英語でビジネスをするため、「英語力の向上」だけにフォーカスしている方は多いのではないでしょうか?
もちろん、英語力を上げることは重要ではありますが、コミュニケーションは人間どうしが行なうもの。仕事相手や仕事仲間の国や文化について理解することも同じく大切です。
- 海外にルーツをもつ社員が増えてきて、コミュニケーションのスタイルに戸惑うことがある
- 英語力は問題ないはずなのに、外国籍の社員とのコミュニケーションになぜか苦労している
とお悩みの方や、
- これから海外人材の採用を強化したい
- 部門で英語公用語化を進めようとしている
という方に向けて、英語で仕事を行なう際に必ず押さえておきたいコミュニケーションスタイルの違いについて解説します。みなさまの会社でのさまざまな国籍の人どうしのコミュニケーションがよりスムーズになるよう、ぜひ本記事をお役立てください。
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。
柴田真一(2019), 『シンプルフレーズで相手を動かす! 初めてのビジネス英会話』, NHK出版.
ビジネス英語で意識すべき「3つのC」
仕事のために英語を学んでいる方は多いことでしょう。グローバル化が進む現代社会では、英語はビジネスの必須スキル。海外の資料の読み込みや、英語のレポート作成、プレゼンテーションなど、英語力が必要とされる場面は多岐に渡ります。
しかし、ビジネスでは、ただ英語を話せるだけでは不十分。仕事は「コミュニケーション」によって成り立つからです。違う国籍の人とも円滑な人間関係を築き、自分の意図を英語で効果的に伝えて成果を出すためには、日本と英語圏のコミュニケーションスタイルの違いを知ることが重要です。
その違いというのがこちら。NHKラジオ「ビジネス英語」講師の柴田真一氏によると、ビジネス英会話では3つのCを意識するといいそうです。
clear 明瞭
concise 簡潔
constructive 建設的言いたいことを過不足なくポジティブに表現することを心がけること。
結論をひと言で述べ、具体例を織り交ぜながら筋道を立てて話をすることです。
(引用元:柴田真一(2019), 『シンプルフレーズで相手を動かす! 初めてのビジネス英会話』, NHK出版.)
この3つのCに、英語のコミュニケーションスタイルの特徴が凝縮されていると言っても過言ではありません。では、そのスタイルとは具体的にどういったものなのか、日本と比較しながら解説しましょう。
ハイコンテクスト文化は “間接的” なアプローチ
「何を言いたいのかわからない」「もっとはっきりと意見を述べてほしい」——英語圏の人と接した際に、このように指摘をされた経験がある方は少なくないのではないでしょうか。
日本人が英語を使ったコミュニケーションに苦労する理由のひとつが、日本が「ハイコンテクスト文化」なのに対して、英語圏の多くの国が「ローコンテクスト文化」だからです。
ハイコンテクスト文化では、身振り、目の動き、表情、沈黙……といった非言語的手がかりがコミュニケーションの多くを占めています。言葉で直接的に伝えることを避けて、相手に敬意を表したり、微妙なニュアンスを伝えたりするのです。
簡単に言えば、直接的な表現よりも間接的なアプローチが好まれるのがハイコンテクスト文化。対立を避けて調和を保とうとする特徴があり、「暗黙の了解」のもとにコミュニケーションが成り立つことも多くあります。
イメージしにくい方のために、ハイコンテクスト文化における、上司と部下の会話例をひとつ挙げてみましょう。
上司:「最近、プロジェクトの進行はどうですか?」
部下:「はい、順調です。ただ、少し手が足りないかもしれません」
この短い会話の交換だけで、部下は実際には「もう少しサポートが必要かもしれない」というメッセージを控えめに伝えています。ハイコンテクスト文化では、直接的な要求や批判を避ける傾向があるため、このように間接的な表現が使われることが一般的です。会話を続けると——。
上司:「わかりました。どの部分で特に困っていますか?」
部下:「特定の分野ではないのですが、全体的に見直しをする時間がもう少しあれば……」
この部分では、部下は直接的には「もっと時間が必要だ」とは言いませんが、そのニーズを暗示していますね。上司には、この暗示を理解し、具体的なサポートを用意することが期待されます。
