夜寝る前の “たった数分” でできる疲労回復習慣。医師もすすめる「脳のストレッチ」が効く。

「以前と比べてボーっとする時間が増え、集中できなくなった」「体がだるくて、やる気が出ない」という人は、心身の疲労回復が充分にできていないのかもしれません。

疲労の放置は心身の慢性的な不調を招き、仕事や学業の妨げになります。一方で、その日の疲れを取り除く方法を知っていれば、翌日の作業効率を向上させることが可能です。

今回は、夜寝る前の “たった数分間” で行なえる、お手軽な疲労回復術をご紹介しましょう。

“疲労の放置” が危険すぎる理由

疲労は、身体の疲れである「肉体的疲労」と、心の疲れである「精神的疲労」に分けられます。いずれの疲労も放置することは危険であり、心身に数多くの悪影響を及ぼします。

肉体的疲労を放置すると、筋肉痛・肩こり・体がだるいといった身体症状が現れます。さらに症状が重くなると、めまいや耳鳴りなどが続いて日常生活に支障をきたすおそれも。一方の精神的疲労の放置は、情緒不安定や集中力・気力・決断力の低下などを招く要因です。場合によっては、うつ病や心身症などを引き起こします。

2012年に厚生労働省疲労研究班が一般地域住民2,000人を対象に実施した疫学調査によれば、38.7%もの人が6ヶ月以上の慢性的な疲労を自覚しており、そのうち2.1%が日常生活に支障をきたすこともあるのだそう。疲労に関する研究に長年携わる、関西福祉科学大学教授の倉恒弘彦氏は、次のように述べています。

「疲労は痛み・発熱と並んで、体の異常や変調を知らせる三大アラームの一つ。人間にとって必要な感覚なのです」

(引用元:NIKKEI STYLE|その疲れは「休め」のサイン 慢性疲労に陥るメカニズム

その “体の悲鳴” を無視し続けることがどれだけ危険であるかは、想像するに難くありません。では、どうすればいいのでしょうか?

「夜の過ごし方」が重要なカギを握る

上でご紹介した肉体的疲労と精神的疲労は、自律神経(交感神経・副交感神経)を通して紐づく関係にあります。たとえば、ストレスによって精神的疲労が生じると、自律神経のうち交感神経が優位になります。交感神経は筋肉の緊張を起こして、筋肉痛を招いたり、血流の悪化によって肩こりを起こしたりするおそれがあるのです。

そのため、ほとんどの人が2つの疲労を同時に抱えており、肩こりや集中力の低下といった複数の悩みを抱えています。

東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身氏によれば、疲労は交感神経ばかりが働いていることに起因するのだそう。副交感神経を活発化させ、自律神経のバランスを整えるカギは、睡眠をはじめとした夜の生活習慣にあります

それではここからは、疲労回復のために夜にするべきことをご紹介していきます。

【1】就寝2時間前に「軽いストレッチ」を行なう

スポーツ&サイエンス代表・坂詰真氏によると、ほどよく体を動かすことは疲労回復を早めるのだそう。なかでも軽めのストレッチは、副交感神経を活発化させて筋肉の緊張をほぐし、血行を促進することで疲労回復に役立ちます。

坂詰氏は、疲れが溜まっているときは就寝前にスマートフォンを見るのをやめて、ストレッチを習慣にすることを推奨しています。また、ストレッチは睡眠を深める働きもあるので、就寝2時間前から始めるのがベターだそうです。以下の2つのストレッチがおすすめですよ。

<ハムストリングをほぐすストレッチ>

坂詰氏が推奨する、ベッドの上で寝転がりながらできるストレッチです。

  1. 両手を体の横に添えてあお向けの状態になり、両ひざを立てて足を腰幅に開きます。
  2. 両手で支えながら、左ひざ・右ひざの順に軽く曲げて胸に引き寄せ、ハムストリングの伸びを感じます。

<ふくらはぎを伸ばすストレッチ>

サッカー日本女子代表のフィジカルコーチである広瀬統一氏がすすめるストレッチです。

  1. 両手を腰にあて、左膝を軽く曲げて前方に体重をかけることで、右足のふくらはぎを伸ばします(20~30秒キープ)。
  2. 体重を中心に移動させ、右膝をゆっくり曲げます。足首に近い筋肉(ヒラメ筋)を意識してください(20~30秒キープ)。

