皆さんには「積読」がありますか? 読もうと思ってもなかなか減っていかない未読の書籍がたまっているという人は、意外と多いことだと思います。
そもそも積読とは、
買っても机の上などに積んでいるだけで読んでいない本・新聞・雑誌等のこと。積ん読とも表記。 読書家なら必ず持っているもの。"本は腐らないから""出会いは一期一会だから""今読まなくても、ぜったい読むから"などと自分に言い訳する頃には、数百冊単位の積読を抱えている場合が多い。
(引用元:はてなキーワード|積読)
とされているように、読書に興味があるなら多くの人が持っているものなのです。
かく言う私も、自分は「積読家」の一人であると自負していて、その冊数は増えこそすれど一向に減ってはくれません。皆さんの中には、増えていく一方の積読に、いったいいつになったら読めるんだろう……と途方に暮れている方もいるのではないでしょうか?
一般的に積読は忌避される風潮があり、「積読をなくすための断捨離術」のような言葉も目につく今日この頃ですが、実は積読をすることは悪いことばかりではありません。私自身、積読の冊数には思い入れがあり、積読の良さを実感しています。積読するのも悪くないなと思える、積読のメリットをご紹介しましょう。
積読本は “買うこと”自体に意味がある
大量の本を持っているというイメージが強い大学教授。テレビなどでインタビューを受ける学者の背景に、ぎっしりと本が詰まった本棚が映っていることが多いですよね。
私は、東京大学文学部の教授に、本の詰まった研究室の本棚について訊ねてみたことがあります。「これだけの本を全部読んでいるんですよね?」と訊ねる私に、教授は「それは野暮な質問だよ」と笑いました。
「読みきれるか心配して本を買うのをためらうとき、君は大きな損失をしている。買わない時点で読む選択肢は消えるのだし、その本に二度と出会えなくなるかもしれない。だからとりあえず買っておく。手元にあればいつでも読めるし、本は腐ったりしないのだから」
教授の語る言葉にはやはり重みと説得力がありました。積読の多さに悩まされていた私は、その言葉に随分救われたのを覚えています。
積読は知的欲求の鏡
積読を忌避する風潮の根本には、「買うだけ買って読まないというのはお金の浪費だ」「本当に勤勉な人間は買った本を全部読むのだ」という考え方があると思います。けれど大学教授にだって沢山の積読があると考えると、実際はそうでもないことがわかります。
ここで積読のポジティブな面についてもう少し考えてみることにしましょう。
全国の書店員が売りたい本を投票形式で決める賞として有名な『本屋大賞』の立ち上げにも関わった、博報堂ケトルCEOの嶋浩一郎氏は、自著の中でこう述べています。
買った本が積まれた状況は、自分が知りたいことや欲求の鏡だといえます。それが目に入るところにあって、日常的にざっと眺めるだけでも、相当な知的刺激になります。
(引用元:嶋浩一郎(2013),『なぜ本屋に行くとアイデアが生まれるのか』, 祥伝社新書.)
積読が多い状況は「まだ本を読んでいない」ということを示すのも確かなのですが、それは裏を返せば「多くを知りたいと思っている」ことの証明でもあります。
ですから、本当に大切なのは「積読を減らす」ことではなく、むしろ「積読を活かす」ことの方なのです。
知識欲を無駄にしない、積読の活かし方
積読を活かす最良の方法は、もちろんそれを読むことです。しかしそうは言っても、本を次々読めるのならばそもそも積読なんて生まれませんよね。
そこで、積読が無意味になってしまわないためにも、上手く積読と付き合っていく方法を紹介します。
それは自分の本棚に「積読コーナー」を作ること。本棚ではなくても枕元だとか、タンスの上だとか、場所はどこでも構いません。大切なのはなるべく目のつきやすいところに、なるべく多くの積読を配置しておくということです。目につくことろに積読を置くべき理由は、脳のプライミング効果という仕組みにあります。
プライミング効果とは、先行する刺激(プライマー)の処理が後の刺激(ターゲット)の処理を促進または抑制する効果のことを指す。プライミング効果は潜在的(無意識的)な処理によって行われるのが特徴
(引用元:脳科学辞典|プライミング効果)
少し分かり易く説明しましょう。人間は目にした物や言葉をしばらく無意識下に留めています。その状態で、前に見ていた物や言葉を再度目にしたり、関連する物事に触れたりすると、脳が普段よりも敏感に反応するという仕組み。これが、プライミング効果です。
積読にもこのプライミング効果を活用するのです。目につくところに積読コーナーを作っておけば、否が応にも目に入ります。そのたびに「自分はこういうことに興味があるのだ」「こういうことを知りたがっている」と深層心理に刻み付けることで、あなたの感覚は研ぎ澄まされ、新鮮なひらめきが生まれてくることでしょう。
沢山の情報や機会が溢れる毎日の中で、ときとして、大事なチャンスは何かに埋もれて見えにくくなります。ですから、限られたチャンスの気配に敏感になり、素早く手を伸ばせることは非常に重要なことになります。そのチャンスは、あなたの積読の中に潜んでいるかもしれません。
せっかくの本を“死蔵化”させない
頻繁に目にする場所に積読コーナーを作っておけば、積読の存在を忘れて“死蔵化”してしまうのを防ぐことができます。
人間は忘れる生き物。エビングハウスの忘却曲線が示すところによると、人間は記憶したことを20分後には42%、1時間後には56%、1日後には74%も忘れてしまいます。しかし完全に忘れてしまう前に復習を行うと、その度に記憶の定着率は大きく向上するのです。
忘却曲線は、勉強における「復習の重要性」を説明するのによく使われますが、積読の死蔵化を防ぐのにも重要なポイントとなります。買ってから一度も目にしなかった本は、高確率で記憶から消えてしまうのです。もう既に持っている本を間違えて買ってしまった……なんて経験が、あなたにもありませんか?
積読は死蔵化させない限り、必ず自分の人生の中で息を吹き返してくれます。より具体的に言うと、積読のタイトルを見て「今真っ先に読むべきはこれだ!」と優先順位が入れ替わる機会が訪れるのです。
そんなひらめきが浮かんだ時が、本を読むのに絶好のタイミング。その好機に本を読めば、集中力も途切れにくく、内容にも深く入り込むことができ、読んだ本の内容が効率良く吸収することができるでしょう。
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積読はしないほうが良いなどと言われがちですが、最も忌避するべきは「積読を増やす」ことではなく「積読を忘れる」ことなのです。
一瞬で本を読み終えることができない限り、積読は読書家の証でもあります。積読を排除しようとするのではなく、むしろ上手に付き合っていくことで、読書経験をより豊かなものにできると良いですね。
(参考)
はてなキーワード|積読
嶋浩一郎(2013),『なぜ本屋に行くとアイデアが生まれるのか』, 祥伝社新書.
脳科学辞典|プライミング効果
Keyword Project+Psychology:心理学事典のブログ|エビングハウスの忘却曲線:人間の記憶機能と復習の有効性