ハイコンテクスト文化をもつ国は、日本、韓国、中国、アラブ諸国、インドなど。ハイコンテクスト文化では、人々のあいだに共通の経験や背景知識が豊富にあることが前提とされます。たとえば、日本語を母語とする人が多い日本では、文化的な背景知識が自然と共有されていますよね。この文化的な背景が、非言語的な手がかりを理解し、間接的なコミュニケーションを可能にする基盤となっています。
ローコンテクスト文化は “直接的” なアプローチ
ローコンテクスト文化では、言葉がコミュニケーションの主な手段です。伝えたいことは、明確かつ具体的な言葉を用いて直接的に表現します。誤解を避けて情報を効率的に伝達することが、その目的です。
先ほどの会話例がローコンテクストであれば、下記のようになるでしょう。
上司:「プロジェクトの進捗状況はどうですか? 具体的にどこまで進んでいますか?」
部下:「プロジェクトはスケジュール通りに進んでいますが、現在のリソースでは次のフェーズの開始に遅れが生じる可能性があります。追加のサポートが必要だと考えています」
この会話では、部下はプロジェクトの現状と必要なサポートを具体的な言葉で明確に伝えていますよね。ローコンテクスト文化では、このように直接的なコミュニケーションが好まれ、推測を要する余地はほとんど残されないのです。会話を続けると——。
上司:「どのようなサポートが必要ですか? 具体的に教えてください」
部下:「追加のチームメンバーを2人割り当ててもらえると、スケジュール通りに進めることができます。特に、データ分析とデザインの作業に追加の手が必要です」
この会話では、どうすればうまくいくようになるかについて、建設的な提案をしています。ここまでのやり取りで、前述の3つのC「clear(明瞭)、concise(簡潔)、constructive(建設的)」が網羅されていますね。
上記のローコンテクストの会話例が、英語を直訳したような会話に見える方もいるかもしれません。ご明察のとおり、ローコンテクスト文化の代表的な国はアメリカです。
ローコンテクスト文化をもつ国をほかにも挙げると、ドイツ、スイス、スカンジナビア諸国。この文化では、共有された文化的背景や暗黙の了解よりも、明確な表現と言葉による、透明性・効率性の高いコミュニケーションが高く評価されます。そのため、問題が起きたとき、その解決に向けて明確な行動計画が立てやすいという点も特徴です。
そんなローコンテクスト文化のコミュニケーションは、ハイコンテクスト文化の国を生きる私たちからすると非常に直接的に感じられるもの。「ここまではっきり言うの?」と驚く方も多いかもしれません。そう感じてしまうほど、文化の違いは大きいのです。英語でのコミュニケーションを円滑に進めるには、3つのCを理解することがいかに重要か、よくわかりますね。
コミュニケーションスタイルが異なる人と接する際の注意点
文化の違いによってコミュニケーションスタイルが大きく異なることが、おわかりいただけたのではないでしょうか。特に、日本は世界的に見てもハイコンテクストの度合いが強い国。ローコンテクスト文化の人々と接する際には、誤解や齟齬によって人間関係に問題が生じることがないよう注意が必要です。
ここまで、ハイコンテクスト・ローコンテクストという文化の違いにフォーカスしてお伝えしてきましたが、前述したことのほかにも、ぜひみなさまに意識していただきたい大切なことが2点あります。
- ハイコンテクスト・ローコンテクストに優劣はない
ハイ・ローとついていますが、あくまで文化によるコミュニケーションスタイルの違いのため、当然ながら優劣はありません。大切なのは、相手のコミュニケーションスタイルを理解することです。 - 「英語話者=ローコンテクスト文化」とは限らない
ビジネス英語ではローコンテクストなコミュニケーションが好まれますが、ハイコンテクスト文化のインド出身の方が英語を使うケースもあります。そういった方が必ずしもローコンテクストなコミュニケーションを好むわけではありません。「英語を話す=ローコンテクスト」という決めつけをしないようにしましょう。
***
この記事では国によるコミュニケーションスタイルの違いについて、ハイコンテクスト・ローコンテクストという観点から解説しました。この違いを知ることで、異文化間でのコミュニケーションはより豊かで意味のあるものとなるはず。ぜひ参考にしてみてくださいね。