【2】睡眠の質を高める「4つのルーティン」を実践する

睡眠は、疲労回復の代表的な方法のひとつです。しかし、なかには「寝ても疲れがとれない」という人もいることでしょう。精神科医・早稲田大学准教授である西多昌規氏によると、睡眠前に次の習慣を取り入れると睡眠の質が向上するそうです。

1. 寝る前にコップ1杯の常温水を飲む

身体の深部の温度を下げることで脳や身体を休ませ、スムーズに深い睡眠が得られます。また睡眠中の脱水症状の予防にもつながり、睡眠の持続に役立ちます。

2. リラックスできるアロマの香りをかぐ

ラベンダーやカモミールのアロマには、副交感神経を活発化させて心身をリラックスさせる働きがあります。寝る前にこれらのアロマの香りをかぐと、寝つきが良くなるそうです。(※禁忌事項にご注意ください)

3.目の周りを5分以上温める

デスクワークやスマートフォンの操作で疲れた目を蒸しタオルなどで温めると、入眠がよりスムーズになります。また、顔をほどよく刺激することは副交感神経の活発化につながります。

蒸しタオルは、水で濡らしたタオルをレンジで温めて作ります。3枚の濡れタオルを用意して、500Wの電子レンジならば1分半、600Wであれば1分間温めましょう。冷めたら次の温かい蒸しタオルに取り換えるといった要領で、5分以上目の周りを温めてください。

4. 丹田呼吸法で呼吸を整える

ベッドに入ったら、ヘソから指四本分下にある臍下丹田(せいかたんでん)に意識を集中させる丹田呼吸法で呼吸を整えましょう。息をゆっくり吐くことを意識すると、副交感神経の活発化につながり、リラックスした状態で入眠することができます。

【3】5~10分程度の「マインドフルネス瞑想」を行なう

ロサンゼルスの「TransHope Medical」で院長として、マインドフルネス認知療法などを取り入れる医師・久賀谷亮氏は、「脳のストレッチ」としてマインドフルネス瞑想を提案しています。

人間の脳は放っておくと、過去の嫌な出来事や将来への不安といった雑念が浮かんできます。こうした雑念は主に精神的疲労の原因になるので、瞑想を通して「今ここにいる自分」に意識を向けます。これが、ストレッチするように脳に柔軟性を取り戻させて疲れを癒すのです。あるがままの状態に身を委ね、心を開放するマインドフルネス瞑想を続けると、快眠や集中力向上といった働きが期待できますよ。

久賀谷氏によれば、1日5分~10分でもよいので、時間帯や場所を決めて毎日の習慣にすると、疲労回復に良いのだそう。マインドフルネス瞑想には、特別なルールはありません。正座やあぐらのほか、椅子に座って行なってもかまいませんし、ベッドに横たわって寝転がった状態で行なっても問題ありません。これなら、疲れて何もしたくないという人でも、始めやすいのではないでしょうか?

あまりに雑念が浮かんで気が散るという場合は、呼吸をしながら1から10までを数える「ラベリング」という手法を使うと続けやすくなります。

***
その日の疲労はその日のうちにケアするのが理想的です。心身の疲労が取り除かれたら、翌朝の目覚めのよさに、あなたはきっと驚くことでしょう。1日数分、夜寝る前にできるちょっとした工夫で、積極的に疲労回復を行なってあげましょう。

文 / かのえかな

(※記事中の人物の肩書は記事公開当時のものです)

(参考)
NIPRO|『疲労』を考える
NIKKEI STYLE|その疲れは「休め」のサイン 慢性疲労に陥るメカニズム
慢性疲労症候群の実態調査と客観的診断法の検証と普及(PDF
公益財団法人世田谷区保健センター|あなたの疲れの原因は?疲労の正体を見極めよう!
オフラボ|疲労の正体は自律神経のサビつきだった!【ストレス性疲労をオフしよう②】
フミナーズ|疲労回復にはまず睡眠!就寝前のコップ1杯の水でぐっすり快眠
東洋経済オンライン|これだけ!疲労回復を早める簡単ストレッチ
日経Gooday|睡眠の質向上、疲労回復には「静的ストレッチ」が効く!:そのやり方では効果なし! 間違いだらけのストレッチ
ダイヤモンド・オンライン|たった5日の瞑想でも、人間の脳が変わったという研究がある

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