日々の業務のなかで、同僚や後輩へフィードバックすることの難しさを感じる機会は多いのではないでしょうか。ミスや問題点を指摘する場合など、フィードバックする内容がネガティブな場合は、特に気を使いますよね。
近年では海外人材の採用を積極的に進めている企業も多いことから、外国人のメンバーにフィードバックをしなければならない方もいるでしょう。文化の異なる相手へフィードバックをするとなると、ますます大変なもの。今後、企業が多様な人材を受け入れるほど、社内コミュニケーションの難易度は上がってきます。
今回は、そんなフィードバックの上手な仕方について、実践の場ですぐに活用できる型をご紹介しながら解説していきます。社員のスキルやモチベーションを高めるフィードバックの方法を知りたい方は、ぜひ読み進めてみてください。
【この記事はこんな方におすすめ】
- フィードバックがうまくできないと悩んでいる方
- 外国人のメンバーへのフィードバックに苦戦している方
- 効果的なフィードバック方法を探している方
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。
パトリシア "ティッシ" ロビンソン著, 伊藤清彦訳, 岸田典子訳, 鈴木有香訳, 鈴木桂子訳(2023),『実践ダイバーシティマネジメント 多様なチームを率いるツールとスキル』, 日本経済新聞出版.
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フィードバックはなぜ難しい?
仕事においてのフィードバックとは、ある行動の結果に関する評価や改善点、指導やアドバイスのことです。「上司が部下に対してフィードバックを行なう」「先輩が後輩へフィードバックをする」といった場面が、あなたの職場でもよくあるでしょう。
フィードバックを行なう目的は、受け手(上の例であれば、部下や後輩)が自分の行動やパフォーマンスを理解し、必要に応じて改善するための洞察を、フィードバックをする側(上の例であれば、上司・先輩)が提供することにあります。
“相手の行動を改善するためのアドバイスをする” と口で言うのは簡単でも、実際にやってみると難しさを感じる方もいるかもしれません。フィードバックは人と人とのあいだで行なわれるものですから、当然ですよね。では、なぜ私たちはフィードバックを難しく感じてしまうのでしょうか?
「感情的な反応」が起きがちだから
「フィードバックをしたら、相手を怒らせるかも……」と心配になったことはありませんか? まさにこれが、フィードバックを難しく感じる1つめの理由です。
フィードバックを受けると、その内容を否定的に受け取り、感情的な反応を示す人がいます。フィードバックをする側が、人格否定にならないように建設的なフィードバックをしても、こうした反応は起こるかもしれません。過去に感情的な対立があった場合であればなおさらです。
フィードバックの受け手だけではなく、フィードバックをする側が感情的になってしまうことも。フィードバックをするつもりが、ついつい叱責のようになってしまった……という経験がある方も多いのではないでしょうか。
フィードバックをしたりされたりするときに「感情的にならない」ことは、意外と難しいものなのです。
「コミュニケーションスキル」が足りないから
効果的なフィードバックを行なうためには、適切な言葉を選び、ポジティブな意図を伝える能力が必要になります。これが足りないと、フィードバックが誤解を招いたり、受け手にとって有益にならなかったりする可能性が。
「フィードバックしても、伝わらない……」という状況に陥ってしまうせいで、「やっぱりフィードバックは難しい」と感じるのです。
また、適切なタイミングを見極めることも重要。受け手にとって忙しい時期やストレスが高いときにフィードバックを行なうと、相手はフィードバックを受け入れる準備ができていない可能性があります。相手の現状をふまえたうえで伝えることも、大切なコミュニケーションスキルです。
「文化の違い」によってフィードバックの受け取り方も異なるから
組織や社会の文化によって、フィードバックの受け取り方や伝え方が異なる場合があります。このことも、フィードバックを難しく感じる要因のひとつ。
たとえば、“直接的な批判を避ける文化” に属する相手には、フィードバックを間接的に表現する必要があります。ですが、相手がどういう文化の人で、どういう表現が適切なのか、適切に判断することは難しいですよね。
相手のバックグラウンドによって、フィードバック方法を変える必要があるのです。
※文化的要因によるコミュニケーションの違いについては、こちらの記事で詳しく解説しています。ぜひお読みください。
>>英語は話せるのに、なぜか英語だと意思疎通がうまくいかない理由。「暗黙の了解」は通じない?
