交渉を制する者はビジネスを制す。交渉術の基本『BATNA』を知っていますか?

突然ですが、ここにひとつ問題を出します。

「営業担当のAさんは、社内でもトップクラスの営業成績をあげています。しかし、同期の社員と給料にまったく差がなく、不満を感じていたので、社長と上司に掛け合い、給料10%アップの確約を取りつけました。これは社内規定でいえば最高の上げ幅になります。年棒でいうと50万円ぐらいの昇給ですが、Aさんは100万円アップしてもらいたいと思っています。Aさんはこの提示を満足して受け入れるべきでしょうか?それとも、満足できないとすれば、どういう条件を相手に提示すればいいでしょうか?」

(引用元:瀧本哲史著(2012),『武器としての交渉思考』,講談社.)

みなさんはどう考えますか?

社内規定で最高の上げ幅なら受け入れるしかないのでは、と考えてしまいそう。しかし、Aさんの一見無茶そうな提案を、会社側に合理的に説明する方法が存在します。それはいったいどんなものなのでしょうか? そして、それを思いつくためにはどんな切り口で考えればいいのでしょう? 今回は、交渉学において基本の考え方である、「バトナ」についてご紹介します。

 

バトナとは

 

バトナとは、Best Alternative To a Negotiated Agreementの略でBATNAとも表記されます。簡単にいうと、「相手の提案に合意する以外の選択肢の中で、もっとも望ましい代替案」という意味です。

例えば、あなたが使わなくなった腕時計を売ろうとする時、買取店Aでは1万円で買うと言われたとしましょう。この時点では比較対象が無いのでA店との取引が合理的かどうかは判断できませんよね。次に、B店とC店に行き、B店では1万2千円、C店では1万5千円で買うと言われました。今度は、B店とC店という選択肢の中でC店が一番いいので、バトナはC店となります。こうなった場合、1万5千円以下でA店と取引することはなくなりますよね。逆に、1万5千円以上の値段で買ってもらえるのであれば、A店と取引すべきだということになります。

つまり、バトナを正しく把握しておくことで、「私はあなたと合意しなくても別のより良い選択肢があるので、それよりも良い条件でなければ合意しない」という立場を取ることができるのです。では、さっそくバトナの考え方を利用して冒頭の問題を考え直してみましょう。

 

バトナは不合理な交渉結果を避けるための武器になる

 

まず、現段階ではAさんが50万円の昇給で満足する合理的理由は存在しません。それは比較対象の情報がないためです。

そこでAさんは、他社において同じくらいの成績をあげた場合、どれほどの報酬をもらえるのかを調べます。そこで他社がもっといい給与を出す可能性が高いなら、その情報を交渉のカードとして利用できます。

さらに、交渉相手である会社側の選択肢を分析することも重要。そのために、「この交渉が決裂したらどうなるか」を考えます。仮に、Aさんが会社にもたらしている利益が1年で3,000万円だったとします。会社が100万円の給与アップを撥ねつけた結果、Aさんが転職してしまい、会社が3,000万円の利益を失うのならば、給与アップを認めたほうが合理的ですよね。会社側がこのことを理解してないなら、Aさんから提示することで要求が通る確率は高まります。

また、会社が自分のバトナ以下の条件しか提示出来ないのであれば、交渉から降りてもかまいません。このように、交渉の参加者のバトナを冷静に理解しておくことで、自分に不利な合意を防ぐことができるのです。

もちろん、現実問題としては、社内の人間関係や養わなければならない家族のことなどを勘案する必要もあるため、こう簡単にはいきません。しかし、仕事でもプライベートでも、なんらかの交渉を行う際にバトナについて検討することは、思考法として有効です。何事も、自分の要求が通ることばかりではありません。この場合なら自分のバトナは何なのか、また、相手のバトナは何なのか。それを知ることで、相互の利害を調整して合意に達することができるのです。

 

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バトナを相手に悟られてはいけない

 

自分と交渉相手のバトナを分析しておくことは大切ですが、同じように重要なのは、自分のバトナを相手に悟られないようにすること。

例えば、会社がAさんのバトナを高く見積もっているなら、「他の会社に行くと高く評価されるだろうから、なんとしても自社にとどめておこう」と考えて、バトナよりも高い報酬を提案してくるかもしれません。また、その逆でAさんのバトナを低く見積もり、低い報酬を打診してきたなら、他社ならもっと払うとカミングアウトすることで相手の動揺をさそい、優位に立つことができるでしょう。

つまり、相手側の認識次第で、バトナを低く見せたほうがいい場合もあるし、逆に高く見せたほうがいい場合もあるということです。

 

*** いかかでしょうか。 エンジェル投資家、瀧本哲史氏の著書『武器としての交渉思考』には、バトナ以外にも、交渉テクニックが豊富な例題とともに紹介されています。本記事に興味を持たれた方は間違いなく楽しめる内容となっています。ぜひ読んでみてください。

 

参考 瀧本哲史著(2012),『武器としての交渉思考』,講談社. GLOBIS MANAGEMENT SCHOOL|BATNAとは 交渉学と合意形成|Lecture #5: BATNA - Best Alternative to a Negotiated Agreement - 

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