぶ、”積読” ほんとうの価値。』には積読にスポットを当てています。よろしければ、あわせてご覧ください。

(参考) 斎藤孝著(2005),『三色ボールペンで読む日本語』,角川書店. 西多昌規(2017),『科学的に「苦手意識」をなくす技術』,パンダ・パブリッシング . 東大家庭教師友の会著(2014),『現役東大生が実践している「勉強法」のきほん』,翔泳社. タウンワークマガジン|本を買っても読まない“積ん読(つんどく)”の効用(名越康文) ダイヤモンド・オンライン|「線引き読書」ほどムダなものはない! | 遅読家のための読書術 Study Hacker|なぜ本の内容が頭に入ってこないのか? 優れた読書人たちに学ぶ「身につく読書術」 東洋経済オンライン|佐藤優「月間300冊の読書は、これで可能だ」 | リーダーシップ・教養・資格・スキル All About|速読のメリットとデメリット 日本労働研究雑誌 バックナンバー(年別)|労働政策研究・研修機構(JILPT)|日本労働研究雑誌 2005年11月号(No.544)|投稿のすすめ―私的経験から 乗りものニュース|なぜ電車だと眠くなる? 研究でわかったその理由 快眠への活用も JSTOR|Is Noise Always Bad? Exploring the Effects of Ambient Noise on Creative

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