続いては、上記のような要因によりフィードバックを難しく感じる人でも実践できる、型を使ったフィードバックの方法を見ていきましょう。
誰でもできるフィードバックの型「SOFNRメソッド」
誰でもできるフィードバックの型とは、「SOFNRメソッド」。心理学者マーシャル・ローゼンバーグ氏の非暴力コミュニケーションアプローチを採用したものです。
非暴力コミュニケーションとは、相手とのつながりをもち続けながら、お互いのニーズが満たされるまで話し合いを続けていくという、共感をもって臨むコミュニケーションの方法。
このアプローチをベースにしたSOFNRメソッドは、Situation(状況)、Observe(観察)、Feeling(感情)、Needs(真意)、Request(依頼)の5つのパートで構成されています。
ひとつずつ見ていきましょう。
- Situation(状況)
お互いの事実認識を一致させるために、出来事の日時と場所を提示する。 - Observe(観察)
相手の行動を観察し、事実を具体的に描写する。 - Feeling(感情)
相手の行動や言動があなたにどんな影響を与えたか、または、あなたがどんな気持ちになったかを具体的に言う。 - Needs(真意)
あなたがなぜその感情になったのか、あなたが大切にしている価値観とともに伝える。 - Request(依頼)
相手に対して実際にしてほしい行動を、肯定文で具体的かつ明確に伝える。
(※以上、パトリシア "ティッシ" ロビンソン著, 伊藤清彦訳, 岸田典子訳, 鈴木有香訳, 鈴木桂子訳(2023),『実践ダイバーシティマネジメント 多様なチームを率いるツールとスキル』, 日本経済新聞出版. よりまとめた)
この「SOFNRメソッド」という名前を知らなくても、こうした流れでフィードバックを行なうことが大事であると頭では理解している方は多いかもしれません。
しかし実際には、
- Situation(状況)→ Observe(観察)→ Request(依頼)と一足飛びにフィードバックを与えてしまう……。
- Feeling(感情)のところでつい感情的になり、肝心のRequest(依頼)を伝えきれないまま終わる……。
というケースも多いもの。結果的にフィードバックがうまくいかず、「やっぱりフィードバックは難しいものだ」と思ってしまうわけです。
SOFNRメソッドを順を追って実践すれば、相手とのつながりを壊すことなく、建設的なフィードバックを行なうことができます。その例を見ていきましょう。
SOFNRメソッドの実例
まずは、以下の設定をお読みください。
- 先週の金曜日15時に行なわれたプロジェクト進捗報告会で、Aさんが新入社員のBさんに対して「もう少し現実的でまともな提案を期待していた」と、全員の前で批判しました。
- Bさんはその後、自信がなくなったようで発言がぎこちなくなりました。
- あなたとあなたのチームは、創造性とオープンなコミュニケーションを大切にしています。
みなさんであれば、このAさんの発言をどう思われたでしょうか? もしもあなたが、AさんとBさんを含むチームのリーダーであり、Aさんに対してフィードバックするとしたら、どう伝えるでしょうか。
SOFNRメソッドの型にあてはめると、下記のようなフィードバックが考えられます。
S:状況(Situation)
「先週の金曜日に、15時から開催されたプロジェクトの進捗報告会でのことです」
O:観察(Observe)
「会議中、Bさんがプレゼンテーションを行なっているとき、あなたは彼の提案に対して、『もう少し現実的でまともな提案を期待していた』と公開的に批判しました。Bさんは明らかに動揺しており、そのあとの発言がぎこちなくなりました」
F:感情(Feelings)
「私はそのとき、不快に感じました。また、Bさんが今後自信をもって意見を述べることが難しくなるのではないかと心配です。チームとしての創造性と自由な意見交換は、私たちの強みのはずなのに、残念です」
N:真意(Needs)
「私はチーム内でのオープンなコミュニケーションと、全員が安心して意見を共有できる環境を大切にしています。この環境は、私たちが難しい課題に直面したときに、よりよい解決策を見つける助けになると考えています」
R:依頼(Request)
「今後、あなたには、会議中にもっと建設的な発言をしていただきたいです。特に、新入社員やほかのメンバーが提案をする際は、公開的な批判ではなく、具体的な改善点を個別に提案するなどの方法をとるようお願いします」
「口調」には要注意
ここまで、SOFNRメソッドについて概要と実例をご紹介してきましたが、実践する際にはひとつ注意点があります。
一橋ビジネススクール教授の、パトリシア "ティッシ" ロビンソン氏は著書のなかで、SOFNRメソッドを使用する際の依頼の口調(声のトーン)の影響力について述べています。
フィードバックの伝え方のほうが、メッセージそのものよりも大きな影響を与えることがよくある。(中略)口調や声のトーンはきわめて重要だ。
(引用元:パトリシア "ティッシ" ロビンソン著, 伊藤清彦訳, 岸田典子訳, 鈴木有香訳, 鈴木桂子訳(2023),『実践ダイバーシティマネジメント 多様なチームを率いるツールとスキル』, 日本経済新聞出版.)
相手にとって有益な内容でも、口調や声のトーンで台無しになってしまうということですね。
フィードバックは、落ち着いたトーンで行なうと効果的です。早口でまくしたてたり、きつめのトーンになったりしないように注意しましょう。口調や声のトーンは自分で思っているよりもコントロールしにくいもの。一度、録音して自分の口調や声のトーンを確認してみるのもいいでしょう。
SOFNRメソッドを活用したフィードバックを行なう場合は、口調、声のトーンについても意識してください。
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SOFNRメソッドは、普段のフィードバックだけではなく、英語で外国人社員へフィードバックするときにも効果的です。
いつも丁寧に前提を説明してフィードバックをしている方は、感情 (Feelings)と真意(Needs)の部分を意識して伝えてみましょう。
感情(Feelings)部分で感情的になりすぎてしまうという方は、状況(Situation)と観察(Observe)という前提部分を丁寧に説明してから、フィードバックを行なうといいでしょう。
SOFNRメソッドを使うことにより、改善のための建設的なフィードバックができるようになるはずです。ぜひ活用してみてください。